天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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 「ミオも元気だったか?あれから腕もなんともないか?」

 「お気遣いありがとうございます、おかげさまでこの通りです!!」

 「おお、それなら大丈夫そうだな!!良かったぜ!!」

 「レッド王子、改めてその節ではお世話になりました、
  貴方がいなければ、今頃私は―――」

 「あぁ、気にすんな、俺は出来る事をやっただけだ、
  それに、ジニアの土地はバーベナにとっても重要な商業拠点だ、
  あれからも交易で良くしてもらってる、それで終わる話だろ?」

 「……レッド王子」

 「やめやめ、めでたい日にしけた話を掘り起こすものじゃねぇよ、
  それに、村を救った事でシルバ王女にアプローチするのは趣味じゃない」

 「そそ、その話なのですがっっ!!!
  レッド王子が剣術大会でプロポーズした話、本当ですかッ!?」

 「ん?そりゃ勿論!!剣を交えて確信したからな、
  こんなにも純粋で強い剣があるのか……ってな!!
  俺は迷わずに、あの時この想いを告げたって訳よ」

 「な、なな、なんと情熱的なッ!!!
  で、シルバ様的にはどうなんですッ!?アリなんですか!?」

 「………」


 どうしてこんな、周りの有力者たちが聞き耳を立てている場所で色恋を語るのか。

 彼と会う度、周囲の興味は私の婚約者の話で持ちきりとなり、その度にあの人がフォローして事なきを得ていた。


 「とりあえず、積もる話もありますが我々はこれで失礼しますね、
  レッド王子も今日の式典楽しんでご参加ください」

 「お、おう……」

 「ミオ、いつまで与太話をしているのです、行きますよ」

 「え、えぇー……でも」

 「穀物の収益……更に目標数値釣り上げようかなぁ……」

 「さ、早く奥へ行きましょう、レッド王子もまた後で」

 「あ、あぁ……」


 脅し代わりにパワーハラスメントを突き付け、シルバは事なきを得た。

 実際、シルバの婚約者候補は限られており、最も有力な候補にバーベナのレッド第二王子が上がっている。

 そのため、冗談でも彼との距離を縮めると両国への影響が出る。
 故に慎重に事を運び、レッドとはきちんとした距離感で接したかった。


 ―――だというのに。


 「頑張れよッ!!!王女様!!!」


 大声で檄を飛ばすレッド。

 それが許されるのは彼が王子という立場であり、紫電の英雄として呼ばれるため。
 
 気恥ずかしさに耐えて、シルバは部屋の奥へと姿を消した。


 「ふぅ……なんとも、疲れます」

 「けど、とても素敵な人ですよね、
 高貴な出自であるのに、私みたいな人にも対等に接してくれる」

 「―――そうですね、民との距離感が近いのでしょう、
 戦場で活躍していた人ですから、人の気持ちもよく理解している」

 「それでも、お気持ちははっきりしない感じですか?」

 「……どうでしょうか、そこに関しては私自身でもよくわかりません、
  ですが、絶対に嫌いでは無いですし、立場的な問題が無ければ
  もう少し近くに接したいと、そう、思っております」

 「むふ……今はまあ、それだけでお腹いっぱいです」

 「なんか誤解している気が……はぁ、いいですけど」


 あきらめ気味に肩を落とし、シルバは席に座る。
 式の発表まで時間もなく、したためた演説用の原文を読み込んで時間を使う。


 「シルバ様、私は衣装の確認と会場を見て来ます、
  しばらくここでお待ち下さい、一人で大丈夫ですよね?」

 「私は子供ですか……大丈夫ですから、気にせず行って下さい」

 「はーい、では」


 丸い眼鏡を揺らし、可愛らしい彼女は部屋を出る。

 急に一人になると、集中も切れて机に突っ伏す。


 「―――はぁ……」


 何度目かの溜息、理由はなんとなくわかる。

 支えが、精神的な拠り所が無いから。
 けどそれは甘えであり、頼り過ぎてもいけない。

 なのに、それなのに、彼の優しさを求めてしまう。


 「……ヒースぅ……」


 本当に小さく、誰にも聴こえない声で呟いた。

 会いたい。

 彼と話して、何気ない時間を共有したい。
 それだけで良かった、今の寂しさを補うのなら。


 「シルバ」


 不意に、呼ばれた私の名前。

 敬称も無く、ただその響きを呼ぶのは一人しかおらず、伏せていた顔を上げる。


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