毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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失敗作:百目木静馬

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 夕暮れの図書室。誰もいない。

 静馬は机にノートを広げ、感情のメカニズムを書き出していた。
 だがペンは途中で止まる。手が震える。思考が定まらない。

 

 ――なぜ、あのとき動揺した?
 なぜ、久賀の怒りが「美しい」と思えた?
 なぜ、灰谷の沈黙が「胸に刺さった」のか?

 

 静馬は思う。

 “感情”は“再現性”がなければ意味がない。
 同じ刺激で同じ反応が返らなければ、制御できない。

 

 なら――もう一度、試そう。

 

 灰谷に“感情の揺れ”を起こさせ、再度観察する。
 前回は久賀が乱入して失敗した。
 今回は、もっと丁寧に、繊細に、“仕掛けて”みせる。

 



 

 ある日、灰谷を屋上に呼び出す静馬。

「来てくれてありがとう。……少し話がしたくてね」

「……また、“実験”ですか?」

「ふふ、そんな言い方をされると傷つくな。
 僕は君のことを“理解したい”と思ってるだけだよ」

 

 静馬は、さりげなく灰谷の「人間であろうとする努力」を否定する言葉を放つ。
 同時に、「自分が受け入れるよ」という仮初めの優しさを混ぜる。

 だが――

 

「……静馬さん」
 灰谷の目が、明確に“拒絶”を向ける。

「あなたの“優しさ”は、もう受け取れません」

 

 静馬の中で、何かが崩れる音がした。

「どうして? 僕は君に害を与えたつもりは――」

「――与えてますよ」

 灰谷の声は低いが、確実に怒りを孕んでいた。

「あなたの“理解”は、いつも自分のためだけです。
 誰かの苦しみを“構造”としてしか見ない。
 僕の痛みも、南雲さんの涙も、久賀さんの怒りも。
 あなたにとっては、感情の“標本”なんです」

 

 静馬は、なぜか「心臓が痛む」感覚に襲われた。

「……君のことを思っていたつもりだった」

「じゃあ、なぜ“僕の傷を開かせるようなこと”ばかり言うんですか?
 理解したいなら、まず黙ってそばにいることもできたはずです」

 

 静馬の目が揺れる。手が震える。
 言葉が、出てこない。
 脳内の論理が、すべて遮断されていく。

 

「あなたが見てるのは、僕の“感情”じゃなくて、
 **“自分の優位性を確認するための実験体”**です。
 ……そんな人に、僕はもう関わりたくありません」

 

 そう言って、灰谷は静かに立ち去った。

 

 静馬は、何も言えなかった。

 かつて自分が無数に踏みにじってきた“拒絶の視線”が、
 初めて“自分に向けられた”とき――彼は、言葉を失った。

 



エピローグ的独白(静馬のモノローグ)

 

 僕はこれまで、何百通りもの感情のパターンをシミュレーションしてきた。
 反応速度、表情筋の動き、音声周波数、視線の傾向。

 だけど今、“自分の感情”が、どのラベルにも当てはまらない。

 怒り? 悲しみ? 悔しさ?
 それとも、ただの「喪失感」?

 

 わからない。
 ただ、胸が痛い。呼吸が苦しい。
 そして、何より――

 

 「……僕は、“失敗した”んだ」

 

 初めて、“感情”を持ってしまったことに。

 そして、それを操作できないことに。
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