乙女ゲームに転移したけど無理ゲー過ぎて笑える(仮)

鍋底の米

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ファリを探して

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 ファリはおそらく、奴隷商に売られている。
 おれも売られる予定だから、このまま逃げださずにここに居れば、奴隷商の場所は分かる訳だけれど…

 その方法はリスクが高すぎる。

 その場合、勿論首輪から解放されていないふりをするつもりではあるが、神経質そうなあの男を長時間おれが騙し続けられるとは思えない。
 何せ呼吸ひとつ乱すことが出来ないのだから。


 おれ達を捕まえた男が戻る前に街へ出て、足で探すしかない。

 そうと決めたら、一刻も早く、ここを出た方がいい。

 効力を失った首輪と、いくつか出したままになっている枝を全てアイテムボックスに収納してから部屋を出る。

 思った通り、ここは小さな建物だった。部屋を出て階下に降りると、すぐに外への扉が見えた。
 一階の部屋も普段から使われている形跡はなく、古びた空家を一時的な取り引きの場として使っていたようだ。

 建て付けの悪い扉を開けて外に出ると、昼間だというのに人通りの無い薄暗い裏通りに出た。そういう立地だからこそ、裏取引の場所として使われたのだろう。

 先刻マップで確認した、人を示す青い点が流れていた方向へ歩き出す。人ひとりがやっと通れるほどの細い路地裏を通り抜けると、大勢の人々が行き交う表通りへと出た。

 この異世界に来て初めての街の光景。

 石畳みの通りの両側に、少し黄味がかった白っぽい石造りの建物が並んでいる。素朴な作りで同じ石材が使われてはいるものの、建物の大きさや高さが様々であるせいで雑然とした印象もある。

 現代の日本とは全く趣きが違う雰囲気に圧倒される。

 有難いことに、この世界の文字も問題なく読むことができ、看板に記されている文字から、表通りに面した建物の多くが店舗となっていることが分かった。

 カイヤギは、王都ほどではないだろうが、賑わっている都市のひとつであると思われる。

 表通りから繋がる先の、広場のような所には、多くの露店が軒を並べているようで、人通りも多い。

 広場の方向に歩きながら、通りを行き交う人々を観察する。

 男性はボタン類が付いていない被るタイプのシャツにズボン、女性は同様のシャツにスカートか、ワンピースのような服装がスタンダードなようだ。

 他には、腰に剣を佩き、革の胸当てなんかを付けた冒険者風の人や、長いローブのような物を着た魔術師風の人も混じっている。
 この街には冒険者ギルドもあるのかもしれない。

 改めて自分の格好を見ると、制服のシャツとズボンで、大雑把に言えば、この街の一般男性と同じ服装とは言える。

 しかし、あの男が言っていた通り、仕立てや素材が全然違う。

 制服のシャツは真っ白で、複数のボタンが付いた前びらきであり、胸ポケットにはシャツと同じ白い糸で、校章が緻密に刺繍されている。刺繍糸には光沢があり、同色であることで控えめでありながら、品良くシャツを装飾している。

 布地の色ひとつをとっても違っている。
 生成りのシャツを着ている者は多いが、制服のシャツのように真っ白な物は見かけない。

 グレーのスラックスは精巧な作りの細いベルトで押さえられていて、前にはファスナーとボタンがついている。ファスナー部分は折り返されている布で見えてはいないけれど、作りの違いは一目でわかる。

 表通りを歩いている男達のズボンは、前が開かないタイプのもので、ウエスト部分は紐で絞られているものが多い。染め色にもムラがある。冒険者などは革のベルトを使っている者もいるようではあるが、防御も兼ねた物らしく印象はまるで違う。

 この服装のせいで貴族と勘違いされたのがわかるような気もする。

 これを逆手に取って、奴隷を買いに来た貴族を装い、ファリを助け出すのも手かもしれない。

 よし、堂々と正面から乗り込んでやるか!

 あの男達が戻ってくる前にファリを奪還しなければならない。早く店を探さなくては。


「あの、すみません」

 とりあえず、広場に座って屋台で買った軽食を食べていた年配の男性に声をかける。
 男の傍には、使い込まれた工具箱のような物が置かれている。
 今は昼休憩中というところか。
 この街に詳しいに違いない。

「この辺りに奴隷商があると聞いたのですが、どこにあるかご存知ですか?」

 少しでも貴族っぽく、と思って敬語を使ってみたけど、ちゃんと話せているかな?
 怪しまれて通報されるかもしれないと、内心ヒヤヒヤしながらも思い切って聞いてみた。

「…ああ、それなら、あっちの通りの2番目の角を右に曲がって三軒目あたりにありますよ」

 じろじろとは見られたが、緊張とは裏腹にあっさりと情報を貰えて拍子抜けする。

「ありがとうございます」

 お礼を言って、教えて貰った方向を目指す。

 教えに従い歩いて行くと、広場に繋がる表通りほどではないが、それなりに開けた通りの道具屋の隣に、堂々と奴隷商店が建っていて面食らった。

 俺たちを攫った男が『獣人を奴隷としてではなく、従者として連れている貴族はそうは居ない』と言っていた。

 裏を返せば、獣人を奴隷として連れているのなら珍しくはない、と言っているようなものだ。

 この国での奴隷商は、異端でも違法なものでも無く、市民権を得ている商売なのかもしれない。

 ふざけるな!

 お腹の底で不快なモヤモヤとした怒りが渦まく。

 人の尊厳を踏みにじり、道具として使うなんて、言語道断だ!

 そんな奴隷制度を当たり前のように認めているこの国も好きになれそうにない。

 それに、奴隷制度がいくら市民権を得ていると言っても、人攫いは完全に犯罪だろう。


 ファリ…

 優しく思いやり深い、美しい心根。
 長年努力を重ね続け、強さを得た凛とした体。

 そういう尊さを一瞬で踏みにじり、ただの獣と蔑んで、道具として扱う奴隷商店。

 そんな場所にファリを、一刻でも居させたくはない。
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