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ああ、何と愚かだったのだろうか。
私は何もみえてはいなかった。
何も気づいてはいなかった。
その言葉の意味を今なら理解できるのに……
マーガレットは着替えを手伝ってくれる使用人達を冷めた目で見る。
「お嬢様はいつまでたっても可愛らしい」
いつまで経っても子供のまま。
「お嬢様は誰よりも優しく私達にとって、誰よりも頼れる主人です」
都合の良い主人で何でも思いのまま使える便利な女。
「お嬢様はこの国で一番の美人です」
お前のような女がそんな風に言われるのは我慢ならない。
何の努力もしない、たかが名家に生まれただけの女のくせに。
「お嬢様こそ誰よりも幸せになるべきお方です」
必ず不幸にしてやる。
よくもまぁ心にもないことをペラペラと話せるものだ、とマーガレットは感心する。
心の中で拍手をおくる。
二回死んだからか人の本性を見抜けるようになった。
「ありがとう。皆にそう言って貰えて私は本当に幸せ者ね」
自分の心の中を悟られないよう、褒められて嬉しいと笑みを浮かべ礼を言う。
使用人達は口元を引きつらせながら笑うしかできない。
そんな表情を見てマーガレットはフッと鼻で笑う。
彼女達の姿が滑稽で仕方ない。
これから彼女達に起こるであろう不幸な出来事を思い浮かべると、つい口角が上がってしまう。
いけない、いけない、つい、と急いでで口元を隠す。
とりあえず今すべきことは自分の手足となり何でも言うことを聞き、自分を守るため生命をとしても構わない人間を傍に置くこと。
「(さて、どうやって見つけるべきか)」
マーガレットは自分にだけに見える首の傷を撫でる。
二回首を斬られて死んだからか、三回目の人生ではその跡がくっきりと刻まれていた。
「忘れるな。お前は二度首を斬られて死んだ。今度はお前がやる番だ」
首の傷跡を見るたび、頭の中で声が聞こえる。
目を閉じれば酷く冷たい目をした自分がこちらを見ている。
「言われなくてもわかっている。三度目はないわ。必ず全員地獄に堕としてやる」
強く拳を握りしめたせいでマーガレットの手のひらから血がポタポタと落ちていく。
マーガレットが二度殺された原因はこの国の頂点に立つ王族達のせいだった。
王妃と国王の弟の愛人一家によって殺されたのだ。
その中でも特に愛人の娘のアネモネはマーガレットを憎んでいた。
マーガレットは何故自分がアネモネからそんな風に憎まわれているのか見当もつかなかった。
理由を知らないためマーガレットは何もしなかった。
いや、できなかった。
それに自分を見るアネモネの目は憎悪に囚われており、ろくな理由ではないと察していた。
もしかしたらマーガレットは自分の気づかない内にアネモネを酷く傷つけていたのかもしれない、と前まではそう考えていたが、理由が何であれ二度も家族を、そして忠誠を誓った騎士達も使用人達も町の者達も殺された。
許すことなど到底できない。
一度は許した。
きっと、何かの誤解があったのだと。
最初の人生で処刑された理由を作った使用人達を追い出し処刑される未来を回避した。
未来は変わった。
もう大丈夫だ。
そう思って二度目の人生では最初の人生ではできなかった幸せな暮らしていこうと決めた数日後、アネモネの一族が「ブローディア家は自分達がこの国の主に成り代わろうと謀反を試みています」と虚偽の報告をし又もや一家全員虐殺されてしまった。
今回は屋敷を残しておくのも許されず全て燃やされ跡形もなく消された。
マーガレットは首を切られたが暫くは生きており、生きたまま炎に焼かれていく屋敷を見ながらもう一度やり直したいと強く願った。
「もし、もう一度やり直すことができるのなら今度は私が彼奴らにこれ以上の苦しみを与えてやるのに。お父様、お母様。どうか、どうか、愚かな娘を許してください。私がもっとうまくやれていれば皆死ぬことなどなかった。申し訳ありません」
最後に心の中で皆に謝罪を告げ終わるとマーガレットは炎に包まれながら死んだ。
再び目を覚ますと、真っ先に見慣れた天井が目に映った。
「えっ……?」
勢いおく上半身を起こし首に手を当てる。
「繋がっている……。私は……生きているの……?」
茫然と首を触り続ける。
自分はもう一度過去に戻ったのだ、やり直すことができる。
ホッとしたのも束の間、二度目の人生で最後にある男に首を斬られたことを思い出し恐怖で体中が震えだす。
体の震えを止めようと自分を抱きしめる。
暫くすると体の震えは止まる。
マーガレットは上手く力の入らない足で鏡の前まで行く。
「酷い顔ね。……ん?これは……あの時斬られたときの……」
首の傷痕に触れる。
これではまるで罪人の烙印ね。
「ハハッ……、アッハッハッ」
暫くマーガレットは大声をあげて笑った。
マーガレットは自分で言うのも何だか誰よりも清く正しく誠実に生きてきた自信がある。
困っている人がいたら手を差し伸べた。
助けを求められたら問題を解決した。
それがどうしてこうなった。
何故こんな目に合わないといけない。
許せない。
一度ならず二度も不当な理由で殺された。
ーー今回も何もしなければ私も両親もまたあの女の策略で殺される。今度こそ絶対に誰も殺させない。守ってみせる!
コンコンコン。
「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか」
「ええ、いいわ」
マーガレットが許可すると使用人達が部屋に入る。
「「「おはようございます。お嬢様」」」
頭を下げて挨拶する。
マーガレットは使用人達の中に最初の人生で処刑された理由を作った一人、ダリアに目を向ける。
顔が強張りそうなのを耐え、いつもと変わらない美しい笑みを浮かべる。
「皆、おはよう。今日もよろしくね」
「「「はい。お嬢様」」」
マーガレットは着替えをしながらダリアを追い出すべきか追い出さないべきか悩んでいた。
ダリアはアネモネと繋がっていたはずだが、マーガレットは最初の人生ではそのことに気がつかなかった。
二度目の人生では処刑されないようダリアを含む裏切り者達を屋敷から追い出した。
それで解決すると思った。
だがら深く調べることをしなかったし、二度目の人生では何もされていないからと罰を与えることもしなかった。
でも、きっとそれが間違いだった。
あの時どんな手を使ってでもダリア達から情報を得るべきだった。
いつ、どこで、どうやって知り合ったのか。
何故裏切ったのか。
聞かなければならなかった。
そうすればもう一度死ぬこともなかった。
今回は絶対に失敗は許されない。
二度の人生で気付かなかった裏切り者がまだいるかもしれない。
全ての裏切り者を把握するまでは、ダリアを泳がしておく方が得策か。
「お嬢様。今日はこちらのドレスはどうですか?」
使用人の一人エリカが紫色のドレスを自分にあてがいながら言う。
「ええ。それにするわ。決めてくれてありがとう」
昔は何とも思わなかったが、今ならわかる。
このドレス私に似合うでしょう、とエリカは言っているのだ。
他の使用人達もエリカを咎めることなどせず、それどころか褒めている。
つまり、彼女達も言葉の裏で私よりエリカの方が似合うと言っているのだ。
フッ。
舐めるのもいい加減にして欲しいわ。
もう、あの頃の私はいない。
何も知らなかった私ではない。
主人(わたし)を馬鹿にした罪は重いわよ。
覚悟することね。
「皆。いつもありがとう。今度お礼するわね」
「本当ですか。お嬢様。ありがとうございます」
使用人達がお礼を言いながら嘲笑っていることにマーガレットは気づいている。
「ええ。楽しみにしていて。最高のプレゼントを贈るから」
地獄という名の最高の贈り物を。
私は何もみえてはいなかった。
何も気づいてはいなかった。
その言葉の意味を今なら理解できるのに……
マーガレットは着替えを手伝ってくれる使用人達を冷めた目で見る。
「お嬢様はいつまでたっても可愛らしい」
いつまで経っても子供のまま。
「お嬢様は誰よりも優しく私達にとって、誰よりも頼れる主人です」
都合の良い主人で何でも思いのまま使える便利な女。
「お嬢様はこの国で一番の美人です」
お前のような女がそんな風に言われるのは我慢ならない。
何の努力もしない、たかが名家に生まれただけの女のくせに。
「お嬢様こそ誰よりも幸せになるべきお方です」
必ず不幸にしてやる。
よくもまぁ心にもないことをペラペラと話せるものだ、とマーガレットは感心する。
心の中で拍手をおくる。
二回死んだからか人の本性を見抜けるようになった。
「ありがとう。皆にそう言って貰えて私は本当に幸せ者ね」
自分の心の中を悟られないよう、褒められて嬉しいと笑みを浮かべ礼を言う。
使用人達は口元を引きつらせながら笑うしかできない。
そんな表情を見てマーガレットはフッと鼻で笑う。
彼女達の姿が滑稽で仕方ない。
これから彼女達に起こるであろう不幸な出来事を思い浮かべると、つい口角が上がってしまう。
いけない、いけない、つい、と急いでで口元を隠す。
とりあえず今すべきことは自分の手足となり何でも言うことを聞き、自分を守るため生命をとしても構わない人間を傍に置くこと。
「(さて、どうやって見つけるべきか)」
マーガレットは自分にだけに見える首の傷を撫でる。
二回首を斬られて死んだからか、三回目の人生ではその跡がくっきりと刻まれていた。
「忘れるな。お前は二度首を斬られて死んだ。今度はお前がやる番だ」
首の傷跡を見るたび、頭の中で声が聞こえる。
目を閉じれば酷く冷たい目をした自分がこちらを見ている。
「言われなくてもわかっている。三度目はないわ。必ず全員地獄に堕としてやる」
強く拳を握りしめたせいでマーガレットの手のひらから血がポタポタと落ちていく。
マーガレットが二度殺された原因はこの国の頂点に立つ王族達のせいだった。
王妃と国王の弟の愛人一家によって殺されたのだ。
その中でも特に愛人の娘のアネモネはマーガレットを憎んでいた。
マーガレットは何故自分がアネモネからそんな風に憎まわれているのか見当もつかなかった。
理由を知らないためマーガレットは何もしなかった。
いや、できなかった。
それに自分を見るアネモネの目は憎悪に囚われており、ろくな理由ではないと察していた。
もしかしたらマーガレットは自分の気づかない内にアネモネを酷く傷つけていたのかもしれない、と前まではそう考えていたが、理由が何であれ二度も家族を、そして忠誠を誓った騎士達も使用人達も町の者達も殺された。
許すことなど到底できない。
一度は許した。
きっと、何かの誤解があったのだと。
最初の人生で処刑された理由を作った使用人達を追い出し処刑される未来を回避した。
未来は変わった。
もう大丈夫だ。
そう思って二度目の人生では最初の人生ではできなかった幸せな暮らしていこうと決めた数日後、アネモネの一族が「ブローディア家は自分達がこの国の主に成り代わろうと謀反を試みています」と虚偽の報告をし又もや一家全員虐殺されてしまった。
今回は屋敷を残しておくのも許されず全て燃やされ跡形もなく消された。
マーガレットは首を切られたが暫くは生きており、生きたまま炎に焼かれていく屋敷を見ながらもう一度やり直したいと強く願った。
「もし、もう一度やり直すことができるのなら今度は私が彼奴らにこれ以上の苦しみを与えてやるのに。お父様、お母様。どうか、どうか、愚かな娘を許してください。私がもっとうまくやれていれば皆死ぬことなどなかった。申し訳ありません」
最後に心の中で皆に謝罪を告げ終わるとマーガレットは炎に包まれながら死んだ。
再び目を覚ますと、真っ先に見慣れた天井が目に映った。
「えっ……?」
勢いおく上半身を起こし首に手を当てる。
「繋がっている……。私は……生きているの……?」
茫然と首を触り続ける。
自分はもう一度過去に戻ったのだ、やり直すことができる。
ホッとしたのも束の間、二度目の人生で最後にある男に首を斬られたことを思い出し恐怖で体中が震えだす。
体の震えを止めようと自分を抱きしめる。
暫くすると体の震えは止まる。
マーガレットは上手く力の入らない足で鏡の前まで行く。
「酷い顔ね。……ん?これは……あの時斬られたときの……」
首の傷痕に触れる。
これではまるで罪人の烙印ね。
「ハハッ……、アッハッハッ」
暫くマーガレットは大声をあげて笑った。
マーガレットは自分で言うのも何だか誰よりも清く正しく誠実に生きてきた自信がある。
困っている人がいたら手を差し伸べた。
助けを求められたら問題を解決した。
それがどうしてこうなった。
何故こんな目に合わないといけない。
許せない。
一度ならず二度も不当な理由で殺された。
ーー今回も何もしなければ私も両親もまたあの女の策略で殺される。今度こそ絶対に誰も殺させない。守ってみせる!
コンコンコン。
「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか」
「ええ、いいわ」
マーガレットが許可すると使用人達が部屋に入る。
「「「おはようございます。お嬢様」」」
頭を下げて挨拶する。
マーガレットは使用人達の中に最初の人生で処刑された理由を作った一人、ダリアに目を向ける。
顔が強張りそうなのを耐え、いつもと変わらない美しい笑みを浮かべる。
「皆、おはよう。今日もよろしくね」
「「「はい。お嬢様」」」
マーガレットは着替えをしながらダリアを追い出すべきか追い出さないべきか悩んでいた。
ダリアはアネモネと繋がっていたはずだが、マーガレットは最初の人生ではそのことに気がつかなかった。
二度目の人生では処刑されないようダリアを含む裏切り者達を屋敷から追い出した。
それで解決すると思った。
だがら深く調べることをしなかったし、二度目の人生では何もされていないからと罰を与えることもしなかった。
でも、きっとそれが間違いだった。
あの時どんな手を使ってでもダリア達から情報を得るべきだった。
いつ、どこで、どうやって知り合ったのか。
何故裏切ったのか。
聞かなければならなかった。
そうすればもう一度死ぬこともなかった。
今回は絶対に失敗は許されない。
二度の人生で気付かなかった裏切り者がまだいるかもしれない。
全ての裏切り者を把握するまでは、ダリアを泳がしておく方が得策か。
「お嬢様。今日はこちらのドレスはどうですか?」
使用人の一人エリカが紫色のドレスを自分にあてがいながら言う。
「ええ。それにするわ。決めてくれてありがとう」
昔は何とも思わなかったが、今ならわかる。
このドレス私に似合うでしょう、とエリカは言っているのだ。
他の使用人達もエリカを咎めることなどせず、それどころか褒めている。
つまり、彼女達も言葉の裏で私よりエリカの方が似合うと言っているのだ。
フッ。
舐めるのもいい加減にして欲しいわ。
もう、あの頃の私はいない。
何も知らなかった私ではない。
主人(わたし)を馬鹿にした罪は重いわよ。
覚悟することね。
「皆。いつもありがとう。今度お礼するわね」
「本当ですか。お嬢様。ありがとうございます」
使用人達がお礼を言いながら嘲笑っていることにマーガレットは気づいている。
「ええ。楽しみにしていて。最高のプレゼントを贈るから」
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