いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

文字の大きさ
8 / 62

8.勘違い

しおりを挟む
『奥様をとても大切に思っているはずでございます!』

食後のお茶を一人飲みながら、さっきのマイクの言葉を思い出す。

本当に・・・?
本当にアーサーは私の事を大切に思っている?

同時に今までのアーサーの態度も思い出してみる。
私と目を合わせない。碌に口も効かない。近寄れば避ける。終いには逃げだす・・・そんな姿しか思い浮かばない。

・・・。

「いや、ないな・・・」

思わず独り言ちた。

まあ、でも、私の態度の急変に多少戸惑っているのは確かのようだ。
いつもニコニコご機嫌取っている私が当たり前と思っていたのだろう。
アーサーの塩対応に塩対応し返したら急に意識し始めたということか?

よく分からないが、今更焦っても遅いわ。
私には恋心はもちろん、情ですら1ミクロンも残ってないっつーの。

そう思っている・・・。前世の私は確実に。
そして、今の私を形成しているのは前世の私が八割、今生の私は二割だ。

でも、その二割のローゼの気持ちが揺れたようだ。
心の中で、ムクっとマイクを信じたい気持ちが芽生えた。

その私が、アーサーが帰ってきたら今日の朝食の無礼を詫びようと、そう思ったのだ。





アーサーが帰ってきたのは夜遅かった。

私は既に寝支度を終えていたのでどうしようかと考えたが、ネグリジェにガウンを羽織り、さらに大きなストールで身を包んで、アーサーの部屋に向かった。

この時間に殿方の部屋にわざわざ自分から向かうのも恥じらいのないような気もするが、マイクの言う事が本当なら、このまま初夜を迎えてもやぶさかではない気持ちもあった。

部屋の前で立つと、遠慮がちにノックをしてみた。しかし、返事はない。
え? もう寝た?
私はそっと扉を開けてみた。恐る恐る中を覗くと誰もいない。

もしかしてと思い、書斎に向かった。すると扉が少し開いており、そこから明かりが漏れていた。そーっと中を覗いてみると、そこには応接のソファーの座り、苦しそうに蹲っているアーサーがいた。
辛そうに胸を押さえ、荒れた呼吸を必死に整えようとしている。
前にあるテーブルには何かを飲み干した後の空のグラスが一つ、倒れて転がっていた。

「大丈夫ですか!?」

私は思わず扉を開けて中に入ってしまった。

アーサーはギョッとしたような顔で私を見た。
しかし、私はそんなことよりもハアハアと息苦しくしていることの方が気になり、急いで駆け寄った。

「苦しいのですか!? 大丈夫ですか!? すぐお医者様をお呼びましょうか?」

彼の隣に座り、片手でアーサーの手を握ると、もう片方の手で背中を摩った。

「と、とにかく、人を呼びますわ! 今、お水を・・・」

と言った時だ。

「離れろっ! 私に触れるなっ!」

大きな罵声と共に、私は突き飛ばされた。あまりにも突然で、悲鳴すら出なかった。
床に叩きつけられるように転び、一瞬何が起こったか分からなかった。

驚いてアーサーを見上げると、激しく息を乱している。
その目は一瞬後悔の色を浮かべたようだが、すぐに背けられた。

「人は呼ぶな! 早くここから出て行けっ!!」

私は無言で立ち上がると、駆け足で部屋を飛び出した。





結局、マイクの言っていることは違った。
彼の中で嘘は言っていないつもりかもしれない。でも、彼の見解は間違っている。
どこが「奥様を大切に思っている」だ。思いっきり突き飛ばされましたけど? 

翌朝、私は自室で朝食を取った。
夕方になると、私の部屋に花束とカードが届けられた。アーサーからだった。

私は受け取らなかった。
カードも見なかった。

「お返しして」

持ってきたメアリーは困惑していたが、悪いけど知らん。マイクにでも相談してくれ。

その日、仕事から帰ってきたアーサーと夕食を共にすることは無かった。

独り自室で夕食を終え、ソファでまったりしているところに、ドアがノックされた。

「・・・はい」

「・・・私だ」

うへぇ~、暴力亭主。

「どのようなご用件で?」

私は扉を開けずに答えた。

「・・・昨日の夜は・・・、すまなかった」

「・・・」

「扉を開けてくれないだろうか・・・」

「お断りします」

「本当にすまなかった! あのように突き放すつもりではなかった! あの時は・・・、その・・・少し具合が悪く・・・」

「そうでしたわね。苦しそうでしたわ。お加減はいかが? 良くなりまして?」

「・・・扉を・・・開けてくれないだろうか? きちんと謝罪がしたい」

私はゆっくりと扉を開けた。
アーサーはホッとした顔を見せたが、すぐに顔を逸らした。

「怪我はしていないか?」

「ええ」

「これを・・・」

彼は私の前に花束を差し出した。夕方届いた花束だ。

「受け取ってもらえないか?」

「特に怪我もしておりませんし、結構ですわ」

「・・・」

「私はもう休ませて頂きます。侯爵様もまだ本調子でないようでしたらお早めにお休みになってはいかがです?」

「・・・」

「お休みなさいませ」

私は扉を閉めた。

この日以来、朝も夜も食事を共にするのは止めた。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ
恋愛
「君のことは大好きだけど、そういうことをしたいとは思えないんだ」 初夜の晩、爵位を継いで伯爵になったばかりの夫、ロン様は私を寝室に置いて自分の部屋に戻っていった。 肉体的に結ばれることがないまま、3ヶ月が過ぎた頃、彼は私の妹を連れてきて言った。 「シェリル、落ち着いて聞いてほしい。ミシェルたちも僕たちと同じ状況らしいんだ。だから、夜だけパートナーを交換しないか?」 「お姉様が生んだ子供をわたしが育てて、わたしが生んだ子供をお姉様が育てれば血筋は途切れないわ」 そんな提案をされた私は、その場で離婚を申し出た。 でも、夫は絶対に別れたくないと離婚を拒み、両親や義両親も夫の味方だった。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ
恋愛
私、ミーファ・ヘイメルは、ローストリア国内に五人いる聖女の内の一人だ。 ローストリア国の聖女とは、聖なる魔法と言われる、回復魔法を使えたり魔族や魔物が入ってこれない様な結界を張れる人間の事を言う。 ある日、恋愛にかまけた四人の聖女達の内の一人が張った結界が破られ、魔物が侵入してしまう出来事が起きる。 国王陛下から糾弾された際、私の担当した地域ではないのに、四人そろって私が悪いと言い出した。 それを信じた国王陛下から王都からの追放を言い渡された私を、昔からの知り合いであり辺境伯の令息、リューク・スコッチが自分の屋敷に住まわせると進言してくれる。 スコッチ家に温かく迎えられた私は、その恩に報いる為に、スコッチ領内、もしくは旅先でのみ聖女だった頃にしていた事と同じ活動を行い始める。 新しい暮らしに慣れ始めた頃には、私頼りだった聖女達の粗がどんどん見え始め、私を嫌っていたはずの王太子殿下から連絡がくるようになり…。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。

王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。 今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。 きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。 どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。 ※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

処理中です...