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序章:現代桃太郎
【参拾壱】どろぼう猫の食あたり25
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建設現場から出発した桃とマノンは運悪く信号や軽い渋滞に巻き込まれ到着が遅れていた。
『十四時二十七分』
ビルのエレベーターから降り時間を確認していた桃はAOFの前で足を止めた。
そして懐中時計を仕舞ってkらドアを開ける。
「どうぞ」
「わりぃな」
マノンのためにドアを押さえていた桃は彼女の後に事務所内へと入った。ドアを閉め来客用ソファへ目をやるとそこには既に狛井啓三郎が腰を下ろしており、その後ろには部下が二人立っていた。
そして陽咲が丁度お茶を出したところ。啓三郎の正面にはリオが座っている。ドアの音に反応した陽咲とリオの顔は桃の方へと向くが、啓三郎は相変わらず杖に両手を乗せたままじっとしていた。
「どうやら間に合ったようじゃの」
だが一番最初に声を発したのは啓三郎。
「えぇ、何とかでしたがね。ですが約束の物はちゃんと持ってきました」
その言葉にマノンはポケットから宝石を出して見せた。
「勨治《しょうじ》」
啓三郎に名前を呼ばれ二人の元に歩き出したのはサングラスをかけた人身象頭のあの男と人身犀頭の男。
勨治はアタッシュケースを片手に持った男とマノンの前まで足を進めると手を出し宝石を要求した。それに従いその手に宝石を乗せると後ろで開かれていたアタッシュケースに宝石を嵌めた。アタッシュケースには黒い緩衝材が敷き詰められており、丁度真ん中に宝石一個分の凹みがある。
そこに宝石を嵌めアタッシュケースを閉じるとスキャンをしているような音が聞こえ、その後にピピッ! という音が響いた。かと思うとケースは自動でロックされた。
それを確認した勨治と男は啓三郎の後ろへ。
「うむ。よいじゃろう」
そう言うと啓三郎は杖に体重を乗せ立ち上がった。
そしてゆっくりと桃らの前まで歩みを進める。二人の部下もそんな彼の後に続いた。
「約束通り今回の件は水に流してやろう」
「ありがとうございます」
桃は言葉の後に軽く頭を下げた。
「お主のことを少し調べさせてもらった。桃の一族だそうじゃな」
「えぇ。ご先祖様がそう名乗ったのか周りがそう呼び始めたのかは分かりませんが、父からはそう聞かされてます」
「狛井組に残された古い巻物にその名が出てきたことがあったが、まだ続いておったとはの」
「それは狛井組と(桃の)一族との間に交流があったということでしょうか?」
「気になるのならその目で確かめることじゃな。他にも知りたいことがあるのじゃろ?」
その『他』というのが桃と彼との中で同じものなのかは定かではなかっったが、桃にとってその誘いを断る理由はなかった。
「では近いうちにお屋敷にお邪魔させて頂きます」
「わしは饅頭が好物での、楽しみにしとるぞ」
啓三郎は土産に饅頭を持ってこいと遠回しに言うと「ほっほっほ」と笑いながらAOFを後にした。
ドアが閉まるまで啓三郎を見送った桃は一休みする為にリオらが座るソファへ足を進める。桃より先に歩き出していたマノンは三人掛けソファへ倒れるように腰を下ろし、桃はその向かいリオの隣の一人掛けソファに座った。
「随分とかかったみてーだな」
「えぇ、思った以上に色々とありまして」
「桃さんコーヒー飲みますか?」
啓三郎に出したお茶を片付けようとしていた陽咲がそう尋ねると、桃は顔を動かし彼女を見上げた。
「えぇお願いします」
「お客さんも何か飲まれますか?」
桃の返事には笑みで答えた陽咲は次にマノンへ丁寧に体ごと向けた。
「ん~……そーだな」
少し悩むマノンを微笑みを浮かべながらなにも言わず待つ陽咲。
「ミルクティーが飲みたい気分かなぁ~」
それは数ある候補の内、強いて言えばこれというような感じだった。
「分かりました。ホットでいいですか? それともアイスがいいですか?」
「あったかいやつだな」
「すぐに持ってきますね」
二人の要望を聞くと陽咲は給湯室へ。
「ひなたー。俺のも持ってきてくれー」
そんな陽咲にリオはついでという風に自分の分を頼む。それを彼女は快く了承した。
「そう言えば蘭玲の姿が見当たりませんが何か依頼でもあったのですか?」
「いや。今日はまだ何もないけどな。寝てんじゃねーのか?」
「その可能性は高そうですね。まぁ依頼がないのなら構いませんが」
すると桃は思い出したようにポケットから車の鍵を取り出すと身を乗り出してマノンへ差し出した。
「忘れぬうちにお返ししときます」
マノンはそれを受け取るとポケットに仕舞い桃はソファへ戻った。
「これで一件落着ですね」
「そーだな。俺も疲れちまったし姉貴に車返したら暫く休むとするかな」
「どこかでバカンスですか?」
その質問に両手を頭にやり天井を見上げるマノン。
「そーだな。――美術館とか博物館ってのもいいかもな」
「あなたが美術品に興味があるとは意外ですね」
「あーゆうとこは好きだぜ。セキュリティがしっかりしてるからな」
「忍び込む方でしたか」
思わず苦笑いを浮かべる桃。
「安心しろ。俺は休暇の侵入じゃ物は盗まねーからな」
「盗んでるだろ」
「今回はたまたまだ。でもまじで依頼じゃなきゃたまにしか盗まねーから」
人差し指を立て訴えるようにそう言っていたが、その言葉はやはり信憑性に欠けていた。そんな会話をしていると飲み物をトレイに乗せた陽咲が戻って来てそれぞれの前へ。全員に配り終えるとその後にもう一度給湯室へと戻った。
そしてみんながカップを手に取り一口飲んでいる間に、すぐ戻ってきた陽咲は一切れずつの色んなケーキが乗った長方形の大皿を真ん中に置き、人数分の重ねた小皿とフォークの入ったカトラリーケースをその横に置いた。
「良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
皆を代表するように桃がお礼を言うと陽咲はトレイを片付けに戻り、そのまま自分のデスクへ行き仕事を始めた。
それから暫くケーキを食べつつ雑談をしているとノック音が響き、開けた陽咲が中に招きいれたのは緊張気味の若い女性の依頼人。その依頼人と入れ替わるようにマノンは今回のお礼を桃に言いAOFを後にした。
そして依頼人から話を聞いている途中で慌てた様子の蘭玲が飛び込むように入って来ると、開口一番遅刻を謝罪。
それからAOFはいつも通り依頼をこなしていった。
〇〇〇
それから数日後、ガラスのように薄いタブレットを片手にデスクに座っていた桃は思わず笑みを浮かべた。それはタブレットで見つけたとある記事。見出しはこうだった。
『真夜中にセレード近代美術館の警備システム作動するが被害なし! 誤作動か?』
『十四時二十七分』
ビルのエレベーターから降り時間を確認していた桃はAOFの前で足を止めた。
そして懐中時計を仕舞ってkらドアを開ける。
「どうぞ」
「わりぃな」
マノンのためにドアを押さえていた桃は彼女の後に事務所内へと入った。ドアを閉め来客用ソファへ目をやるとそこには既に狛井啓三郎が腰を下ろしており、その後ろには部下が二人立っていた。
そして陽咲が丁度お茶を出したところ。啓三郎の正面にはリオが座っている。ドアの音に反応した陽咲とリオの顔は桃の方へと向くが、啓三郎は相変わらず杖に両手を乗せたままじっとしていた。
「どうやら間に合ったようじゃの」
だが一番最初に声を発したのは啓三郎。
「えぇ、何とかでしたがね。ですが約束の物はちゃんと持ってきました」
その言葉にマノンはポケットから宝石を出して見せた。
「勨治《しょうじ》」
啓三郎に名前を呼ばれ二人の元に歩き出したのはサングラスをかけた人身象頭のあの男と人身犀頭の男。
勨治はアタッシュケースを片手に持った男とマノンの前まで足を進めると手を出し宝石を要求した。それに従いその手に宝石を乗せると後ろで開かれていたアタッシュケースに宝石を嵌めた。アタッシュケースには黒い緩衝材が敷き詰められており、丁度真ん中に宝石一個分の凹みがある。
そこに宝石を嵌めアタッシュケースを閉じるとスキャンをしているような音が聞こえ、その後にピピッ! という音が響いた。かと思うとケースは自動でロックされた。
それを確認した勨治と男は啓三郎の後ろへ。
「うむ。よいじゃろう」
そう言うと啓三郎は杖に体重を乗せ立ち上がった。
そしてゆっくりと桃らの前まで歩みを進める。二人の部下もそんな彼の後に続いた。
「約束通り今回の件は水に流してやろう」
「ありがとうございます」
桃は言葉の後に軽く頭を下げた。
「お主のことを少し調べさせてもらった。桃の一族だそうじゃな」
「えぇ。ご先祖様がそう名乗ったのか周りがそう呼び始めたのかは分かりませんが、父からはそう聞かされてます」
「狛井組に残された古い巻物にその名が出てきたことがあったが、まだ続いておったとはの」
「それは狛井組と(桃の)一族との間に交流があったということでしょうか?」
「気になるのならその目で確かめることじゃな。他にも知りたいことがあるのじゃろ?」
その『他』というのが桃と彼との中で同じものなのかは定かではなかっったが、桃にとってその誘いを断る理由はなかった。
「では近いうちにお屋敷にお邪魔させて頂きます」
「わしは饅頭が好物での、楽しみにしとるぞ」
啓三郎は土産に饅頭を持ってこいと遠回しに言うと「ほっほっほ」と笑いながらAOFを後にした。
ドアが閉まるまで啓三郎を見送った桃は一休みする為にリオらが座るソファへ足を進める。桃より先に歩き出していたマノンは三人掛けソファへ倒れるように腰を下ろし、桃はその向かいリオの隣の一人掛けソファに座った。
「随分とかかったみてーだな」
「えぇ、思った以上に色々とありまして」
「桃さんコーヒー飲みますか?」
啓三郎に出したお茶を片付けようとしていた陽咲がそう尋ねると、桃は顔を動かし彼女を見上げた。
「えぇお願いします」
「お客さんも何か飲まれますか?」
桃の返事には笑みで答えた陽咲は次にマノンへ丁寧に体ごと向けた。
「ん~……そーだな」
少し悩むマノンを微笑みを浮かべながらなにも言わず待つ陽咲。
「ミルクティーが飲みたい気分かなぁ~」
それは数ある候補の内、強いて言えばこれというような感じだった。
「分かりました。ホットでいいですか? それともアイスがいいですか?」
「あったかいやつだな」
「すぐに持ってきますね」
二人の要望を聞くと陽咲は給湯室へ。
「ひなたー。俺のも持ってきてくれー」
そんな陽咲にリオはついでという風に自分の分を頼む。それを彼女は快く了承した。
「そう言えば蘭玲の姿が見当たりませんが何か依頼でもあったのですか?」
「いや。今日はまだ何もないけどな。寝てんじゃねーのか?」
「その可能性は高そうですね。まぁ依頼がないのなら構いませんが」
すると桃は思い出したようにポケットから車の鍵を取り出すと身を乗り出してマノンへ差し出した。
「忘れぬうちにお返ししときます」
マノンはそれを受け取るとポケットに仕舞い桃はソファへ戻った。
「これで一件落着ですね」
「そーだな。俺も疲れちまったし姉貴に車返したら暫く休むとするかな」
「どこかでバカンスですか?」
その質問に両手を頭にやり天井を見上げるマノン。
「そーだな。――美術館とか博物館ってのもいいかもな」
「あなたが美術品に興味があるとは意外ですね」
「あーゆうとこは好きだぜ。セキュリティがしっかりしてるからな」
「忍び込む方でしたか」
思わず苦笑いを浮かべる桃。
「安心しろ。俺は休暇の侵入じゃ物は盗まねーからな」
「盗んでるだろ」
「今回はたまたまだ。でもまじで依頼じゃなきゃたまにしか盗まねーから」
人差し指を立て訴えるようにそう言っていたが、その言葉はやはり信憑性に欠けていた。そんな会話をしていると飲み物をトレイに乗せた陽咲が戻って来てそれぞれの前へ。全員に配り終えるとその後にもう一度給湯室へと戻った。
そしてみんながカップを手に取り一口飲んでいる間に、すぐ戻ってきた陽咲は一切れずつの色んなケーキが乗った長方形の大皿を真ん中に置き、人数分の重ねた小皿とフォークの入ったカトラリーケースをその横に置いた。
「良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
皆を代表するように桃がお礼を言うと陽咲はトレイを片付けに戻り、そのまま自分のデスクへ行き仕事を始めた。
それから暫くケーキを食べつつ雑談をしているとノック音が響き、開けた陽咲が中に招きいれたのは緊張気味の若い女性の依頼人。その依頼人と入れ替わるようにマノンは今回のお礼を桃に言いAOFを後にした。
そして依頼人から話を聞いている途中で慌てた様子の蘭玲が飛び込むように入って来ると、開口一番遅刻を謝罪。
それからAOFはいつも通り依頼をこなしていった。
〇〇〇
それから数日後、ガラスのように薄いタブレットを片手にデスクに座っていた桃は思わず笑みを浮かべた。それはタブレットで見つけたとある記事。見出しはこうだった。
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