ストーカー体質は異世界でも治らない

希彩(kiiro)

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another side

赤い騎士の話

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俺が頑張るといつも兄貴は辛そうだった。何もかも家に縛られていて将来は全て決められている兄貴は、俺とは違い期待され、そしてそれに応えるようにいつも努力していた。俺はそんな兄貴を尊敬しているし、応援したいと思っている。

そもそも初めから俺は家を継ぐ気がない。昔から誰かと戦うのが好きで、いつか騎士として自分にとってのかけがえのない主人を見つけて仕えたいと思っていた。きっとその主人は正義のヒーローだとも。

だから、出来ないふりをすることにした。いくら俺が優れていたとしても家を継ぐことも出来なければ、兄貴が苦しむだけでいいことは何も無い。俺は立派な騎士になれればそれでいいんだ。

ある日、前から交流のあったイリスと先生に呼び出されて、しまったと思った。あまりにもアルス語が苦手なフリをし過ぎたてしまっていたようだ。先生よりもアルス語が得意な生徒がいるらしく教えてもらえとの指示だった。

初めてヴィオラに会ったとき、よく手入れされた濃い紫の髪や白く透きとおった肌や綺麗で美しい手を見て、護られる側の人間だと思った。きっと何も知らず、護られることが当然のように思っている令嬢だろうとタカをくくっていた。

でもあっさりとその予想は覆された。話をする度に、ヴィオラは普通になんて当てはまるような令嬢じゃないと思わざるを得なくなり、俺はそんなヴィオラを好ましく思った。

レオン殿下の婚約者という肩書きを持っているのに、何故か遠くから(角度にはこだわりがあるらしい)殿下をひたすらに観察しているのは、何だかおかしく微笑ましい。

ヴィオラと仲良くなってすぐに、俺のことをよく思っていない連中を学園の中庭で吊るし上げる事件があった。
ヴィオラには言わなかったが、俺はあの時一部始終を見ていた。

俺の家は貴族であり騎士。多くの貴族が魔法に頼る中、俺達は対魔力などに備えて、肉体を鍛え剣の技を磨くことを怠らない。当たり前のはずのことなのに、貴族が剣を握ることは野蛮であると考える連中は多くいるらしい。

それに俺の母親は隣国出身の下級貴族で、兄貴の母親が亡くなり、2番目の夫人となるためにとやかく言う輩も少なくないのだ。
俺は、父を支え俺を育てた母親を尊敬しているし、そんなことを言う奴らは馬鹿だと思う。もう慣れたのだ。ヴィオラだってこれで離れていくなら、そこまでの人物だったってことだろう。と割り切っていた。

だからあの時も
あぁ、また好き勝手言いやがって。しかも、俺のノートじゃねーし。なんて、他人事のように聞いていたのに。

「貴方達があまりに愚かで惨めで滑稽で、かつ見苦しいので声をかけずにはいられませんでしたわ。」

「なぜ剣の腕を磨きませんの?貴方は魔力が使えなくなれば、自分の身どころか、大切な人だって守れないのでしょう?知っていて行動しないのは愚かではなくって?」

「いずれは王族となる私への侮辱かしら?」

「あぁそういえば、緑は醜いなどとも言ってたかしら?人にはそれぞれ主観というものがあるでしょうけど、緑が醜く見える貴方の目は、さぞなんでしょうね。」 

悔しさの滲んだような怒りを抑えずに、男5人相手にズケズケと啖呵を切るヴィオラを見て、吹き出しそうになった。なんで、ヴィオラが俺より怒ってるんだ。なぁお前、本当に変な奴だよ。

たった一人で俺を護ろうと立ち向かうのが格好良くて、自分の目で見た俺を真っ直ぐに信じてくれるのがたまらないぐらい嬉しかった。あの細くて小さな体で俺のことを護ろうとしてくれたことがなんだか、こそばゆいけど心地よくて。

「馬鹿だなー」

と溢れた呟きには嬉しさが滲んでいた。

ヴィオラは俺に守って欲しい、護られたいなんて思ってもない。ただ友達として助け合いたいとそう思ってくれている。だからこそ、俺はそんなヴィオラを護りたいと思った。なのに。

「お友達のクロンキスト嬢は今何されてんだろーなぁ?」

「この間は散々言われてムカついたからな!」

いつものように絡んできた連中からその言葉を聞いて体中の血が沸騰するのかと思った。ヴィオラが襲われてる?駄目だ。コイツらが100%悪いにしても、そんな事実があったとなれば王妃になるなんてありえない。あれだけ慕っているレオン殿下との婚約も解消となるだろう。俺の中にふつふつとドス黒い怒りが湧き上がる。もしヴィオラになんかあってみろ、一番酷いやり方で殺してやる。

場所を聞き出し急いで駆けつけると、ヴィオラは男達に囲まれ手足を縄で拘束されていた。何かされたのか。思わず低い声が出る。ヴィオラはまだ、いつものヴィオラのままだった。安心と同時に申し訳なさが押し寄せる。

ヴィオラの手足を拘束していた縄を解くと細い手首と足首が鬱血し、縄の跡を赤黒く残していた。ヴィオラは何でも無いように振舞っていたが、かなり痛みがあるはずだ。早く終わらせてやらないと。

俺の目に焼き付いた縄の跡が、深い怒りを通り過ぎて狂気へと変わるのを感じる。ヴィオラはこんな光景見なくていい。目や耳を塞ぐように言っておく。たぶん、今日は抑えがきかない。

「殺しちゃ…だめよ?」

被害者なのに優しいヴィオラがそう言うが、絶対に殺してやらない。俺の大事な人を傷つけたんだ。殺すなんて生ぬるいことで終わらせるはずがないだろ?

控えめに言って地獄を完成させた俺はヴィオラを医者に見せに行く。医者が言うには痛みは消えるものの跡は消えにくいかもしれないとのことだった。ふと、俺のせいでこんな目にあったヴィオラは俺のことが嫌になったりしないだろうかと不安になる。跡まで残って、俺のことを見損なったりしないだろうか。

ヴィオラはそんな俺の不安を消すように、自分が襲われたのは自分のせいだと言い張ってくれた。でもそんなヴィオラだから心から護りたいと思った。ヴィオラは必ず国を支えるいい王妃になる。自然とそう思えて、俺はそれを実現させたいと思った。

「今ここでヴィーの剣になることを誓う。」

これは騎士の誓い。全てを捧げる主人を決めるための台詞だ。ヴィオラは剣を受け取ったものの、困ったように笑った。

「今の私じゃ、まだこの剣ロイドを扱う力がないわ。」

「だから、私が正しくこの剣ロイドを扱う力を身につけるまで待って欲しい。」

俺が不甲斐ないために断られたのだと思ったが、それは違った。ヴィオラは自分の能力を客観的に見て、俺を大きすぎる力だと判断したのだ。そして、俺に相応しい主人になると宣言してくれた。もう俺はこれ以上いい主人に出会える気がしない。

ヴィオラは正義のヒーローではないし、戦う力は殆どない。でも、俺のヒーローでいてくれる。俺の為に戦ってくれる。それでいいんだ。

愛すべき主人ヴィーのために俺はなんだってしよう。俺はアイツだけの変な騎士になるんだ。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ゆあ
2018.10.03 ゆあ
ネタバレ含む
2018.10.04 希彩(kiiro)

清く正しいストーカーがヴィオラのモットーですw
感想ありがとうございます!!!

解除
ビタミン
2018.08.16 ビタミン

ヴィオラが努力家&可愛すぎる回でしたね!!
続きが楽しみです...!

2018.08.16 希彩(kiiro)

ヴィオラも可愛いところはあるんです。
応援してやってください!

解除
ビタミン
2018.08.10 ビタミン
ネタバレ含む
2018.08.10 希彩(kiiro)

デレるレオンはいつになるのか…
楽しみに待っていてください。
感想ありがとうございます!

解除

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