いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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16.矛盾

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「疲れた・・・」

逃げ出した私はまたバルコニーで休んでいた。

「はあ~~~、今日はもう帰りたい・・・」

手すりに顔を伏せ、そう呟いた時だ。

「では、今日はもう帰ろう・・・」

背後で声がした。
顔を上げ、ゆっくり振り向くと、後ろにアーサーが立っていた。

「・・・アーサー様・・・」

アーサーが申し訳なさそうに私を見つめている。

「すまなかった。今日は貴女にいろいろ無理をさせた・・・。私の相手も含め・・・」

そう言うと目を伏せた。しかし、すぐに顔を上げ、私に手を差し出した。

「疲れただろう? 今日はもう帰ろう」

私はその手を取っていいものか迷ってしまった。
私の勘が間違っていなければ、アーサーは私を嫌ってはいない。
でも、もしそれが間違っていたら? 勘違いだったら? 演技だったら?
そうだとしたらこの手を取るのは彼にとっては酷だろうし、私にとっても屈辱だ。

差し出された手をじっと見たまま、いつまでも取らずにいると、アーサーは手をキュッと握り、下ろしてしまった。

「まだここに居たいのなら・・・」

「いいえ! もう帰りたいです!」

私は妙な罪悪感から慌てて否定した。

「帰りましょう。侯爵様!」

私はアーサーに近づくと隣に立った。彼はホッとした表情をして、スッと腕を差した。その腕に私はそっと手を添えて歩き出した。
しかし、極力距離を取ることを忘れなかった。だって、まだ分からない。彼が本当はどう思っているのか。実はものすごく無理をしているのかもしれない。そう思うと、ピッタリと寄り添うことは憚れた。

十分に保険を掛けた距離を保ちながら歩いていると、

「もう、名前では呼んでもらえないのだろうか?」

まるで独り言のような小さい声が聞こえた。

「さっきは名前で呼んでくれたが・・・。もう呼んでもらえないのだろうか・・・」

「・・・」

私は目を丸めて彼を見た。

「いや・・・、すまない。何でもない」

目をパチパチとしている私を見て、彼は顔を逸らした。

「貴女の気持ちがとうに私から離れているのは分かっているのに・・・」

彼のそんな呟きに、私はどう返していいか分からず、黙ってしまった。
そのまま二人の距離を詰めることなく、無言で歩いた。





ラッセン侯爵夫婦に暇の挨拶をしてから、帰りの馬車に乗り込んだ。

行きとは違い、アーサーは私の前には座らず、いつものようにはす向かいに、出来る限り私から離れるように座った。

・・・。
何なの? もしかして拗ねちゃった? 
うーん、それは自惚れ過ぎか・・・。

やっぱり、私の勘違いだったのかな? でも・・・。
夜会での彼の態度を思い返すと勘違いとは考えづらい。
それなのに、今の彼の態度は明らかに私を避けているし・・・。

そっぽを向いている彼の顔を観察しても、薄暗い馬車の中では顔色が分からない。

暫く悶々と考えていたが、いくら考えても答えは出てこない。
私は覚悟を決めた。

もう、こうなったら本人にはっきり聞いてやる!
今日はどういうつもりだったのか?
私のことは好きなのか? 嫌いなのか?
今後、どうしたいのか?

いい機会だ! はっきりさせてやる!
嫌いなら嫌いでいい。そうであれば離婚に向けて一直線だ!

「あの、アーサー様」

私は窓の外を見ているアーサーに声を掛けた。私の声掛けにアーサーはピクッと体を動かすと驚いたようにこちらを見た。目をパチクリして私を見ている。

「? アーサー様?」

あまりにも驚いたように目を丸めているアーサーに私は思わず首を傾げた。
アーサーはハッとしたような顔をすると、手で口元を隠して、またフイっと顔を逸らした。

「い、いや・・・、貴女が名前を呼んでくれたから・・・」

「・・・」

嬉しそうにつぶやく彼に、私は絶句してしまった。
一時、気を失っていたのか・・・、私はハッと意識を取り戻すと、ブルブルっと頭を振った。

「あの・・・、アーサー様。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

私ははす向かいの位置から、アーサーの真向かいに座り直した。振り向いたアーサーは私がすぐ前にいることに驚いたようだ。少しばかり身を引いた。
私は構わず、アーサーの顔を覗き込まんばかりにズイッと近寄った。

「!」

アーサーはさらにのけ反るように身を引く。
その態度に私は苛立ちを覚え、キッと彼を睨みつけた。

「アーサー様。先ほどから貴方が仰っている事と私に対する態度が非常に矛盾していることを分かっていらっしゃる? 私、今、とっても混乱してますのよ?」

私はさらにズイッとアーサーに近づいた。

「ねえ、アーサー様。ここは一つはっきりとしていただきましょう! 貴方は私のことが・・・」

「ローゼ! 近い、近い! もう少し離れてくれ!」

アーサーは極限まで顔を背けると、私の肩を両手で押し返した。

「貴女の匂いが・・・っ!」

え・・・?

「貴女の香りが! どうか少し距離を取って・・・!」

え・・・? 私の匂い? え? 嘘? 私、臭いの・・・?!


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