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冒険者ジルク

冒険者ジルク-1

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「なかなか面白いものを見せてくれましたね」
「黙れ。チャンスとやらをさっさと教えろ」

ヤギの言葉に喧嘩を売るように応える。
最初から分かっていたことだが、いつでもこいつは俺を殺せるだろう。なら挑発しようが何しようが問題ない。
どうせ俺の命はあるにはあるがすぐさま無くなるだけだ。それなら俺が好き勝手行動した方が得だってものだ。

「せっかちですね。どうせここに残ることになるのだから仲良くしていきたいものなのですが」
「どうせここに残ることになる?。帰す気はないということか」
「いいえ。あなたにチャンスをあげますけど、失敗することを期待しているというだけです」

その口ぶりに苛立ちが抑えきれない。チャンスを与えるだけ与えるが、到達させる気はないと。奴のいう言葉からするに奴のお遊びなのだろう。
ならせめてそのお遊びをぶち壊すことくらいはしてやる。そうして死ぬなら本望だ。

「ふざけやがって…!」
「ええ、ええ、いいですねぇ。その気概を持っていてください。そういった感情を壊すことが私の大好物なのですから」

どこか笑うような表情を浮かべる奴に反吐が出る。希望を与えて壊すことが好きなど災厄と言われる魔物よりも悪質という他ない。

「悪趣味もいいところだな」
「ふふふ…。それで、チャンスについて話しましょう」

ヤギに目線を集中させ、その言葉を一言一句聞き逃さないように耳を立てる。それに反する真似をしてやるのがこちらの目的になるため重要なところだ。

「…」
「内容は簡単です。あなたが「可愛くなりたい」と思ったら負けです」
「…は?」

余りにおかしな内容であったために目が点になる。ポカンとした表情はさぞ間抜けなことだろう。

「私は私の感性でいうところの可愛いものが欲しい。感性が同じでかつ、「可愛くなりたい」と思って行動する者がいればどんどん私の好みになっていくでしょう?。そういう存在が欲しいのですよ」

……なるほど。言わんとしようとしていることがなんとなくだが分かった。

「愛玩動物ってことか。クソが」
「少し違います。主人と所有物の方が近いですね。だから…あなたがそうなってくれれば非常に助かるのですよ」

ヤギはニタリと笑う。邪悪な笑みというのはこういう顔を言うのだろう。見たことがないほどに悪魔的なものだった。
しかし……そうなってくれる、か。それが意味するのは俺からすれば最悪なこと。

「人格を弄り回す気だな。そんなされて脱出しても意味ねぇな。その先にはあるのは自死だけだ」
「もちろんチャンスをつかめれば元の人格に戻しますよ。それくらいは簡単です」

奴は嘘はついていない。……いや、ずっと嘘はついていない。嘘をつく必要すらないのだから当然だろう。
何よりそれだけの力がある。どんな理不尽だろうが問題なく実行できるほどの力があり、その矛先が今俺に向かっているだけだ。

そして少しだが、奴のやろうとしていることが分かってきた。悪趣味を理解したくもないが、冒険者として危険を予想して動く以上、理解してしまうのだ。

「弄り回した感性と、元の俺の感性を戦わせたいってところか?」
「…ふふふ、いいですね!。ジルク!、あなた既に私の好みに近いですよ!。では是非是非私のモノになるのを期待していますよ!」
「なっ!?」

周囲の風景が歪み、ヤギの姿も消えていく。空間が捻じられるような視界と共に、魔力の光が周囲を満たした。
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