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エンディング

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 半年後、アリウム国は大きな式典を開いていた。


 「……はぁ」


 緊張を紛らわす溜息を一つ、その王女はつく。


 「あら、シルバ様緊張しています?」

 「それは、まぁ……人並みには緊張しますよ」

 「それは意外ですね、普段冷静なのに」

 「ミオ……私をなんだと思っているのですか、
  今日は新しく編成したアリウム騎士団の任命式ですよ?
  それに、実質的な国の統治を私が執り行うと宣言する意味合いも
  含んだ大事な催し、失敗したらと考えると緊張ぐらいします」


 シバ公爵によるジニア村襲撃から半年。

 シルバは帝都へ帰還すると、あらゆる問題に執りかかって全てを解決した。
 大きな事件となった王女暗殺計画、その首謀者であるシバに対しての処遇は重かった。

 が、極刑ではなく更生を期待しての処遇でもあり、彼は地位を失って生きる事となる。

 そして、シバの娘であるネネについては王女が自らシバへの関与を否定し、最低限の安全は確保されたのだ。

 しかし、シバ家の力は無くなり彼女は公爵の娘ではなく、唯の生娘となった。


 コンコンっ……。


 少し固まった心に響くノック音。

 シルバの私室のドアが叩かれると、ミオが応対した。


 「ん?なんでしょうか、式の直前でシルバ様に会いにくるなんて誰かしら」

 「さぁ……面会の予定はありませんので、知り合いでしょうか」

 「まったく、こういった急な事態には冷静なんですから」


 呆れ気味にミオはドアを開けると、そこには悠然と佇む白騎士がいた。


 「あぁ!!シュバルツ様っ!!お久しぶりです!!」

 「これはミオ殿……今日の式典に村から、いや……
  今は商業街ジニアでしたか、こちらに赴いていたのですね」

 「はいっ!!せっかくのおめでたい日なのでシルバ様にお呼ばれしまして、
  三日前から帝都入りしてその間に秘書として務めていました!!」

 「それは良かったです、シルバ王女様もお久しぶりです」

 「はい、シュバルツさんもお久ぶりです、良かったらかけてください」

 「失礼致します」


 終始爽やかな笑顔で話すと、白騎士は行儀よく椅子に座る。

 彼はミオと目が合うとにっこりと返し、シルバに視線を移した。


 「お忙しいところ、急な来訪すみません……ですが、
  どうしても伝えたい事がありまして、よろしいでしょうか?」

 「ええ、構いせんよ」

 「ありがとうございます」


 変わらない整った顔立ちと、紳士的な振る舞い。

 彼は今でもその才能を遺憾なく発揮して、任された領地をよくまとめていた。


 「―――改めて、ネネに対して行って頂いた措置、感謝致します、
  彼女も……妻も非常に感謝しており、是非お礼がしたいと言っておりました」

 「でしたら、帝都での要件が済んだらそちらに伺いましょうか、
  私も彼女とは会いたいですし、一度予定を組み直しましょう」

 「その際は、全身全霊を込めておもてなし致しますよ、
  ネネにもそう伝えますので、私も楽しみにお待ちします」


 優しく笑って、感謝を伝えるシュバルツ。

 彼は騎士団内で疑いをかけられたネネを最後まで守り、家名を第一とする家中の反対を押し切って結婚を強引に行った。

 もちろん、ネネ自身も献身的に彼を支え続け、それを裏切る事無く彼らは結ばれた。
 機械的な感情しか持たず、地位と名誉を優先していたシュバルツもまた、変化したのだ。

 シルバがそうであったように、白騎士も大切な人を見つけた。

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