お前のものになりたいから

SODA HANA

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13.感じたい-2

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「大丈夫?」
「救急車呼ぼうか?」
「こっちに寝かせろよ」

 遠巻きに見ていたらしい連中が次々と声をかけてきた。誰かがリッキーと一緒に僕を持ち上げてそっと柔らかいものに寝かせてくれた。

「誰か冷やすもん、くれねぇか?」
「待ってろ、持ってきてやる」

 リッキー、意外と僕たちには味方が多いらしいね。みんな、こんなに心配してくれてる。

「フェルじゃないか! 今の騒ぎはお前か!?」
バスケ仲間のレイの声だ。
「おい、水持ってきてやれ!」
レイの声が響く。シェリーの泣き声がすぐそばから聞こえる。

「大丈夫だよ、シェリー」
「ごめんね、もっと早く気づいてあげられなくて。リッキー、あんたにもごめん」
「泣くなよ、たいしたこと無いから」

「たいしたこと、ありそうだがな。リッキー、お前がついてて何やってんだよ」
「リッキーが悪いわけじゃないよ、レイ」

 抱き起こされて一口水を飲んだ。口が切れたらしい、ちょっと痛い。けど、これは本物の痛みだ。蹴られた顔に冷たいタオルが当てられた。僕が手を離さない脇腹にも冷たいものがそっと当てられる。

「痛むか?」
リッキーの心配そうな声に僕は笑った。これ、本当に痛い!
「頭、蹴られたんじゃないか?」
レイの心配にまた笑える。

「リッキー、ホントに痛い! 痛いんだ!」

 笑いが止まらない僕の声に、リッキーとシェリーには意味が伝わったらしい。シェリーは頬にキスしてくれた。小さな声で囁く。
「良かった。きっともう大丈夫よ。乗り越えられるわ、あんたなら」
リッキーは抱きしめてくれた。
「だから痛いんだってば!」
「ああ、痛いよな。これ、ホントに痛いんだよな。良かったな……」

言葉が続かないリッキーに、呆れたようなレイの声が聞こえる。
「お前ら、揃ってイカれたか?」



 何人かが手伝ってくれて、僕は部屋に帰ることが出来た。礼を言っているリッキーに「何か用があったら電話しろよ」と番号を教えてくれている。

「ありがとう、助かったよ」
「俺たちさ、遠目で見てたんだ、あんたらのこと。悪かったって思ってる。あんたら、いい感じだよ。よろしくな、俺はタイラーだ」
「僕はチキン。本名じゃないよ、けどホントにチキンなんだ。でもあんた達見てると勇気出るよ。ありがとう」


「リッキー、普通の友だち増えそうだね」
僕の顔には冷たいタオルがまた載っている。口元がほのぼのと緩む。
「嘘みたいだ……俺、セックスもしねぇのに携帯ナンバーもらった……」
そうか。そんな相手さえいなかったんだ。

 派手なノックがして、返事しないうちにドアが開いた。

「はい! 届けに来たわよ。ホットドッグとフライドポテトとコーヒー。フェルご希望の消化に悪そうなものばかり! それからこっちは私が夕べ作ったポトフ。サラダもあるわ。フェル、食べた量と同じだけ野菜を食べなさい。トイレが楽になるから。あ、お礼はいいの。今度ディナー招待して」

 一方的に喋って部屋を出ようとしたシェリーの声のトーンが低くなった。

「家に帰るのよね? ……容れ物は帰ってきてから返して。ここにちゃんと帰っておいでね、フェル。ジーナによろしく伝えて。リッキー、フェルの事、頼むわよ」



 静かになった部屋の中。

「なんかさ、シェリーってハリケーンみたいだよな」
「……いい姉ちゃんだよ。良かったな、シェリーが姉ちゃんで」
「リッキー、お前にもいい姉ちゃんだよ」

動く気配が消えた。少し経ってリッキーが手を掴んできた。

「今のって……」
「パートナー、なってくれる?」
「フェル……」

「Yes? or No?」
「Yes!  Yes、Yes! いいのか!?  俺、離れねぇぞ!」
「上等だ、リッキー。離れるなよ、僕から」

 タオルを脇に置いた。
「来いよ」
リッキーがそばに来る。まだ距離を空けている。怖いんだ、僕を傷つけるんじゃないかって。袖を引っ張ってたぐり寄せた。
「リッキー。僕はこれからお前とキスをする。……アレを上書きしてくれよな、お前が」

 何も言わずにリッキーが覆い被さってきた。目を閉じる。

(リッキー、お前を感じるよ。これはお前だ、あいつじゃない)
 舌を忍ばせた。おずおずとした彼の舌に、預けるように僕のを載せる。リッキーの舌がゆっくり動き始めた。撫で、掠め、次第に深いキスになっていく。時々僕はピクリとしたけど、その度に離れようとするリッキーの首を引き寄せた。

……ころしてくれ

僕のどこかであの声が響く。冗談じゃない、僕は生きる!

 過去に囚われたくない。そんな人生、願い下げだ。僕は歩きたい、進みたい。前に、前に。そして、隣にはいつもリッキーがいるんだ。

――触りたい

 ジーンズに手を伸ばす。ヒュッと息を呑む音がする。キスをそのままにベルトを外しジッパーを下ろし、ボクサーの中に手を差し入れた。むくむくと育っていく高まりが熱い。ジーンズを落として腰を抱き寄せ、隣に寝せた。それだけで喘いでいるリッキー。
 知ってるよ、ずっと何もせずに僕を待ってたこと。今はまだだめだ。けどお前をイカせることならきっと出来るよ。

 優しいキスを味わいながら、僕はリッキーを手で包んだ。感じているのが伝わってくる。後ろに手を伸ばす。擦り寄ってくる体。充分濡れてる雫を借りる。指先にたっぷり受けてまた後ろへ。自分がしていることを確かめながら、固く尖ったその先を指の腹で撫でては後ろに行った。震えが走っている。

 長いこと待たせた。ごめん、リッキー。待っててくれたことがすごく嬉しい。ヒクリと後ろの孔が蠢く。吸い込まれるように僕の指は入っていった。

「向こうを向いて」
囁くと背中を預けてきた。後ろから包み込むように抱きしめる。
「イカせてあげる」
何度も頷くその項の髪を掻き分け、鼻をこすりつけた。
「いい匂いがする」

 肩がピクリと動いた。その肩にキスをする。もう後は本能に任せた。リッキーを幸せにしてやりたい。今はそれしか考えられない。指を細かく出入りさせて少しずつ奥へ。抜いて前に行き握り扱く。指を増やしてまた奥へ。奥へ。項を舐めてキスして吸う。首が震える。吐息が激しい喘ぎに変わる。動けないけど届く限りの場所に唇を這わせた。

ああ……リッキーが欲しい……

 リッキーの手が僕を探した。腰を、熱を渡す。後ろ手に僕をジーンズの上から撫で上げていく。リッキーのいい場所を見つけて擦っては丸く撫でた。背中が跳ね上がり、仰け反っては丸くなって、どんどん昂っていく。声が上がり始め後ろ手から力が抜けていく。

 あ、 は ぅ  ふ……ぇる……っあ

お前の声は僕を蕩かすよ。

「愛してる、愛してる、僕はお前のものだ、お前だけのものだ」

そう繰り返すことで僕は癒されていく。

 リッキー、お前を感じたい
 リッキー、 お前が欲しい
 リッキー……お前に……入りたい、お前が欲しい……

 自然な気持ちで僕はジーンズとボクサーを脱いだ。
「乗って、リッキー」
振り向く顔に涙が流れてる。
「おいで、リッキー。僕の上に」
誘われるままに起き上がって僕を跨いだ。
「自分で降りて来て」
腰を支えてやる。力の抜けかかった体は、ストンと僕に落ちてきそうだ。それじゃきっとリッキーは苦しむだろう。

 僕が入っていく、リッキーの中へ。降りて来る熱い中へと、勃ち上がった僕が入っていく。リッキーが僕を迎え入れるために降りて来る。

――深い結合。

 そう考えると目眩がしそうだよ、お前の今の姿。僕の上に座っているその姿はまるで女神のようだ。髪が顔に舞っている。開いた唇は絶え間なく声を上げる。動けない僕の上で何度も何度も上下する。抜けそうになっては深く下り、今はすっかり根元まで収まった。リッキーが前後に左右に腰を動かす。

 っあ! あ! ……はぅ……あっぁ……

 腰を掴んで揺すると体が前に落ちてきた。食んだ唇から つい と流れ込むお前の唾液が甘い。夢中になって口を貪る、僕はお前のものだ……。
 離れた顔がきれいで頬を撫でた。唇を噛んで ぅ と小さく呻いて、首を横に振る。
「リッキー」
小さな呼びかけにゆっくりと目が開いた。黒い瞳が潤んでる。
「愛してる、リッキー」
「俺……お前のもんだ……」

そう呟くと大きく腰を回した。
あ そんなことしたら……

「リッキー もうだめだ……イキそうだ……」
「おれ……も…あっあぁ……!」

 震えるように達した僕。僕の上で痙攣が始まったリッキーを握りしめる、優しく上下し加速させる…… あっという間に吐き出して僕の胸に倒れ込んで来た。僕らの喘ぐ胸が重なる。


 息が落ち着き始め淡いキスをした。互いに存在を確かめるためだけに合わせる唇。
「出来ると……思わなかった」
「俺、嬉しい」
「ごめん、中に出しちゃった」
「いいんだ、欲しかったから」

今頃になって体が痛い。笑いをこらえる僕の震えに顔を見上げた。

「どうした?」
「痛いんだ、あちこち」
あ! という顔で慌てて下りようとするから逆に抱きしめた。
「もう少しこうしてて」
ふぅっと吐く息を感じて、僕はまた笑った。

「まだ痛むか? あっち……」
「うん。まだ痛い、うっかりすると意識乗っ取られそうなほど。けどきっと徐々に消えていく。そう思う」
「無理……すんなよ、俺のために」
「バカ、僕がしたくなっちゃったんだよ。だめかもって思ってたんだ。でも出来た。満足出来た?」
「ああ、すっごく! 俺、こんなに長いことしなかったの、初めてだ」
「気持ち良かった、リッキーの中」
「俺はフェルがデカすぎるからキツいよ」
「なんだよ、文句か?」

今度はリッキーが笑う。

「シェリーに教えなきゃ。誰よりも凄い! って」
「やめろよ、会うたびに言われそうだから」


 バスルームで身をきれいにしたリッキーは、今度は僕の面倒を見てくれた。

「あちこち腫れ始めてる」
「手加減無しに蹴られたからな」
「折れてねぇだろうな?」
「分かんない」
「おい!」
「でも病院はいやだ。それより腹減った。シェリーの持ってきてくれたの食べようよ」

 ゆっくり起き上がって、それでも走る痛みに癖のように目を閉じる。開けると心配そうに覗き込むリッキーがいる。
「大丈夫。そっと座るから」

 コーヒーは冷えていて、でも数ヶ月ぶりに飲む味は上手かった。
「平気か? そんなに食べて」
「ああ、久し振りに派手な運動したからね」
俯いた顔が赤い。
「疲れたか? 母さんのとこに行くの延ばそうか? 慌てなくてもいいんだし」

セックスの後の気だるい顔をしてるリッキーにそう聞いた。

「いや、行こう。これ以上ここにいると お前のケガが増えるような気がする」
「やなこと言うな」
「ホントのことだ。 今日みたいなのはたくさんだ。お前が狙われてるって ロジャーに聞いてたんだ。だから一人にしたくなかった」
 
そうだったのか……。

「そんなに暴れてたかな」
「自覚、無ぇの?」

目を丸くしたかと思うと笑い始めた。

「お前さ、俺のこと過保護に守ってたからな。近づくの、みんな薙ぎ倒してたじゃねぇか。あれ、俺から見ても酷かった!」

覚えちゃいない。

「そうだっけ? 普通にお前守ったつもりだったけどな」
「お前とはケンカしたくねぇよ。勝敗は明らかだ」
「夫婦喧嘩はなるべくしない様に気をつけるよ」
「フェル」
「ん?」
「いいんだな? 俺が一生お前のそばに……」

そこで言葉が消えた。

「おい、今さら何か不安か? そりゃいい時ばっかりじゃないと思うよ。一緒にいれば諍いだって起きるだろうし、誤解やら気持ちの行き違いやら、いろんなことがあると思う。でもさ、そういうもんだろ? そんなの、男女の結婚生活にだって普通にあることだよ。僕が怖いのは結婚しなかったためにお前を失うかもしれないっていうことさ」
「結婚しなかったために?」
「そうだ、例えば誰かにお前を奪われたって法的に認められてなきゃ、取り返すことも出来ないかもしれない」

「それって……」

 リッキーが思わず天井を見上げる。盗聴器が取り付けられてるのが天井かどうかなんて分からない。でもリッキーは天井を見てしまうんだ。
「ああ。結婚してお前はリチャード・ハワードになる。僕の配偶者だ。僕の家族がお前の家族だ。リチャード・マーティンはいなくなるんだよ」

リッキーの目が大きく見開いていく。

「今までの俺は消える……?」
「きれいさっぱりとね」
「本当に?」
「お前は孤児なんだから、家族だって僕らだけになるだろ?」

リッキーの首が縦に揺れる。

「俺に家族が出来るんだ……」
「そうだよ、本物の家族がね。他に必要なものなんか無い。余計なものは全部捨てればいい。そう言えばどこかから援助、受けてるんだろ? もうそれ受けるの止めろよ。それより僕と働いて生活していこう。なんならその金、返済してってもいい。よく考えて決めて。でも、自分たちの生活は自分たちで作っていく方がいいよ」

 これからどうなっていくのかはまだ分からない。彼の国は彼をこのまま手放してくれるだろうか。リッキーの自由を認めてくれるだろうか。黙って結婚させてくれるだろうか。

 僕も自分の中に残っている傷と戦わなくちゃならない。けど、リッキーと一緒に歩いていく、この思いだけは失いたくない。


「支度しよう、お前の母さんが待ってるよ」
「お前の母さんにもなるからね」
「許してくれるかな」
「それは僕の役目だ、お前は花嫁なんだから。認められるのに時間がかかったっていいだろ? 僕は認めてもらいたいんだ、みんなに」
「俺もだ。そうじゃねぇと家族になれない」


 取り敢えず、今立ち向かう相手はハワード家だ。特に、アル。厄介な戦いになるだろうが、負けるつもりはない。今度こそ大事な人に手出しはさせない、アルバート。リッキーは僕が守り抜く。
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