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序章:現代桃太郎
【零】受け継がれし桃の意志
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今では活動していた頃など想像もできないほど廃れた工場。
そこへ現れた(ジャケットを着てない)スーツベストを着こなした細くも逞しい背中。その立ち姿は一本の直線を引いたような真っすぐとした綺麗な姿勢で、高すぎない長身はまさに理想的な身長。そして背中を横断する艶やかでサラサラとしたポニーテールの長髪。スマホレット【ブレスレット型のスマホ(スマホとスマホレットを連動させて使うのが一般的)】を着けた左手には刀が握られていた。
切れ長の目をしながらも優しさが伺える美形な顔をしたその男は工場を見上げる。
「ここですかぁ」
少し面倒臭さの交じる柔らかな声で呟いた後、ポケットからピンポン玉ほどの球体型機械を取り出した。それを親指と人差し指で摘むと機械は反応を見せ指先をスキャンし始める。スキャンを終えると球体の機械は真ん中で上下に少し開きながら一回り巨大化し男の手を離れ浮遊し始めた。
真ん中が開いたこと露わになった電光掲示板のような溝には、起動音と共に目のような青い光が表示された。
「FATR【ファトラ】起動中……。起動中……。起動中……。――起動シマシタ。対象ヲ確認中……」
球体型機械【全自動追尾レコーダー通称’F’】は扇状の膜のような光で男をスキャンし始める。
その間に男は別のポケットから小さなカプセル型の音楽プレイヤーを取り出した。端には、難解なパズルのようにコードが絡み合ったイヤホンが挿さっており、華奢な指がそれを丁寧に解き先端を耳へ。真ん中辺りに触れると空中へは映像型ディスプレイが表示された。
指先の感触は無いが少し操作すると、イヤホンからは音楽が流れ始める。男はディスプレイを消しプレイヤーをポケットに仕舞おうとするが、その前に同じく真ん中辺りを今度は上へスライド。動きに合わせ音量が少し上がった。
そしてイヤホンから流れる音楽に自然と男の首は上下に揺れ始めた。
「確認完了。追尾システムヲ起動シマシタ」
音楽の準備をしている間にスキャンを完了した’F’は男の後ろへ移動し空中で待機。
「行きますか」
気を引き締めながら呟いた男は廃工場へ向け一歩目を踏み出した。
外観通りボロボロな通路を通っていくと、男は窓は割れコンクリートの破片や鉄パイプ・椅子など様々なゴミが散らばる広い空間へ。
そこには如何にもなガラの悪い輩が、我が物顔で屯っていた。その人数はざっと十から十五。下顎から二本の牙を生やした者、痩せこけているが腹だけ異様に出た者、蛇の尻尾が生えた者、体が岩で出来た者……。
廃墟内に屯していたのは明らかに人ではない御伽。しかしその姿形に関係なくこの場にいた全員のどこかしらには同じタトゥーが彫られていた。
足が数本千切れ剣を持った傷だらけの蜘蛛のタトゥーが。
そしてそんな空間へやってきた男の足音に、その者たちは一斉に入口を鋭い眼光で睨みつけた。
だが隠す気も無いその敵意を剥き出しにした視線を浴びながらも男は平然としていた。
「初めまして。私はAOFの者です」
そして男はルーティンの決まった行動のようにベストのポケットから横長の手帳を取り出し、一瞬だけ見せるとすぐに仕舞った。その手帳には名刺ともう一枚何かの許可証が収められていたが、誰一人それを確認出来てはいない。それ程までに一瞬だったのだ。
だがそれはどの道、彼らに見せたところで何の意味も無い事を男が知っていたからだった。最早、見る事すらしないと彼は分かっていた。
「実は今回は、こちらに浜西美咲さんという方がいらっしゃるという情報を入手いたしましたのでお邪魔させていただきました」
「そんなやつしらねーよ」
すると瓦礫の山頂に座っていた下顎から牙を生やしたオーケットが立ち上がり、隠す気も無い苛立ちを表しながらそう言った。そんな彼の声に反応し男の両耳に付けられたイヤホンの音量は独りでに下がる。
「もしかしてこの前、さらったあの女じゃないっすか?」
オーケットの言葉に瓦礫の山下から腹の異様に出たザッキが思い出したように耳障りと感じるほど甲高い声で話しかける。
「あぁ、あのうるせー茶髪の女か」
「こちらにいらっしゃるのですね?」
「あぁ? 知らねーつってんだろ」
だが男に対しニヤリと煽るような笑みを浮かべるオーケット。
しかしその言葉は男にとって予測通りだった為、早々に無視された。
「’F’。リスト参照」
「スキャンヲ開始シマス」
すると男の声に反応した’F’はそんな御伽たちをスキャンし始めた。
「スキャン完了。リスト参照シマス」
真ん中の電光掲示板のような部分で二~三個の黄色い長方形の光が回り出す。
そしてその光が何週かすると再び目のような青い光に戻った。
「テリコス・アラネア、ト一致シマス」
「一度だけ警告します。降伏し彼女を返してください」
どうなるか手に取るように分かりながらも一応言っておこうと口にした所為だろう、その声は警告するにしては小さく覇気が無かった。
「はっ! するわけねーだろ! バカが!」
オーケットは中指を立て挑発を続けた。
だがそれは男にとって余りにも一切ズレのない予定通り過ぎる行動と言葉。最早、面白味にさえ欠けていた。
「では実力行使ということで」
言葉と共に男は顔の前へ持ってきた刀を徐に抜いた。その行動に廃工場にいた全員が警戒心と共に立ち上がる。
そして男が動き出した瞬間、イヤホンから流れていた音楽はまるで場を盛り上げる演出をするように音量を上げた。余裕の表れか男はイヤホンから流れる曲に合わせ踊るように戦った。始まりは緩やかに――サビに向かうにつれ段々と華麗かつ激しく。相手の攻撃を躱すその動作すらパフォーマンスの一部ではないかと思わせる程に。曲と動きとでハーモニーを作り上げていた。
そして曲が終盤に差し掛かると、瓦礫の山の頂上へ着地した男は血を払い最後の音と共に刀を鞘に納めた。余韻を残しながら消えていく音を余すことなく、最後の一音まで味わったあと男はイヤホンを取り一つにまとめ首に掛ける。
そして瓦礫の下に転がる御伽達を見下ろし溜息をひとつ零した。
「’F’。EOCBに連絡」
「連絡中……。連絡中……。連絡完了。到着マデ約二十分」
「その間にあの子を探しましょうか」
そして男は瓦礫の山から飛び降りると早速、辺りを見渡す。
だがどこを見ても他の部屋への入口や上への階段は見当たらない。
それを確認すると今度は、地下への道を探し始めた。
「階段は……っと」
そう呟いていると端辺りに隠れるように配置された下へ続く階段を見つけた。
「あそこですか」
男は真っすぐ階段まで歩くと下へ。一歩一歩、落ち着いた足取りで階段を下りていく。
そこには上から僅かに入ってくる光しか無く薄暗い空間が広がっていた。
でもその向こうには錆びつき鍵のかかったドアが一枚。そのドアには上と下にスライド式の鍵が付いており中からは開けな仕組み。
誰が見ても怪しさを醸し出すそこへ男は近づいて行くと、ドア同様に錆びつき固くなった鍵を開けドアノブへ手を伸ばす。古く耳障りな音を出しながら開いたドアの向こう側は、上からの光が入り口付近にしか届いておらず全体的に真っ暗で何も見えない。
だが男は無警戒のまま一歩、その部屋の中へと足を踏み入れた。
その直後、ドア付近に潜んでいた何者かが男に襲い掛かる――が男はそれを分かっていたかのように、振り下ろされた凶器を手首を受け止める事で止めた。
すると遅れて’F’がライトで辺りを照らし、襲ってきた手に握られた石が答え合わせをするように露わとなった。それと同時に襲い掛かってきた人物もまたその姿を露わにする。
それは酷く汚れた服とぼさぼさになった髪の女性。その目は覚悟と攻撃性を宿していたが、その裏側からは微かに恐怖が顔を覗かせていた。
「浜西美咲さんですか?」
そんな女性に優しく尋ねるその声は突然襲われたとは思えないほど悠々としていた。
「あいつら……じゃない?」
女性が戸惑うようにそう呟くと、手に固く握っていた石は地面とぶかる音を辺りへ響かせた。
「誰?」
「私は貴方のご両親に依頼されて貴方を探しにきました」
「私……」
両親という言葉に安心したのか、美咲の目からはボロボロと泪が溢れ出した。
「もう大丈夫ですよ」
そんな彼女を男は優しく声を掛け抱き締める。
そして美咲を連れ上へと戻った。床に転がる御伽たちを彼女に見せぬよう誘導するとまだ形状を維持した椅子へと座らせた。
「後ろの方はあまり見ないことをおすすめします」
「あの……これから」
「もう少しでEOCBと救急車が来ますので少々お待ちください」
「はい」
そして男は美咲と共にEOCBの到着を待った。
そこへ現れた(ジャケットを着てない)スーツベストを着こなした細くも逞しい背中。その立ち姿は一本の直線を引いたような真っすぐとした綺麗な姿勢で、高すぎない長身はまさに理想的な身長。そして背中を横断する艶やかでサラサラとしたポニーテールの長髪。スマホレット【ブレスレット型のスマホ(スマホとスマホレットを連動させて使うのが一般的)】を着けた左手には刀が握られていた。
切れ長の目をしながらも優しさが伺える美形な顔をしたその男は工場を見上げる。
「ここですかぁ」
少し面倒臭さの交じる柔らかな声で呟いた後、ポケットからピンポン玉ほどの球体型機械を取り出した。それを親指と人差し指で摘むと機械は反応を見せ指先をスキャンし始める。スキャンを終えると球体の機械は真ん中で上下に少し開きながら一回り巨大化し男の手を離れ浮遊し始めた。
真ん中が開いたこと露わになった電光掲示板のような溝には、起動音と共に目のような青い光が表示された。
「FATR【ファトラ】起動中……。起動中……。起動中……。――起動シマシタ。対象ヲ確認中……」
球体型機械【全自動追尾レコーダー通称’F’】は扇状の膜のような光で男をスキャンし始める。
その間に男は別のポケットから小さなカプセル型の音楽プレイヤーを取り出した。端には、難解なパズルのようにコードが絡み合ったイヤホンが挿さっており、華奢な指がそれを丁寧に解き先端を耳へ。真ん中辺りに触れると空中へは映像型ディスプレイが表示された。
指先の感触は無いが少し操作すると、イヤホンからは音楽が流れ始める。男はディスプレイを消しプレイヤーをポケットに仕舞おうとするが、その前に同じく真ん中辺りを今度は上へスライド。動きに合わせ音量が少し上がった。
そしてイヤホンから流れる音楽に自然と男の首は上下に揺れ始めた。
「確認完了。追尾システムヲ起動シマシタ」
音楽の準備をしている間にスキャンを完了した’F’は男の後ろへ移動し空中で待機。
「行きますか」
気を引き締めながら呟いた男は廃工場へ向け一歩目を踏み出した。
外観通りボロボロな通路を通っていくと、男は窓は割れコンクリートの破片や鉄パイプ・椅子など様々なゴミが散らばる広い空間へ。
そこには如何にもなガラの悪い輩が、我が物顔で屯っていた。その人数はざっと十から十五。下顎から二本の牙を生やした者、痩せこけているが腹だけ異様に出た者、蛇の尻尾が生えた者、体が岩で出来た者……。
廃墟内に屯していたのは明らかに人ではない御伽。しかしその姿形に関係なくこの場にいた全員のどこかしらには同じタトゥーが彫られていた。
足が数本千切れ剣を持った傷だらけの蜘蛛のタトゥーが。
そしてそんな空間へやってきた男の足音に、その者たちは一斉に入口を鋭い眼光で睨みつけた。
だが隠す気も無いその敵意を剥き出しにした視線を浴びながらも男は平然としていた。
「初めまして。私はAOFの者です」
そして男はルーティンの決まった行動のようにベストのポケットから横長の手帳を取り出し、一瞬だけ見せるとすぐに仕舞った。その手帳には名刺ともう一枚何かの許可証が収められていたが、誰一人それを確認出来てはいない。それ程までに一瞬だったのだ。
だがそれはどの道、彼らに見せたところで何の意味も無い事を男が知っていたからだった。最早、見る事すらしないと彼は分かっていた。
「実は今回は、こちらに浜西美咲さんという方がいらっしゃるという情報を入手いたしましたのでお邪魔させていただきました」
「そんなやつしらねーよ」
すると瓦礫の山頂に座っていた下顎から牙を生やしたオーケットが立ち上がり、隠す気も無い苛立ちを表しながらそう言った。そんな彼の声に反応し男の両耳に付けられたイヤホンの音量は独りでに下がる。
「もしかしてこの前、さらったあの女じゃないっすか?」
オーケットの言葉に瓦礫の山下から腹の異様に出たザッキが思い出したように耳障りと感じるほど甲高い声で話しかける。
「あぁ、あのうるせー茶髪の女か」
「こちらにいらっしゃるのですね?」
「あぁ? 知らねーつってんだろ」
だが男に対しニヤリと煽るような笑みを浮かべるオーケット。
しかしその言葉は男にとって予測通りだった為、早々に無視された。
「’F’。リスト参照」
「スキャンヲ開始シマス」
すると男の声に反応した’F’はそんな御伽たちをスキャンし始めた。
「スキャン完了。リスト参照シマス」
真ん中の電光掲示板のような部分で二~三個の黄色い長方形の光が回り出す。
そしてその光が何週かすると再び目のような青い光に戻った。
「テリコス・アラネア、ト一致シマス」
「一度だけ警告します。降伏し彼女を返してください」
どうなるか手に取るように分かりながらも一応言っておこうと口にした所為だろう、その声は警告するにしては小さく覇気が無かった。
「はっ! するわけねーだろ! バカが!」
オーケットは中指を立て挑発を続けた。
だがそれは男にとって余りにも一切ズレのない予定通り過ぎる行動と言葉。最早、面白味にさえ欠けていた。
「では実力行使ということで」
言葉と共に男は顔の前へ持ってきた刀を徐に抜いた。その行動に廃工場にいた全員が警戒心と共に立ち上がる。
そして男が動き出した瞬間、イヤホンから流れていた音楽はまるで場を盛り上げる演出をするように音量を上げた。余裕の表れか男はイヤホンから流れる曲に合わせ踊るように戦った。始まりは緩やかに――サビに向かうにつれ段々と華麗かつ激しく。相手の攻撃を躱すその動作すらパフォーマンスの一部ではないかと思わせる程に。曲と動きとでハーモニーを作り上げていた。
そして曲が終盤に差し掛かると、瓦礫の山の頂上へ着地した男は血を払い最後の音と共に刀を鞘に納めた。余韻を残しながら消えていく音を余すことなく、最後の一音まで味わったあと男はイヤホンを取り一つにまとめ首に掛ける。
そして瓦礫の下に転がる御伽達を見下ろし溜息をひとつ零した。
「’F’。EOCBに連絡」
「連絡中……。連絡中……。連絡完了。到着マデ約二十分」
「その間にあの子を探しましょうか」
そして男は瓦礫の山から飛び降りると早速、辺りを見渡す。
だがどこを見ても他の部屋への入口や上への階段は見当たらない。
それを確認すると今度は、地下への道を探し始めた。
「階段は……っと」
そう呟いていると端辺りに隠れるように配置された下へ続く階段を見つけた。
「あそこですか」
男は真っすぐ階段まで歩くと下へ。一歩一歩、落ち着いた足取りで階段を下りていく。
そこには上から僅かに入ってくる光しか無く薄暗い空間が広がっていた。
でもその向こうには錆びつき鍵のかかったドアが一枚。そのドアには上と下にスライド式の鍵が付いており中からは開けな仕組み。
誰が見ても怪しさを醸し出すそこへ男は近づいて行くと、ドア同様に錆びつき固くなった鍵を開けドアノブへ手を伸ばす。古く耳障りな音を出しながら開いたドアの向こう側は、上からの光が入り口付近にしか届いておらず全体的に真っ暗で何も見えない。
だが男は無警戒のまま一歩、その部屋の中へと足を踏み入れた。
その直後、ドア付近に潜んでいた何者かが男に襲い掛かる――が男はそれを分かっていたかのように、振り下ろされた凶器を手首を受け止める事で止めた。
すると遅れて’F’がライトで辺りを照らし、襲ってきた手に握られた石が答え合わせをするように露わとなった。それと同時に襲い掛かってきた人物もまたその姿を露わにする。
それは酷く汚れた服とぼさぼさになった髪の女性。その目は覚悟と攻撃性を宿していたが、その裏側からは微かに恐怖が顔を覗かせていた。
「浜西美咲さんですか?」
そんな女性に優しく尋ねるその声は突然襲われたとは思えないほど悠々としていた。
「あいつら……じゃない?」
女性が戸惑うようにそう呟くと、手に固く握っていた石は地面とぶかる音を辺りへ響かせた。
「誰?」
「私は貴方のご両親に依頼されて貴方を探しにきました」
「私……」
両親という言葉に安心したのか、美咲の目からはボロボロと泪が溢れ出した。
「もう大丈夫ですよ」
そんな彼女を男は優しく声を掛け抱き締める。
そして美咲を連れ上へと戻った。床に転がる御伽たちを彼女に見せぬよう誘導するとまだ形状を維持した椅子へと座らせた。
「後ろの方はあまり見ないことをおすすめします」
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「もう少しでEOCBと救急車が来ますので少々お待ちください」
「はい」
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