いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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14.誤解?

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二人して会場の隅に移動すると、アーサーは私から空のグラスを取り上げ、通りすがりのボーイから新しいシャンパングラスを受け取り、私に渡した。その間も私を放さない。

「・・・あの、私は一人で大丈夫ですので、侯爵様はお戻りなってはいかかです?」

私は素直にグラスを受け取りながらも、訝しげに彼を見た。

「・・・いや、今、貴女を一人にはできない」

彼はそう言いながら、ワイングラスをボーイから受け取り、そっと口にした。

「なぜですか? いつもならさっさと私を放り出すくせに」

アーサーはブッとワインを噴いた。あらら、良かったわね、白ワインで。
私は呆れたように彼を一瞥するとプイっと顔を逸らした。

アーサーは慌てて私の腰から手を放し、ハンカチを取り出すと口を拭った。
その隙に、私はサッと彼と距離を取った。

「いつものように私のことなんか捨て置いていただいて結構ございますわ。そちらはそちらでどうぞお楽しみくださいませ」

私はダンスのターンのようにくるんっとアーサーに背を向けると、美しく飾り付けられたデザートのテーブルに向かわんと一歩踏み出した。
途端に背後から伸びた手にガシッと肩を掴まれた。

何なのっ!? もう!

自分の肩に置かれた手を一睨みしてから、今度はその手の主の顔をギッと睨みつける。
流石にアーサーも怯んだ顔を見せたが、手を放すどころか、そのまま私の肩を抱いた状態で一緒に歩き出した。

「今、貴女を一人にしたらすぐにでもクロードがやってきそうだ」

小さい声でそう話す。

「はあ、そうでしょうか? そのようには見えませんわよ? ほら、あそこ」

私は会場の一角に目を向けた。
そこには美しく可憐な令嬢たちに囲まれ、楽しそうに談笑しているクロードがいる。

「あんなハーレム状態で・・・いや、えっと、あんなに美しい蝶に囲まれて鼻の下を伸ばしている・・・じゃなく、楽しそうになさっているクロード様がわざわざ私のところに来るわけがないではありませんか」

ヤレヤレというように私は肩を竦めて頭を振って見せた。
そして、改めてチラリとクロードの方を見た。すると、それに気が付いたかのように、クロードが私たちの方に顔を向けた。
私と目が合った瞬間、彼はにっこりと優しく微笑み、軽く会釈をしてきた。

「!」

私は彼の熱い視線に固まってしまった。

次の瞬間、くりんっとアーサーによって向きを変えられ、クロードと交わっていた視線は遮断された。

「やはり、懸念した通りだ・・・」

アーサーは呟くように言うと、私の肩を抱いている手に力を込めた。

「貴女を連れて来ない方がよかった・・・」

・・・。
私、最初断りましたよね? でも、無理やり連れてきたのはそっちですよね?
私もよもやこんなことになるとは思ってなかったですけど。それでも結果的には私が悪いんですかね? 

イラっとしてアーサーを睨みつけようとした時、彼から耳を疑う言葉が聞こえた。

「今日の貴女は可愛らし過ぎる・・・」





溜息と共に漏れるように零れた言葉。

『今日の貴女は可愛らし過ぎる』

今聞こえた言葉は何? 空耳? 私の耳がおかしくなったのか?
うん、きっとそうだ。空耳だ。気のせいだ。

私はソロ~っとアーサーの方を見た。
アーサーは軽く俯き加減で額に手を当てた状態で、何やらまたブツブツ言いだした。

「クロードだけじゃない・・・。こんな可愛いローゼを見たら他の男だって・・・」

・・・。
空耳ではないらしい・・・。

「あ、あの・・・、侯爵様・・・?」

「!!」

私の声にアーサーは我に返ったのか、ビクンっと体を震わせ、驚いたように私を見た。
すると、すぐに手で口元を覆い、プイっと顔を逸らしてしまった。

いつものプイっと顔を逸らす仕草。
数か月前の私はその態度にショックを受け、気持ちが沈み、最近の私はその態度に苛立ち、怒りを覚えていた。そのせいで顔を背けた後の彼を深く観察しようとはしていなかった事に気が付いた。

今になって、しげしげと彼を見てみた。

うっすらとだが、耳が赤くなっている。

「アーサー様?」

私は背けた彼の顔を追いかけるように覗き込んだ。

「!!」

するとアーサーは慌てたように、反対側に思いっきり背けた。一瞬見えた顔は真っ赤だった。
私はその顔を確かめるべく、もう一度追いかけるように顔を覗いた。すると彼はまた反対を向いてしまった。
私は負けじと顔を覗く。するとアーサーはビュンっと反対側を向く。もはや追いかけっこだ。

数回繰り返すが、やはり彼は顔を合わせない。その間、彼は口元を手で押さえたまま。
いい加減、疲れたのと苛立ちから、

「やはり、私の顔を見ると吐き気を催すようですわね。大変失礼いたしました。すぐ離れますわ。あ、ちなみに、お化粧室はあちらですわよ。ここでは吐かないで下さいね」

そう言い放つと踵を返し、その場から離れようとした。我ながら意地悪だと思う。
だが、案の定、背後から手が伸びてきた。

「違うっ! ローゼ・・・!」

アーサーは私の腕を掴んだ。

・・・。
やはり、アーサーは私のことを嫌っているわけでは無さそうだ。
むしろ好意を抱いているみたい。

じゃあ、なぜ、あんなにも頑なに私を避けていたのだろう?


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