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雨、嵐、雷
雨、嵐、雷6
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焦らすように時間を掛けて下がるドアノブと軋みながら開いていくドア。その様子を俺は(恐らく蒼空さんも)固唾を呑んで見守っていた。
そしてついにドアが開き切るとその何者かは一歩足を踏み入れ姿を現した。
「チッ。何だ。先客が居んのかよ」
それはみすぼらしい格好の男(多分ホームレスだろう)。男は舌打ちをすると吐き捨てるようにそう言った。
そしてこっちの反応など興味ないと言うようにさっさとドアを閉め姿を消してしまった。
思う事は同じだっただろう俺と蒼空さんはドアの閉まる音の後、無言で顔を見合わせた。
「来たのかと思ったけど違ったね」
「そうですね」
「――何だお前。おい! 止めろ!」
するとつい先ほどの男のだろう、怒声が外の階段から聞こえてきた。俺達はもう一度ドアへ目をやった後、再び顔を見合わせると無言のまま立ち上がった。
そしてドアまで足を進め蒼空さんの後に続いて部屋の外へ。俺はちょっとしたいざこざでも起きているのかなと思いながらドアを手で押さえたまま、すぐに左手の階段を見下ろした。
だが踊り場には俺が思った以上に異常な光景があった。それは思わずドアから手を離して瞠目し立ち尽くしてしまう程。
そこに居たのは唸り声を上げながら壁に押し付けられる先程の男と首元に腕を押し付ける深くパーカーフードを被った(その所為で顔はおろか性別すらはっきりしない)怪しげな男。一見すれば単なる喧嘩やいざこざにしか見えないがフードの男の右手がソレを歪な光景へと変えていた。
フードの男の右手は先程の男の胸(丁度心臓がある位置)にすっぽり入り込んでいたのだ。だが奇怪な事に胸から血は一切垂れていない。
すると俺達の足音かドアが開く音で動きを止めた男は、微かに顔をこちらへ向けた。しかし、ドアの閉まる音を合図とするように顔を眼前の男へ戻すと右手を動かし始めた。
徐々に抜き取られていく右手には、やはり血は付いていない。
そしてついに体から出てきたその右手には、光り輝く火の玉が握られていた。というより映画や漫画の世界で魔法攻撃するように手中で浮遊していた。奇妙で非現実的で不気味で――なのにどこか美しさすら感じる火の玉。
だけど、それが一体何のなのか、と隣の蒼空さんに訊く余裕すらなく俺は目の前の光景を見るのに精一杯だった。
そんな俺の視線先でフードの男は当然であるかのようにその火の玉を口へ運び始める。火の玉の輝きに照らされ見えた小さく開いた口へ近づいていったそれは最後に押し込まれるように口中へ収められた。咀嚼をするような動きはなくそのまま呑み込んだのだろう。フードの男の顔が少し上がった(だが顔は依然と見えない)。
「蒼空さん……」
薄々感づいてはいたが俺は問うように蒼空さんを呼んだ。
「夢喰いだ」
言葉の後、止まっていた時間が動き出したかのように蒼空さんは唐突に階段を下り始めた。俺も慌てながらその後を追う。
しかしフードの男――夢喰いは少し顔をこっちへ向けると、押さえ付けていた男を蒼空さんへ投げ飛ばし逃走を開始。蒼空さんは自分の方へ飛んできた男を(俺がいると分かっていたのか)受け流すと逃げようとする夢喰いへ手を伸ばすが指先と服がすれ違うだけで捕まえることは叶わなかった。
一方、俺は男を受け止めた。だがそのぐったりとした男に意識はない。
その瞬間、まさか、と脳内を過る不安。心臓が早鐘を打った。
「蒼空さんこの人――」
「大丈夫。ただ気を失ってるだけだから」
俺の悪い予感はお見通しと言わんばかりに蒼空さんは言葉だけを残しそのまま夢喰いを追っては階段を駆け下りていく。
もう一度、視線を男に落とした俺は拭い切れない心配と共に胸に手を当ててみる。すると心臓が大丈夫だと言うように鼓動するのを感じた。
「良かった」
だが安堵してる暇も無く、男を近くの壁へ凭れさせると俺はすぐに蒼空さんを追った。階段を駆け下りビルから出ると透かさず左右を確認する。左手の向こうに走る人影を見つけるとそれを追い走り出した。
それから見失わないように何とか後を追っていたが、段々と人通りが多くなっていき――ついには人混みに蒼空さんの背中は消えてしまった。それでも進んでいれば見つかるかもしれないと足を進めていると、スクランブル交差点の中央で立ち止まり辺りを頻りに見回している蒼空さんの姿を見つることが出来た。
俺は人波の中を泳ぐ魚のように進んで近づいていき、
「蒼空さん」
名前を呼びながら肩へ手を伸ばした。
そしてついにドアが開き切るとその何者かは一歩足を踏み入れ姿を現した。
「チッ。何だ。先客が居んのかよ」
それはみすぼらしい格好の男(多分ホームレスだろう)。男は舌打ちをすると吐き捨てるようにそう言った。
そしてこっちの反応など興味ないと言うようにさっさとドアを閉め姿を消してしまった。
思う事は同じだっただろう俺と蒼空さんはドアの閉まる音の後、無言で顔を見合わせた。
「来たのかと思ったけど違ったね」
「そうですね」
「――何だお前。おい! 止めろ!」
するとつい先ほどの男のだろう、怒声が外の階段から聞こえてきた。俺達はもう一度ドアへ目をやった後、再び顔を見合わせると無言のまま立ち上がった。
そしてドアまで足を進め蒼空さんの後に続いて部屋の外へ。俺はちょっとしたいざこざでも起きているのかなと思いながらドアを手で押さえたまま、すぐに左手の階段を見下ろした。
だが踊り場には俺が思った以上に異常な光景があった。それは思わずドアから手を離して瞠目し立ち尽くしてしまう程。
そこに居たのは唸り声を上げながら壁に押し付けられる先程の男と首元に腕を押し付ける深くパーカーフードを被った(その所為で顔はおろか性別すらはっきりしない)怪しげな男。一見すれば単なる喧嘩やいざこざにしか見えないがフードの男の右手がソレを歪な光景へと変えていた。
フードの男の右手は先程の男の胸(丁度心臓がある位置)にすっぽり入り込んでいたのだ。だが奇怪な事に胸から血は一切垂れていない。
すると俺達の足音かドアが開く音で動きを止めた男は、微かに顔をこちらへ向けた。しかし、ドアの閉まる音を合図とするように顔を眼前の男へ戻すと右手を動かし始めた。
徐々に抜き取られていく右手には、やはり血は付いていない。
そしてついに体から出てきたその右手には、光り輝く火の玉が握られていた。というより映画や漫画の世界で魔法攻撃するように手中で浮遊していた。奇妙で非現実的で不気味で――なのにどこか美しさすら感じる火の玉。
だけど、それが一体何のなのか、と隣の蒼空さんに訊く余裕すらなく俺は目の前の光景を見るのに精一杯だった。
そんな俺の視線先でフードの男は当然であるかのようにその火の玉を口へ運び始める。火の玉の輝きに照らされ見えた小さく開いた口へ近づいていったそれは最後に押し込まれるように口中へ収められた。咀嚼をするような動きはなくそのまま呑み込んだのだろう。フードの男の顔が少し上がった(だが顔は依然と見えない)。
「蒼空さん……」
薄々感づいてはいたが俺は問うように蒼空さんを呼んだ。
「夢喰いだ」
言葉の後、止まっていた時間が動き出したかのように蒼空さんは唐突に階段を下り始めた。俺も慌てながらその後を追う。
しかしフードの男――夢喰いは少し顔をこっちへ向けると、押さえ付けていた男を蒼空さんへ投げ飛ばし逃走を開始。蒼空さんは自分の方へ飛んできた男を(俺がいると分かっていたのか)受け流すと逃げようとする夢喰いへ手を伸ばすが指先と服がすれ違うだけで捕まえることは叶わなかった。
一方、俺は男を受け止めた。だがそのぐったりとした男に意識はない。
その瞬間、まさか、と脳内を過る不安。心臓が早鐘を打った。
「蒼空さんこの人――」
「大丈夫。ただ気を失ってるだけだから」
俺の悪い予感はお見通しと言わんばかりに蒼空さんは言葉だけを残しそのまま夢喰いを追っては階段を駆け下りていく。
もう一度、視線を男に落とした俺は拭い切れない心配と共に胸に手を当ててみる。すると心臓が大丈夫だと言うように鼓動するのを感じた。
「良かった」
だが安堵してる暇も無く、男を近くの壁へ凭れさせると俺はすぐに蒼空さんを追った。階段を駆け下りビルから出ると透かさず左右を確認する。左手の向こうに走る人影を見つけるとそれを追い走り出した。
それから見失わないように何とか後を追っていたが、段々と人通りが多くなっていき――ついには人混みに蒼空さんの背中は消えてしまった。それでも進んでいれば見つかるかもしれないと足を進めていると、スクランブル交差点の中央で立ち止まり辺りを頻りに見回している蒼空さんの姿を見つることが出来た。
俺は人波の中を泳ぐ魚のように進んで近づいていき、
「蒼空さん」
名前を呼びながら肩へ手を伸ばした。
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