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5.新しい生活
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想像していた通り、私たちは「白い結婚」となった。
もちろん、これは自ら望んだことではない。
私自身、もはや彼に愛情はない。そして、それは向こうも同じこと。しかし、そんな夫婦は世間にいっぱいいる。と言うよりも、貴族のほとんどは政略結婚なのだから、それこそみんなそうなわけで。
さらに自分の両親もそうだ。恋愛感情など無かったわけだが、私や弟や妹が生まれれば家族の愛情は生まれた。それなりに上手くやっていた。
できたら私たちもそうなればいいと思っていたのだが・・・。
「やっぱり今日も来ないわね・・・」
夜、私はゴロンとベッドに横になった。
一応、「いつでもどうぞ」的なセクシーなネグリジェを身に付けて待ってはいるのだけど。
「つまり『愛さない』というのは精神的な意味なだけではなくて、肉体的にもっていう事よね~」
まあ、分かっていましたけどね。結婚式であんな態度を取られれば。
「でもな~」
私は仰向けになり、ベッド天蓋向かって両手を差し出した。
右手で左指にしている結婚指輪をくるくる回してみる。
「孫の誕生を楽しみにしているのよね。お父様もお母様も・・・」
はあ~と大きく溜息を一つすると、パタンっと両手を落とし、広いベッドに大の字になった。
★
両親に孫を抱かせてあげたいという野望を抱いている私は、この「白い結婚」を打破しようと何とか足掻いてみた。
愛情は1ミリグラムも無いが、とは言って最初から諦めることはしなかった。なんとか家族として夫婦として上手くやれるように頑張ってみたのだ。
毎日にこやかに話しかけ、ご機嫌取りをする。まずはこれを心がけた。
朝、登城する時は必ずお見送りをして、帰りは笑顔で迎え入れる。
私の事を避けているようでありながらも、アーサーは毎朝の朝食と夕食は必ず一緒に取っていた。これは私にとって貴重な時間だった。アーサーとの距離を少しでも縮めようと毎日全力で挑んだ。
「おはようございます。良い朝ですわね!」
「今日の体調はいかがですか?」
「お仕事は忙しいんですの?」
「お帰りなさいませ。お仕事お疲れ様でした」
「今日から屋敷の離れの手入れが始まりましたわ」
「今日のメニューはアーサー様の健康を考えて、私が提案しましたの」
「今日のデザートは私のお気に入りです。アーサー様にもお気に召して頂ければ嬉しいのですが」
席も向かいに座らず、すぐ傍に座り、実質的な距離も縮めた。
朝食夕食、毎日一生懸命話しかけた。
だが、返ってくるのは面倒臭そうに「ああ」という返事のみ。こちらを見もしない。
それでも無視はされないことに、私は小さな光が見えた気がして、毎日にこやかに話しかけ続けた。
食事が終わると、必ずエントランスまで見送る。笑みを絶やさず、こちらに振り返りもしないアーサーの背に向けて、小さく手を振った。
そんな毎日を送っていた。
しかし、アーサーはビクともしなかった。
よほど私が嫌いなのか。もしくは潔癖か。はたまた男色なのか・・・。
それでも私は頑張った。
夜会に招待されれば、品の良い、それでいて派手過ぎず、アーサーが連れて歩いても恥じないように美しく着飾った。
色も彼の瞳に合わせたブルーを身に纏う事を心がけ、彼の装いとお揃いの色は必ず一つは身に付けた。しかし、いくら頑張って着飾っても、彼は私の装いについて褒めてくれることはない。
さらに、エスコートするのは最初だけ。
招待された屋敷に入り、ホストに二人そろって揃って挨拶すると、すぐに私を残し、一人で会場内に紛れてしまう。
この日も、懇意にしている伯爵家主催のパーティーに二人で招待された。
彼の差し出す手を取り、馬車を降りる。
そのまま彼の腕に手を添えて歩くが、その間中、彼は私を見もしない。
今日も気合を入れて、彼に見劣りしないよう大人っぽく着飾ってきたが何も言われない。
腕に手を添えていても、正直私たちの間には隙間がある。
よっぽど私と触れたくないようだ。
でも、一応新婚なんだから、もう少し仲睦まじいフリをしてくれないだろうか。
あんまりにもぎごちないのも周りの視線が・・・。ねえ?
そう思いチラリとアーサーを見ると、ムスッとした顔をしている。眉間に若干皺まで寄っている始末だ。
はあ・・・、いくらなんでも、そこまで嫌がらなくたって・・・。
私も今まで積もり積もっていたものがあり、かなり苛ついたので、嫌がられるのを承知でわざと体を寄せた。
そして、ずいっと顔を近づけて、可愛らしく尋ねた。
「アーサー様。お加減がよろしくないのですか?」
お加減じゃなくてご機嫌が悪いんですよねぇ? 知ってますヨ?
でもさ、その顔はないでしょ。笑えとは言わないが、もう少しマイルドな表情をしてくださいな。
そう思ったのだが、
「っ!」
アーサーはビクッと体を震わせると、無言で思いっきり顔を背けた。
「・・・アーサー様?」
「・・・」
無視かよ・・・、おい・・・。
しかも、そんなにそっぽ向いてたら真っ直ぐ歩けないでしょうが。
真横を向いて歩く彼を、私の方がエスコートする羽目になった。
会場に入り、真っ先にホストに挨拶する。
「レイモンド侯爵夫人。本当に今日も本当にお美しい。レイモンド様、このような方を奥方になさるとは、本当に羨ましいですな。なあ、お前」
「本当に。お二方はとってもお似合いですわ。今日は格別にお美しいですわ、夫人」
迎えてくれた老伯爵夫婦は、微笑んで優しい言葉を掛けてくれた。
私はお礼を言って微笑むとアーサーを見た。彼は貼り付いた笑顔で挨拶をしている。
他にも一通り目ぼしい人たちに夫婦で挨拶を終えると、アーサーは逃げるように私から離れていった。
そんな彼の後ろ姿を見て、私はとうとう限界が来てしまった。
もちろん、これは自ら望んだことではない。
私自身、もはや彼に愛情はない。そして、それは向こうも同じこと。しかし、そんな夫婦は世間にいっぱいいる。と言うよりも、貴族のほとんどは政略結婚なのだから、それこそみんなそうなわけで。
さらに自分の両親もそうだ。恋愛感情など無かったわけだが、私や弟や妹が生まれれば家族の愛情は生まれた。それなりに上手くやっていた。
できたら私たちもそうなればいいと思っていたのだが・・・。
「やっぱり今日も来ないわね・・・」
夜、私はゴロンとベッドに横になった。
一応、「いつでもどうぞ」的なセクシーなネグリジェを身に付けて待ってはいるのだけど。
「つまり『愛さない』というのは精神的な意味なだけではなくて、肉体的にもっていう事よね~」
まあ、分かっていましたけどね。結婚式であんな態度を取られれば。
「でもな~」
私は仰向けになり、ベッド天蓋向かって両手を差し出した。
右手で左指にしている結婚指輪をくるくる回してみる。
「孫の誕生を楽しみにしているのよね。お父様もお母様も・・・」
はあ~と大きく溜息を一つすると、パタンっと両手を落とし、広いベッドに大の字になった。
★
両親に孫を抱かせてあげたいという野望を抱いている私は、この「白い結婚」を打破しようと何とか足掻いてみた。
愛情は1ミリグラムも無いが、とは言って最初から諦めることはしなかった。なんとか家族として夫婦として上手くやれるように頑張ってみたのだ。
毎日にこやかに話しかけ、ご機嫌取りをする。まずはこれを心がけた。
朝、登城する時は必ずお見送りをして、帰りは笑顔で迎え入れる。
私の事を避けているようでありながらも、アーサーは毎朝の朝食と夕食は必ず一緒に取っていた。これは私にとって貴重な時間だった。アーサーとの距離を少しでも縮めようと毎日全力で挑んだ。
「おはようございます。良い朝ですわね!」
「今日の体調はいかがですか?」
「お仕事は忙しいんですの?」
「お帰りなさいませ。お仕事お疲れ様でした」
「今日から屋敷の離れの手入れが始まりましたわ」
「今日のメニューはアーサー様の健康を考えて、私が提案しましたの」
「今日のデザートは私のお気に入りです。アーサー様にもお気に召して頂ければ嬉しいのですが」
席も向かいに座らず、すぐ傍に座り、実質的な距離も縮めた。
朝食夕食、毎日一生懸命話しかけた。
だが、返ってくるのは面倒臭そうに「ああ」という返事のみ。こちらを見もしない。
それでも無視はされないことに、私は小さな光が見えた気がして、毎日にこやかに話しかけ続けた。
食事が終わると、必ずエントランスまで見送る。笑みを絶やさず、こちらに振り返りもしないアーサーの背に向けて、小さく手を振った。
そんな毎日を送っていた。
しかし、アーサーはビクともしなかった。
よほど私が嫌いなのか。もしくは潔癖か。はたまた男色なのか・・・。
それでも私は頑張った。
夜会に招待されれば、品の良い、それでいて派手過ぎず、アーサーが連れて歩いても恥じないように美しく着飾った。
色も彼の瞳に合わせたブルーを身に纏う事を心がけ、彼の装いとお揃いの色は必ず一つは身に付けた。しかし、いくら頑張って着飾っても、彼は私の装いについて褒めてくれることはない。
さらに、エスコートするのは最初だけ。
招待された屋敷に入り、ホストに二人そろって揃って挨拶すると、すぐに私を残し、一人で会場内に紛れてしまう。
この日も、懇意にしている伯爵家主催のパーティーに二人で招待された。
彼の差し出す手を取り、馬車を降りる。
そのまま彼の腕に手を添えて歩くが、その間中、彼は私を見もしない。
今日も気合を入れて、彼に見劣りしないよう大人っぽく着飾ってきたが何も言われない。
腕に手を添えていても、正直私たちの間には隙間がある。
よっぽど私と触れたくないようだ。
でも、一応新婚なんだから、もう少し仲睦まじいフリをしてくれないだろうか。
あんまりにもぎごちないのも周りの視線が・・・。ねえ?
そう思いチラリとアーサーを見ると、ムスッとした顔をしている。眉間に若干皺まで寄っている始末だ。
はあ・・・、いくらなんでも、そこまで嫌がらなくたって・・・。
私も今まで積もり積もっていたものがあり、かなり苛ついたので、嫌がられるのを承知でわざと体を寄せた。
そして、ずいっと顔を近づけて、可愛らしく尋ねた。
「アーサー様。お加減がよろしくないのですか?」
お加減じゃなくてご機嫌が悪いんですよねぇ? 知ってますヨ?
でもさ、その顔はないでしょ。笑えとは言わないが、もう少しマイルドな表情をしてくださいな。
そう思ったのだが、
「っ!」
アーサーはビクッと体を震わせると、無言で思いっきり顔を背けた。
「・・・アーサー様?」
「・・・」
無視かよ・・・、おい・・・。
しかも、そんなにそっぽ向いてたら真っ直ぐ歩けないでしょうが。
真横を向いて歩く彼を、私の方がエスコートする羽目になった。
会場に入り、真っ先にホストに挨拶する。
「レイモンド侯爵夫人。本当に今日も本当にお美しい。レイモンド様、このような方を奥方になさるとは、本当に羨ましいですな。なあ、お前」
「本当に。お二方はとってもお似合いですわ。今日は格別にお美しいですわ、夫人」
迎えてくれた老伯爵夫婦は、微笑んで優しい言葉を掛けてくれた。
私はお礼を言って微笑むとアーサーを見た。彼は貼り付いた笑顔で挨拶をしている。
他にも一通り目ぼしい人たちに夫婦で挨拶を終えると、アーサーは逃げるように私から離れていった。
そんな彼の後ろ姿を見て、私はとうとう限界が来てしまった。
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