41 / 55
第四章:消えぬ想い
6
しおりを挟む
翌日、僕は頭痛に寄り添われながら朝を迎えた。それに加え寝不足。今までの朝の中でも三本の指に入る程に体の調子は悪い。でも何故かそこまで嫌な朝じゃなかった。頭痛の鼓動に合わせるように昨日の記憶が脳内で再生される。源さんの言葉を思い出しながら僕は机に置いてあった手紙を手に取った。
それは最後の手紙。もう何度読み返したか分からないその文をまた読み返してみても、まるで何度読んでも同じ結末を迎える小説のように最後は彼女の名前が終わりを告げる。二つの丸いシミに滲んだその文字を僕は指でなぞった。
「夕顔さん」
昨日、源さんは自分より僕の気持ちを優先しろと言ってたけど僕は彼女の気持ちを優先したい。彼女が何を望んでいるのか。それが彼女の口から直接聞きたい。そうしないと例え同じ結末でも終わりにする事なんて出来ないから。
「はぁー」
でも一体どうやって。そう思った途端、溜息が自分勝手に零れ落ちた。そしてその溜息が部屋の空気の一部となると僕は手紙を戻しお店へと下りた。
あの場所ならもしかしたらもう一度。そんな期待がなかった訳じゃないけど僕は昨日と同じ時間帯にあの場所へ足を運んでいた。木塀で向こうは見えない所為かもしかしたら今も反対側には夕顔さんがいるのかもしれない。なんて思ってしまう。でも昨日とは違い今日は沈黙を保っていた。
「そんなわけないよね」
一人そう呟くともう少しだけその場に来るはずもないもしかしたらを待っていたが、結局それは単なる期待でしかなく僕はお店へと帰った。
だけどそんな奇跡に縋るとも言うべき行為以外にどうすればいいのか思いつかず僕は次の日も同じようにそうしていた。その次の日も。でも更に次の日でさえ夕顔さんと再会することは叶わなかった。
なのにも関わらず僕はその翌日もそこに居た。今日ももしそこに来なかったらもういっその事、無理矢理にでも諦めてやろうか。なんて運試しのような事を考えながら。でもまるで同じ日を繰り返しているかのように塀の向こうは沈黙が蔓延っていた。
そして今日もダメかと心の中で嘆息を零しながらお店へ帰ろうと数歩足を進ませた僕だったが、名残惜しさがそうさせたのか足を止め一度後ろを振り返った。
すると木塀の向こう側で雲の子のように白い煙が空高くへと昇っていた。その煙に確信は無かったが僕の頭へ真っ先に浮かんできたのは煙管を片手に持つ夕顔さんの姿。同時に期待で胸は高鳴り煙に誘われるように足は塀の前へと戻っていた。もしかしたら今まさにこの向こう側に彼女が。そう思うと彼女を求め手が塀へと伸びる。
だけどそこに居るのが夕顔さんなんて確証はどこにもない。もし違っててこの事が知られたら、僕は何も出来てないのにただお店が潰されてしまう。その不安が僕の声を喉で止めていた。
もしこのまま帰れば何も変わらないまま彼女はここを出て行く。もし声を掛けて見当違いだったら彼女ともう一度話したいという願いを叶えることすら叶わず、僕らがここを出て行くことになる。半か丁かの博打のような選択に僕は顔を俯かせた。考えたところで何かが変わる訳じゃないのに、何を考えればいいのかさ分からないのに。僕はただ塀に手を触れさせたままどうすればいいのかと頭を悩ませていた。
でもそんな僕の顔を上げさせたのは、
『お前さんが幸せなら儂もそうだ』
源さんの言葉だった。もし失敗してその責任を負うのが自分一人だけだったら。そう考えたらさっきまで全く同じ色に見えていた選択肢の一つがもう迷う必要はないと言うように色鮮やかに見えた。
それは最後の手紙。もう何度読み返したか分からないその文をまた読み返してみても、まるで何度読んでも同じ結末を迎える小説のように最後は彼女の名前が終わりを告げる。二つの丸いシミに滲んだその文字を僕は指でなぞった。
「夕顔さん」
昨日、源さんは自分より僕の気持ちを優先しろと言ってたけど僕は彼女の気持ちを優先したい。彼女が何を望んでいるのか。それが彼女の口から直接聞きたい。そうしないと例え同じ結末でも終わりにする事なんて出来ないから。
「はぁー」
でも一体どうやって。そう思った途端、溜息が自分勝手に零れ落ちた。そしてその溜息が部屋の空気の一部となると僕は手紙を戻しお店へと下りた。
あの場所ならもしかしたらもう一度。そんな期待がなかった訳じゃないけど僕は昨日と同じ時間帯にあの場所へ足を運んでいた。木塀で向こうは見えない所為かもしかしたら今も反対側には夕顔さんがいるのかもしれない。なんて思ってしまう。でも昨日とは違い今日は沈黙を保っていた。
「そんなわけないよね」
一人そう呟くともう少しだけその場に来るはずもないもしかしたらを待っていたが、結局それは単なる期待でしかなく僕はお店へと帰った。
だけどそんな奇跡に縋るとも言うべき行為以外にどうすればいいのか思いつかず僕は次の日も同じようにそうしていた。その次の日も。でも更に次の日でさえ夕顔さんと再会することは叶わなかった。
なのにも関わらず僕はその翌日もそこに居た。今日ももしそこに来なかったらもういっその事、無理矢理にでも諦めてやろうか。なんて運試しのような事を考えながら。でもまるで同じ日を繰り返しているかのように塀の向こうは沈黙が蔓延っていた。
そして今日もダメかと心の中で嘆息を零しながらお店へ帰ろうと数歩足を進ませた僕だったが、名残惜しさがそうさせたのか足を止め一度後ろを振り返った。
すると木塀の向こう側で雲の子のように白い煙が空高くへと昇っていた。その煙に確信は無かったが僕の頭へ真っ先に浮かんできたのは煙管を片手に持つ夕顔さんの姿。同時に期待で胸は高鳴り煙に誘われるように足は塀の前へと戻っていた。もしかしたら今まさにこの向こう側に彼女が。そう思うと彼女を求め手が塀へと伸びる。
だけどそこに居るのが夕顔さんなんて確証はどこにもない。もし違っててこの事が知られたら、僕は何も出来てないのにただお店が潰されてしまう。その不安が僕の声を喉で止めていた。
もしこのまま帰れば何も変わらないまま彼女はここを出て行く。もし声を掛けて見当違いだったら彼女ともう一度話したいという願いを叶えることすら叶わず、僕らがここを出て行くことになる。半か丁かの博打のような選択に僕は顔を俯かせた。考えたところで何かが変わる訳じゃないのに、何を考えればいいのかさ分からないのに。僕はただ塀に手を触れさせたままどうすればいいのかと頭を悩ませていた。
でもそんな僕の顔を上げさせたのは、
『お前さんが幸せなら儂もそうだ』
源さんの言葉だった。もし失敗してその責任を負うのが自分一人だけだったら。そう考えたらさっきまで全く同じ色に見えていた選択肢の一つがもう迷う必要はないと言うように色鮮やかに見えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる