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神は僕を取り巻く環境を複雑にした
神は僕らを飛騨高山に誘った
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■■■■■■
岐阜県高山市は 日本列島のほぼ中央に位置し、東西は険しい山に、南北を厳しい河川峡谷に囲まれた盆地からなる温泉地だ。
曳き屋台が町を練り歩く伝統行事【高山祭】は、京都の祇園祭、秩父夜まつりと並ぶ日本三大美祭の一つとして全国的に知られ、ユネスコ無形文化遺産に登録されていることでも有名だ。 また彫刻や染物などの工芸品の産地でもあって、昔懐かしい町家や造り酒屋が軒を連ねる、風情ある街並みが広がっている。
様々な史跡や文化財が残る歴史の町である高山は、別名【飛騨の小京都】とも呼ばれているのだった。
ーーーーーー
「ねえ、恒星 」
「なに? 」
「さっきから後ろの二人は一体、何を話してるんだろうね。英語を喋ってるし、物凄いスピードだから、全然わかんないや 」
「……ああ、そうだね 」
さて僕はと言うと、十年ちょっとの人生の中で、最も気まずい時間を過ごしていた。
我が家の自家用車の運転席には、最近ただならぬ視線をを僕に向けてくる、再従兄弟の佳央理がいる。そして後部座席には、麻愛と彼女を追いかけてきたというアルバート(もう敬称をつけるのは止めた)が座っている。これははっきり言って、地獄の空間と形容してもいいだろう。
どうして、こんな複雑な状況になっているかと聞かれたら、僕はとても返答に困る。正直なところ、まだ現状の把握は出来ていない。
車内では、異国の言語が物凄いスピードで繰り出され、僕と佳央理は唖然としている。昨日、彼女はアルバートに対して少し距離を置こうとしているようにも感じたが、今日の態度は至って普通だ。おそらく二人は共通の知人の近況や、最近の研究論文の内容とか、そういう話をしているような気がしたが、そんな難しい内容は日本語でされたとしてもわからない。それが英語であれば尚更、僕に理解出来るはずもなかった。
「って言っても、恒星は何となくは分かってんじゃないの? たまに、英語の試験を受けてたよね? えっとTOEICだっけ? 」
「うん、まあ。でも二人が何の話題に関して話しているかまでは、わからない 」
「そうなんだ。恒星、英語が好きなんだと思ってた 」
「好きっていうか…… 」
それは勝手に必要に迫られて、独学で少しづつ勉強していただけだ。別に好きなわけではない。
「英語は嫌いではないけど、好きでもない。受験のときに、点数取っとくと有利な大学があるって聞いたから。何となく、試験を受けてるだけだし 」
「へー、そうなんだ。恒星も意外に、進路のこととかちゃんと調べてんだね 」
「まあ…… 」
僕は咄嗟に、口から出まかせな嘘をつく。お願いだから、もうこれ以上僕の罪を増やさないでくれと思うけど、本当の理由を言うわけにもいかない。
僕を悩ませるのは、彼女だけではない。
佳央理もまた僕にとっては、一筋縄ではいかない存在なのだ。
「でも、恒星。いつもどこか遠くまで、試験を受けに行ってるよね 」
「うん…… 下呂では試験は受けられないから、最近は高山会場に行くことが多いけど 」
「じゃあ、今日の私たちの目的地と一緒だね 」
「うん、まあそうだね 」
そう、今日の僕らの目的地は飛騨高山。
別名を飛騨の小京都と言わしめる、人気の観光地だ。
僕らが暮らす下呂温泉街から、車で北に一時間。新緑が生い茂る山並みを抜けた先に、高山の観光地が広がる。雰囲気抜群の町並み巡りは、国内外のみならず観光客には人気のスポットで、僕らはその街を目指していた。
何故、そんな場所にこの四人で向かうことになったのか。そのきっかけは、彼女が昨晩、僕に寄越した一本の電話だった。
昨日は色々なことがあった。
昼間は彼女の父の逆瀬川さんに偶然出くわし、彼女の出生の秘密を交えた、非常に込み入った話をされた。
それにつけて、夜は彼女を追いかけてイギリスからやって来たという、筋金入りのライバル アルバートと出会った。
そして翌日にあたる今日は、何故か一緒に観光地へと向かっている。
田舎町でのんびり暮らす僕には、昨日からの一連の流れは、ジェットコースターのように目まぐるしい。そのうち彼女とも高山を訪れたいとは思っていたが、まさかこんなに急に、しかもこんな濃厚なメンバーで来ることになるとは、夢にも思っていなかった。さらに、そこには佳央理を助っ人として呼ぶという、最終手段まで発動している。避けたいシチュエーションのオンパレードだ。
小一時間のドライブを経て、僕らは高山中心部にあるパーキングに車を置いた。観光地だから一日停めたら物凄い金額になりそうだけど、この際それは気にしないことにする。
「ほら、麻愛ちゃん、それにアルバートさん! こっちこっちー! 」
「ちょっと、佳央理! そんなに腕を引っ張るなって 」
「急がないと、朝市が終わっちゃうんだもん。それに、少しでも二人きりにしてあげたいでしょ? 」
「いや…… それは、その…… 」
車を停めるや否や、僕たちは間髪入れずに宮川朝市という場所へと来ていた。彼女とアルバートをサシにするとか、そういう気遣いは僕としては一切無用なんだけど、一般的には彼女とアルバートさんの関係性は、そう思われないことが頭の痛い問題だ。僕は恐る恐る後方を振り返ると、彼女とアルバートの様子を確認する。二人とも佳央理の勢いに、少し圧倒されているようだった。
「別に…… あの二人には、気を使わなくていいんだよ 」
「何でよ? 麻愛はちゃんはともかく、アルバートは わざわざイギリスから追っかけてきたんでしょ? ちょっと年齢は離れているような気もするけど、相当好きじゃなかったら、わざわざこんな山奥まで来ないって 」
「それは、そうかも知れないけど…… 」
僕は言葉を濁してみたが、それは百発百中わかりきったことだった。何にせよ、アルバートは彼女のことが好きなのだろう。でなければ、こんな日本の山奥までやってきた行動力に、説明がつかない。
でも、昨日彼女が旅館でアルバートの姿を見たとき、その表情はとても驚いているように見えた。彼女は確実に戸惑っていて、遥か遠い異国からやってきた知人を、歓迎しているようには思えなかったのだ。
そして成り行きで、彼女はアルバートと二人で話をすることになったけれど、最終的に僕に電話を掛けてきた。
そして彼女は僕に「一緒に高山に来て欲しい 」と告げたのだ。そんなことを言われたら、断る理由もない。
佳央理に助っ人を頼んだのは、不可抗力だった。
手当たり次第に心当たりに声を掛けたけど、匡輔と椿は旅館のバイト、残念ながら母さんと父さんは、明日に限っては輪番で店開けなくてはならないときた。それならいっそうのこと、僕と彼女とアルバートという地獄の組み合わせで出掛けようかと思ったが、待ったをかけたのは母さんだった。高山までは鈍行で行けば一時間以上は掛かるし、週末の朝一番となれば、飛び込みでひだ号の席が確保できるとは限らない。となら ば、車で向かうのが手っ取り早いのだが、あいにく高校生の僕らは運転が出来ない。というわけで、佳央理が付き添いの候補に上がってくるのは、自然な流れだった。
母さんは親類である佳央理が、僕に近親者以上の情を抱いているなど、これっぽっちも思っていないし、そのシチュエーションを回避しようとすれば、逆に怪しまれることになる。僕は心のどこかで、佳央理がテスト中だとか言って高山行きを断ってくれることを暗に期待したが、返事は二つ返事で『明日は暇だからいいよ』であった。
というわけで、僕らはこの良くわからない組み合わせで、高山の街を訪れることになったのだった。
だから、僕は声を大にして主張したい。
この現状に関しては、僕が望んだことではないのだと。
岐阜県高山市は 日本列島のほぼ中央に位置し、東西は険しい山に、南北を厳しい河川峡谷に囲まれた盆地からなる温泉地だ。
曳き屋台が町を練り歩く伝統行事【高山祭】は、京都の祇園祭、秩父夜まつりと並ぶ日本三大美祭の一つとして全国的に知られ、ユネスコ無形文化遺産に登録されていることでも有名だ。 また彫刻や染物などの工芸品の産地でもあって、昔懐かしい町家や造り酒屋が軒を連ねる、風情ある街並みが広がっている。
様々な史跡や文化財が残る歴史の町である高山は、別名【飛騨の小京都】とも呼ばれているのだった。
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「ねえ、恒星 」
「なに? 」
「さっきから後ろの二人は一体、何を話してるんだろうね。英語を喋ってるし、物凄いスピードだから、全然わかんないや 」
「……ああ、そうだね 」
さて僕はと言うと、十年ちょっとの人生の中で、最も気まずい時間を過ごしていた。
我が家の自家用車の運転席には、最近ただならぬ視線をを僕に向けてくる、再従兄弟の佳央理がいる。そして後部座席には、麻愛と彼女を追いかけてきたというアルバート(もう敬称をつけるのは止めた)が座っている。これははっきり言って、地獄の空間と形容してもいいだろう。
どうして、こんな複雑な状況になっているかと聞かれたら、僕はとても返答に困る。正直なところ、まだ現状の把握は出来ていない。
車内では、異国の言語が物凄いスピードで繰り出され、僕と佳央理は唖然としている。昨日、彼女はアルバートに対して少し距離を置こうとしているようにも感じたが、今日の態度は至って普通だ。おそらく二人は共通の知人の近況や、最近の研究論文の内容とか、そういう話をしているような気がしたが、そんな難しい内容は日本語でされたとしてもわからない。それが英語であれば尚更、僕に理解出来るはずもなかった。
「って言っても、恒星は何となくは分かってんじゃないの? たまに、英語の試験を受けてたよね? えっとTOEICだっけ? 」
「うん、まあ。でも二人が何の話題に関して話しているかまでは、わからない 」
「そうなんだ。恒星、英語が好きなんだと思ってた 」
「好きっていうか…… 」
それは勝手に必要に迫られて、独学で少しづつ勉強していただけだ。別に好きなわけではない。
「英語は嫌いではないけど、好きでもない。受験のときに、点数取っとくと有利な大学があるって聞いたから。何となく、試験を受けてるだけだし 」
「へー、そうなんだ。恒星も意外に、進路のこととかちゃんと調べてんだね 」
「まあ…… 」
僕は咄嗟に、口から出まかせな嘘をつく。お願いだから、もうこれ以上僕の罪を増やさないでくれと思うけど、本当の理由を言うわけにもいかない。
僕を悩ませるのは、彼女だけではない。
佳央理もまた僕にとっては、一筋縄ではいかない存在なのだ。
「でも、恒星。いつもどこか遠くまで、試験を受けに行ってるよね 」
「うん…… 下呂では試験は受けられないから、最近は高山会場に行くことが多いけど 」
「じゃあ、今日の私たちの目的地と一緒だね 」
「うん、まあそうだね 」
そう、今日の僕らの目的地は飛騨高山。
別名を飛騨の小京都と言わしめる、人気の観光地だ。
僕らが暮らす下呂温泉街から、車で北に一時間。新緑が生い茂る山並みを抜けた先に、高山の観光地が広がる。雰囲気抜群の町並み巡りは、国内外のみならず観光客には人気のスポットで、僕らはその街を目指していた。
何故、そんな場所にこの四人で向かうことになったのか。そのきっかけは、彼女が昨晩、僕に寄越した一本の電話だった。
昨日は色々なことがあった。
昼間は彼女の父の逆瀬川さんに偶然出くわし、彼女の出生の秘密を交えた、非常に込み入った話をされた。
それにつけて、夜は彼女を追いかけてイギリスからやって来たという、筋金入りのライバル アルバートと出会った。
そして翌日にあたる今日は、何故か一緒に観光地へと向かっている。
田舎町でのんびり暮らす僕には、昨日からの一連の流れは、ジェットコースターのように目まぐるしい。そのうち彼女とも高山を訪れたいとは思っていたが、まさかこんなに急に、しかもこんな濃厚なメンバーで来ることになるとは、夢にも思っていなかった。さらに、そこには佳央理を助っ人として呼ぶという、最終手段まで発動している。避けたいシチュエーションのオンパレードだ。
小一時間のドライブを経て、僕らは高山中心部にあるパーキングに車を置いた。観光地だから一日停めたら物凄い金額になりそうだけど、この際それは気にしないことにする。
「ほら、麻愛ちゃん、それにアルバートさん! こっちこっちー! 」
「ちょっと、佳央理! そんなに腕を引っ張るなって 」
「急がないと、朝市が終わっちゃうんだもん。それに、少しでも二人きりにしてあげたいでしょ? 」
「いや…… それは、その…… 」
車を停めるや否や、僕たちは間髪入れずに宮川朝市という場所へと来ていた。彼女とアルバートをサシにするとか、そういう気遣いは僕としては一切無用なんだけど、一般的には彼女とアルバートさんの関係性は、そう思われないことが頭の痛い問題だ。僕は恐る恐る後方を振り返ると、彼女とアルバートの様子を確認する。二人とも佳央理の勢いに、少し圧倒されているようだった。
「別に…… あの二人には、気を使わなくていいんだよ 」
「何でよ? 麻愛はちゃんはともかく、アルバートは わざわざイギリスから追っかけてきたんでしょ? ちょっと年齢は離れているような気もするけど、相当好きじゃなかったら、わざわざこんな山奥まで来ないって 」
「それは、そうかも知れないけど…… 」
僕は言葉を濁してみたが、それは百発百中わかりきったことだった。何にせよ、アルバートは彼女のことが好きなのだろう。でなければ、こんな日本の山奥までやってきた行動力に、説明がつかない。
でも、昨日彼女が旅館でアルバートの姿を見たとき、その表情はとても驚いているように見えた。彼女は確実に戸惑っていて、遥か遠い異国からやってきた知人を、歓迎しているようには思えなかったのだ。
そして成り行きで、彼女はアルバートと二人で話をすることになったけれど、最終的に僕に電話を掛けてきた。
そして彼女は僕に「一緒に高山に来て欲しい 」と告げたのだ。そんなことを言われたら、断る理由もない。
佳央理に助っ人を頼んだのは、不可抗力だった。
手当たり次第に心当たりに声を掛けたけど、匡輔と椿は旅館のバイト、残念ながら母さんと父さんは、明日に限っては輪番で店開けなくてはならないときた。それならいっそうのこと、僕と彼女とアルバートという地獄の組み合わせで出掛けようかと思ったが、待ったをかけたのは母さんだった。高山までは鈍行で行けば一時間以上は掛かるし、週末の朝一番となれば、飛び込みでひだ号の席が確保できるとは限らない。となら ば、車で向かうのが手っ取り早いのだが、あいにく高校生の僕らは運転が出来ない。というわけで、佳央理が付き添いの候補に上がってくるのは、自然な流れだった。
母さんは親類である佳央理が、僕に近親者以上の情を抱いているなど、これっぽっちも思っていないし、そのシチュエーションを回避しようとすれば、逆に怪しまれることになる。僕は心のどこかで、佳央理がテスト中だとか言って高山行きを断ってくれることを暗に期待したが、返事は二つ返事で『明日は暇だからいいよ』であった。
というわけで、僕らはこの良くわからない組み合わせで、高山の街を訪れることになったのだった。
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