いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

文字の大きさ
6 / 62

6.限界

しおりを挟む
私たちが結婚してから半年経っていた。

なんとか半年頑張ってみて、ダメだったからもう諦める。
何もしないで最初から諦めるのも良くないと思ったから頑張ったのだ。
でも、頑張っても応えてもらえないどころか、少しでも体を近寄せれば、振り払わんばかりに避けられる態度に、流石にもう心が挫けた。
六か月も誠意を見せれば、義理も果たしたろう。

その夜会の翌朝。
朝のサロンで私はアーサーに挨拶をした。

「おはようございます。侯爵様」

アーサーは明らかに顔を変えた。なぜなら名前を呼ばなかったからだ。

しかし、私はいつもの通りにこやかな顔のまま食卓に着いた。
ただ、違うのは黙って食事を始めたこと。いつもなら必ず私の方から話しかけていた。

だが、私は挨拶以外しなかった。
シーンと静まり返った食事。

いつもだったら私だけが話し、アーサーは一言二言で返事するだけなので、食事はいつも彼の方が早く終わる。そして、食べ終わると私を置いてさっさと退出してしまう。

今回、私は余計なお喋りで無駄に口を動かしておらず、食事に集中できたので、早く食べ終わった。彼は新聞を片手に食事中。

「ご馳走様でした」

私は席を立った。
それに驚いたような表情をするアーサー。

私はにっこりと微笑み、会釈をすると、さっさと退室した。
その日は登城する夫を見送ることもしなかった。

そしてその日の夕食も朝と同じ態度を貫いた。

「お帰りなさいませ。侯爵様」

そして無言で食し、にこやかに先に退出。
この新しいルーティンが始まった。





三日目の朝。

「おはようございます。侯爵様」

私はいつものようににっこりと挨拶をして席に着く。それ以外は食べること以外に口を動かさない。
今日もさっさと食べ終わり、最後のお茶をすすっていると、アーサーが新聞を見ながら口を開いた。

「貴女は最近静かになったな・・・」

わあ! びっくりしたー! しゃべったー! 
もう、やめてよ~、お茶吹くとこだったじゃない!

心の中で慌てふためきながらも、表向きはにっこりと微笑み、カップを置く。

「ええ。心を入れ替えましたの。今まではうるさくして申し訳ございませんでした」

「え・・・?」

「煩わしかったしょう? 反省しております」

「煩わしい・・・? そのように思ったことは無いが・・・」

「いいのです。そのようなお心遣い頂かなくて」

私はこれでもかと言うほどの完璧な営業スマイルを見せた。

「ご馳走様でした。お先に失礼いたしますわ」

何か言いたげなアーサーを置いて、さっさと退出した。





自分の夫を篭絡するのは諦めたが、侯爵夫人としての仕事まで捨てる事まではしなかった。
いずれ石女扱いされ追い出されることになろうとも、「世継ぎを生めない」以外、自分が非になる理由は作りたくない。ここにいる限りは一家の夫人として誠心誠意、侯爵家を支えようと思い、仕事は頑張っていた。
先代は既に隠居されており、夫人はとうの昔にいない。アーサーが12歳の時に儚くなっており、後妻もいない。
筆頭執事に助けられながら、何とか切り盛りしていた。

新しいルーティンが始まり二週間ほど経過した頃だ。

無言の食事にいい加減嫌になり、早く一人で食べるようになりたいと思っていても、なぜか食事は一緒。
そんな食事の時間が憂鬱になり始めていたある夜。アーサーは仕事で遅くまでかかるようで、一人で食べていた。

ああ! なんて気が楽なのだ!
食事がいつもの2.5倍は美味しく感じる!

「五臓六腑に染み渡るわ~~」

思わず独り言を言ってしまった。
私の独り言を聞いた執事のマイクが、文句だと思って慌てたようだ。

「奥様。どうされました? お気に召さないものがございましたか?」

この年寄りは本当に優しい。
私は慌てて首を振ると、

「違うわ! もうね、とっても美味しくって! 体の隅々まで美味しさを感じているってことよ!」

「それは、料理長も喜びます」

「ふふふ、特に今日は格別! 本当に美味しいわ! 最高!」

「ご機嫌のようで私も嬉しゅうございます」

にっこりと笑う執事に私も微笑み返した。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

婚約解消は諦めましたが、平穏な生活を諦めるつもりはありません!

風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングはラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、現在、結婚前のお試し期間として彼の屋敷に滞在しています。 滞在当初に色々な問題が起こり、婚約解消したくなりましたが、ラルフ様が承諾して下さらない為、諦める事に決めて、自分なりに楽しい生活を送ろうと考えたのですが、仮の嫁姑バトルや別邸のメイドに嫌がらせをされたり、なんだかんだと心が落ち着きません。 妻になると自分が決めた以上、ラルフ様や周りの手を借りながらも自分自身で平穏を勝ち取ろうと思います! ※拙作の「婚約解消ですか? 頼む相手を間違えていますよ?」の続編となります。 細かい設定が気にならない方は未読でも読めるかと思われます。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるく、ご都合主義です。クズが多いです。ご注意ください

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
母の連れ子だった私、リリーノは幼い頃は伯爵である継父に可愛がってもらっていた。 継父と母の間に子供が生まれてからは、私への態度は一変し、母が亡くなってからは「生きている価値がない」と言われてきた。 捨てられても生きていけるようにと、家族には内緒で魔道具を売り、お金を貯めていた私だったが、婚約者と出席した第二王子の誕生日パーティーで、王子と公爵令嬢の婚約の解消が発表される。 涙する公爵令嬢を見た男性たちは、自分の婚約者に婚約破棄を宣言し、公爵令嬢に求婚しはじめる。 その男性の中に私の婚約者もいた。ちょ、ちょっと待って! 婚約破棄されると、私家から追い出されちゃうんですけど!? 案の定追い出された私は、新しい地で新しい身分で生活を始めるのだけど、なぜか少し変わった魔道具ばかり作ってしまい――!? 「あなたに言われても心に響きません!」から改題いたしました。 ※コメディです。小説家になろう様では改稿版を公開しています。

処理中です...