いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

文字の大きさ
7 / 62

7.ご機嫌伺い

しおりを挟む
翌朝の朝食。
昨日の気楽な一人飯とは一変。重い足取りでサロンに向かう。

「おはようございます。侯爵様」

そう挨拶をして、席に着く。
最近は笑顔をすら作れなくなったな・・・。

食事が運ばれてきたとき、アーサーが口を開いた。

「昨日、マイクから聞いた。だいぶご機嫌だったと。何か良い事があったのか?」

わあ! 喋った! また喋った! なになに? どうした?

私はちょうどフォークを口に運んでいる体勢で固まってしまい、口を開いた状態で、アーサーの方を見た。

「・・・」
「・・・」

私はそのままの状態で目線をマイクに向けた。マイクはマイクで、驚いて固まっている私に驚いたようだ。何か不味いことを言ってしまったのかと、目が泳いでいる。

私は口を閉じ、ゆっくりフォークを下ろすと、

「そんな。いつも通りでしたわ」

にっこりと笑った。

『あんたがいなかったから、気楽だったんだよ!』

と、声を大にして言ってしまいたいが、もちろん言えるわけもなく。

「・・・報告と違うな・・・」

アーサーはチラリとマイクを見た。マイクは困ったように私を見る。
なんでそんな懇願するような目で見るのよ! ああ、確かに昨日ははしゃいじゃいましたけど? それが何か? ってか、何でそんなこと報告すんのよ!

「確かに、昨日は気分が良かったので。でも特別に何かがあったとかいう訳ではございませんわ」

「・・・そうか」

「はい」

私は返事をすると、すぐに食事に取り掛かった。
猛烈にイライラする。

何よ! 私ははしゃいでもいけないんかい? ご機嫌になっても悪いのかい?

苛立ちが凄すぎて、ナイフとフォークに力が入り過ぎ、カチャカチャと音を立ててしまう。
ああ、これはいかん! 今日はもう退散しよう。

「今朝は食欲がありませんの。もう失礼しますわ」

私は作り笑顔をすることも忘れて、サロンを出て行った。





仕事に行く夫を見送る気はないので、彼が出て行くまで自分の部屋でまったりしていようと思っていると、執事のマイクが私付きの侍女メアリーと一緒にやって来た。

「奥様。お加減は如何でしょうか? 食欲がないとのことですので、食べやすいようにスープをお持ちしました」

「え? あ、ありがとう」

そういう意味の食欲がないわけでは・・・。
気を遣わせちゃったわ。

メアリーはいそいそと食事をテーブルに置く。

「奥様。召し上がれそうですか? お辛いですか?」

「いやいやいや! ぜーんぜん! さっきはちょっとムカついて・・・じゃなくて、イラついて・・・でもなく、少しだけ胃がムカムカして食欲が無かっただけなの。もう大丈夫よ。ありがとう。頂くわ」

私はソファーに座って用意してくれた野菜スープを食べ始めた。

「美味しーっ!」

朝食を抜いてお腹が空いていたし、気も楽だから余計に美味しい!
あっという間に平らげた。その食べっぷりに二人は唖然としている。
そりゃそうだ。具合が悪いと思ったようだからね。

「お元気そうで、ようございました。旦那様が心配しておりました」

「え・・・?」

「食べやすいものを部屋に持って行くようにと旦那様のご指示でして」

なんでまた・・・?

「あの・・・奥様。私は失言してしまったようでお許しくださいませ」

マイクは深々と頭を下げた。

「昨日の夜は本当に奥様がご機嫌のようでしたので、つい旦那様にご報告を・・・。奥様にとってはご迷惑だったようで・・・」

本当だ。まったく!

「旦那様が奥様のご機嫌の理由を知りたかったのは・・・、奥様の事をお考えになられてのことです」

「は?」

「どうしたら奥様の機嫌がよくなるか、悩んでいらっしゃいましたから」

「へ?」

いやいやいや、それは無いと思います。
だって、あの人、私の事めちゃめちゃ嫌いみたいだし。

「お許しください。奥様。本来なら私ごときが口を挟むべきではないことは重々承知でございます」

マイクは上げた頭をもう一度下げた。

「えっと、マイクの勘違いじゃないかしら? 私は旦那様に嫌われているのよ? それは見ていて分かるでしょう? これ以上付きまとうのは逆に旦那様に酷な事と思うので、自重することにしたのよ」

「嫌われているですと・・・?」

マイクは顔を上げ、真っ青な顔で私を見た。

「ええ、そうよ。婚約時代にも愛することは無いって言われたし」

「それは・・・、そんなことはございません! 奥様!」

「本当よ。私が嘘付いているとでも?」

「いいえ、滅相もございません。ですが、幼い頃より旦那様に仕えている身。旦那様のことはよく分かっているつもりでございます。奥様を嫌うなど・・・。奥様をとても大切に思っているはずでございます!」

「でも、未だに夜はお部屋にはいらっしゃらないわよ?」

「それは・・・」

マイクは言い淀んだ。

「それがいい証拠でしょう。それに、あの方は私の顔なんて見もしないじゃない。にっこりと微笑みかけたって、怒ったようにすぐ顔を逸らすもの。それをすぐ傍で見ていながら、知らないとは言わせないわよ、マイク」

「そ、それは・・・」

マイクはやはりはっきりと否定できず、言葉に詰まっている。
別にマイクを攻めても仕方がない。

「もう止めましょう。私もあなたに当たりたくないわ。ごめんなさい、メアリーも」

私たち二人のやり取りをオロオロと見ていたアリーに声を掛けた。

「スープは美味しかったわ。どうもありがとう。食後のお茶を頂ける?」

「かしこまりました」

マイクもこれ以上の反論は諦め、二人は頭を下げて部屋から出て行った。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

婚約解消は諦めましたが、平穏な生活を諦めるつもりはありません!

風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングはラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、現在、結婚前のお試し期間として彼の屋敷に滞在しています。 滞在当初に色々な問題が起こり、婚約解消したくなりましたが、ラルフ様が承諾して下さらない為、諦める事に決めて、自分なりに楽しい生活を送ろうと考えたのですが、仮の嫁姑バトルや別邸のメイドに嫌がらせをされたり、なんだかんだと心が落ち着きません。 妻になると自分が決めた以上、ラルフ様や周りの手を借りながらも自分自身で平穏を勝ち取ろうと思います! ※拙作の「婚約解消ですか? 頼む相手を間違えていますよ?」の続編となります。 細かい設定が気にならない方は未読でも読めるかと思われます。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるく、ご都合主義です。クズが多いです。ご注意ください

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...