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2話 山賊討伐の代償
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しおりを挟む―――翌日、馬車を引いてハイド山方面に向かう。
前回の盗賊戦とは違い、今回はこちらが仕掛けるために万全を期す。
必要な武器、想定される敵の戦力、退路の確保。
昨日それらを話された上で、私には雑務と道具の調整を言い渡された。
戦力にならないのではなく、そもそも山賊とは戦いにならないと断言した彼。
どんな光景になるかまったく予想できず、馬を撫でて先の道を急いだ。
「アリウム」
「はい、なんでしょうアルバートさん」
「敵は山賊だけではない、道中に不審な人間がいればすぐに報告しろ」
「わかりました、警戒します」
一言だけ言って後ろの見張りに戻る彼は、僅かに高揚している様に見えた。
感情の薄い彼の唯一見せる姿に、暴力的な記憶が一瞬映り恐怖が蘇る。
けれど、それだけではない優しさを知っているから何とかしたい。
これからの戦いに、決して負の感情だけではない意義を持たせるために。
「……」
静かに移動を始め数日、街道を超えて自然豊かな地域に出始めた頃。
ハイド山が遠くに見え始め、作戦の第一段階に取り掛かろうとしていた。
「アリウム、ここで止めてくれ」
「はい、わかりました」
「……場所を確認してから、ここから徒歩で移動する」
「荷物はどうしますか?」
「時間を掛けてもいい、少しずつ運んで陣地を作る」
「ですが、それだと本当に時間がかかってしまいますが……」
「相手は拠点を構えた山賊だ、そこから逃げる事はあり得ない、
ゆっくり準備し、こちらが安全に動いても問題ない」
人気のない林に馬車を隠し、荷物を確認して降ろしてゆく。
そこからは、ハイド山から一山ほど離れた隣の山岳地帯へ徒歩で登る。
足場の悪い道を、ペースを落とさず歩き続ける鎧の騎士は、大きな荷物と金属部品を抱えて疲れを見せず歩いていた。
「はぁっ……!!はぁっ……」
対して、アリウムは比較的に軽い荷物を背負って息を切らす。
足も震え、これ以上は歩けない程に疲弊した彼女を騎士は流し見る。
「―――アリウム」
「す、すみませんっ……はぁっ…ふぅっ…いま、追いつきますッ……!!」
「いや、いい、ここで少し休憩を取る」
「ですがっ……」
「言っただろう、ゆっくり準備し安全に動くと」
「はい……すみません……」
小さな彼女は罪悪感で胸が締め付けられ、荒れた呼吸を整えて座り込む。
自身の無力さを痛感して落ち込んでいると、彼は声を掛けた。
「水だ、呼吸が落ち着いたら無理をしてでも飲んでおけ」
「ありがとう、ございます……」
「明日の昼までに陣地を整える、それまでは無理をするな」
「―――はい」
声色は変わらない、だがその優しさに助けられて少女は涙を流す。
「なぜ、泣く」
「ごめんなさいっ…!!けど、情けなくてッ!!悔しくてッ!!
わたし……アルバートさんの役に立てなくてっ……それでっ……」
「―――そうか」
小さく、短く返答する騎士。
彼は荷物を降ろしてアリウムの隣に座る。
「アリウム、お前には決定的な才能がある」
「……え」
「大概の人間は恐怖を知ると、足がすくみ手も震え何も出来なくなる」
「それは私も同じです、賊に襲われた時にその感覚を知りました……」
「だが、お前はそれを知りながらナイフを賊に突き立てた」
あの時、無我夢中で掴んだナイフの柄。
確かに自分の意思で突き付けた切先だったが、それが特別とは思わなかった。
「恐怖を知らぬ者は、無謀も蛮勇も誇れる……が、その先に待つのは破滅だ、
けれどお前は恐怖しながらも、自分が弱いと知りつつ立ち向かった、
それは充分特別な才能であり、俺がお前を仲間にした決め手だ」
「そんな……私には、何も……」
「かつての俺もそうだった、ただ怯える事しか出来なかった弱者でも、
お前の様に立ち向かう事で前に進めた、だから焦らなくてもいい」
「ありがとうっ…ございます……」
涙ぐむ声を抑えて、少女は泣く。
騎士はただ、木々の木陰でそれを聞いてしばし、休むのであった。
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