幸せ望んでいいですか?〜三度目の正直〜

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序章

前々世

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 公爵令嬢ソランジュ=ベアトリクス。
アトランティッド王国、王太子テオドール=アトランティッドの婚約者。

 傲慢でワガママ放題。執事や侍女、使用人達に、少しでも気にくわないことがあれば怒鳴り散らす。
 手を出すことも多く、自分以外の人間を見下している。

 自分のことを絶世の美女だと思い、自分にふさわしいのは、容姿、頭脳、魔法、剣術、地位、全てに優れたテオドールしかいないと思っており、四大公爵家の1つ、ベアトリクス公爵家の娘ということと、魔力の多さ、4属性持ちということで、テオドールの婚約者に収まった。

 王太子妃として求められる教養を
「美しい私には必要ない」と、一切身につけず、婚約者という立場に胡座をかいて、公爵家だけでなく、王宮でも権力を振りかざすようになった。

  醜悪でまるで豚のようにぶくぶくと太った自分の容姿を認めることはなく、社交界の陰で"醜悪令嬢"と呼ばれていることにも気づかない。
 それが自分を指しているとは思ってもみない。

 テオドールと過ごす時も、目をそらされ、会話も全く成り立たないことにも疑問を抱くことはない。
"私が美し過ぎて照れているのね!"と見当違いも甚だしい。

 茶会のお誘いを断られ、王宮に訪ねて会うのを断られても、"美しい私に会うのが恥ずかしいのだわ!"と、嫌われて避けられていることに気づかない。

 テオドールに近づく他の令嬢達は、権力を使い、もう二度と王太子に近づこうなんて思わないように、社交界にも出てこられないぐらいに執拗に追い詰めた。
 13歳になる年に、学園に入学してからも。

 テオドールの隣を独占し、近づく者は徹底的に排除した。ソランジュは、勉強もマナーも魔法以外何もかもが及第点にもかかわらず、悪事にだけは異様に頭の回転が速かった。

14歳、ソランジュが3学年に進級した年。
1学年に平民である中、首席合格をして新入生代表として入学してきた者がいた。

 その娘はハンナといい、物怖じしない性格ですぐに学園に馴染み、その性格と優秀さで、有力貴族令息達と瞬く間に仲良くなっていった。不自然なほどに。

 テオドールもハンナとの距離を縮めっていった。ソランジュは嫉妬に狂った。
格下の平民に、テオドールの隣を奪われたことに。

 今までとは比にならない程に、惨虐な行為を繰り返した。水をかけ、制服を切り刻み、階段が突き飛ばしたり、、、。
 それには、テオドールの我慢も限界だった。
 テオドールは、以前から婚約破棄は考えていた。王太子妃としての教養も何もない。守るべき民である国民を平民だからと、汚いと見下す。
理由は十分だった。

 学園では、1学期終業式の日に毎年舞踏会が執り行われる。
 その日、テオドールは、ソランジュの今までの悪事の証拠を集められる限り全てを集め、断罪した。

 ソランジュはいつものように宝石をジャラジャラと身につけ、無駄に豪華で派手なドレスを着て、会場に赴いた。
 
婚約者であるテオドールのエスコートはなかったものの、
"美しい私の横に立つ自信がないのね!私ほどではないけどテオドール様は美しいのに。"と思い、ほくそ笑みながら会場に入場した。

 その瞬間、照明で照らされる。

"私を歓迎しているのね!よくわかってるじゃない!!"

 そんな中、テオドールの声が響く。

「ベアトリクス公爵令嬢、ソランジュ=ベアトリクス。私、テオドール=アトランティッドは貴女との婚約を破棄する!今までの王宮の使用人を見下し、虐げてきた行動。そして、ここにいるハンナを始め、その他貴族令嬢達を、守るべき民を貶め苦しめた行い。全て王太子妃になる者にふさわしくない!!
よって婚約破棄とともに、今までの許しがたい罪!アトランティッド王家のもと、貴様を国外追放の刑に処す!
すでに陛下と公爵からは承認を得ている!」

 ソランジュは何を言われたか全く理解できなかった。単純に、頭が足りなかったのだ。

「衛兵!その醜い豚を連れていけ!」

 自分のことを言っているという事だけは足りない頭で理解した。

"み、みにくい、、、?この私が?"

 衛兵に拘束されてそのまま連れ出されたソランジュは、何を持つこともなく、舞踏会の会場に入った時よりかは乱れた格好で、国境を越えた先で置き捨てられる。
 手は後ろで魔力封じの鎖で拘束されたまま。

"私が、みにくい……醜い?ぶた…?私が、豚?"

それだけを頭で繰り返し、自分の身がどうなってるのかもわからずに、その豚のような巨体を揺らし、亡霊の様に彷徨う。

  ーグサッ

背中に激痛が走る。

  ーグサッ

また同じ激痛が走る。

「こんな豚には、もったいないくらいに宝石がジャラジャラだぜ!」

「それにしても臭えな、こいつ。ドレスだから女なんだろうけど。」

「貴族様だろう?こんな格好でこんな所に居たら狙われるに決まってるのにな!」

 遠くなる意識の中でそんな声が聞こえた。

"あー、私は醜かったのね。容姿も中身も。"

 理解するのが遅かった。テオドールの言葉を何度も繰り返して、刺されて死ぬ間際にやっと理解した。

"もし、次があるのなら、、、私はーー"


 











私はなんて最低だったんだろう。
"どうして私がイジメられなきゃいけないの?"
"なんでこんなに不幸なんだろう?"
いつもそう考えていた。
私がイジメられるのは当たり前だ。今までイジメてきたのは私。償うことも何もせずに死んだ私への罪だったんだ。
ソランジュとして死んだ時、人を見下し、虐げることは決してしない。と誓った。ソランジュが行ってきた最低の行為を、身に持って感じた。
"幸せになりたい"
など、願うことも許されなかったのに、、、何度も願ってしまった。



"それでも私は幸せになりたい"


叶うことのない願い。
もし、三度目があるなら、
"幸せになりたい"と、願うぐらいは許されたいなーー
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