本物の悪女とはどういうものか教えて差し上げます

アリス

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謝罪

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「マクス」

練習場で無我夢中で剣を振り続けるマンクスフドに声をかける。

他の騎士達には軽く挨拶を済ませてこら一直線でマンクスフドの元に来た。

「お嬢様」

その声は悲しみや失望、救いを求めている感じだった。

「少し休憩にしない。お茶を用意したの。一緒に食べよう」

練習場に向かう途中で会った使用人にお茶の準備をするよう頼んでから来た。

「はい、お嬢様」

ヘリオトロープは少し離れたところで待機させ人払いして二人でお茶をする。

「マクス。本当にごめんなさい」

「お嬢様、頭をお上げください。私のような者にそのようなことをする必要はございません」

「いいえ、これはしなくてはならないことよ。私達は貴方の信頼を裏切ってしまったのだから。謝っても許されないことをしてしまったわ。ごめんなさい」

もう一度頭を下げ謝罪をする。

「それなら私も同罪です。公爵家に忠誠を誓ったのにも関わらず仇なす者を見つけることができなかったせいで、このような事態にしてしまいました。本当に申し訳ありません」

跪いて謝罪をする。

「立って、マクス。今の私達にそんな風にしてもらう権利なんてないわ」

跪いて忠誠を示すマンクスフドに申し訳なくなる。

「それは違います。お嬢様は何一つ悪くありません。悪いのは全てお嬢様方を裏切った者達のせいです。そして、その者達を見つけることができなかった我々のせいです」

「いいえ、きちんと指導出来なかった私のせいよ。貴族と使用人その立場を曖昧にし線引きしなかった私のせいよ」

マーガレットの世話をする使用人達を思い出す。

あの中の殆どがマーガレットのことを馬鹿にしている。

勿論マーガレットの前だけでサルビアやカトレア、マンクスフドの前では絶対にしない。

「もうこんなことが起きないようきちんとするわ」

そう言いながら申し訳なさそうな顔をするマーガレットに何も言えない自分に腹が立つのと同時に使用人達にも腹を立てる。

今の話し方だとそういう態度をしている使用人達がいるのではないかと気づく。

今までそんな風に感じたことはなかったが、マーガレットの前だけでもしかしたらそんな態度をとっているのではないかと疑う。

マーガレットは町の子供達のせいで服を汚されても笑って許し一緒に遊んだりする。

良く言えば優しく器が大きい。

悪く言えば一部の人間に貴族としての品格がないと馬鹿にされてしまう。

使用人達の中にもそう思っている人物がいる。

その事実が腹ただしく許せない。

主人に仕える身でありながら礼を尽くさず馬鹿にするなどあってはならない。

見つけ次第八つ裂きにしてやりたいと思ってしまう。

「はい、わかりました。ですがお嬢様、これだけは覚えておいてください。お嬢様は何一つ悪くありません。使用人の分際で主人を裏切るなど許されざる行為。一度忠誠を誓ったのならその身を捧げなくてはならないのだと。それが騎士であれ使用人であれそれは変わらないのだと。もし、裏切り者のせいで心が痛むようなら私におっしゃってください。私の手で終わらせますので」

マーガレットが産まれたときサルビアにこれからはマーガレットが主人だと言われずっと守ってきた。

最初はサルビアの命だっだが、七歳のときに忠誠を誓い主人と認めた。

小さい子供がある貴族の服を汚してしまい罵倒され連れていかれそうになっていた。

周りの大人達はただ見るだけで何もしなかったが、マーガレットはその光景を見た瞬間走り出しその子供を背に隠して貴族に立ち向かった。

マンクスフド達はまさかの行動に目を見張り出遅れたがすぐにその場にいきマーガレットを守るようにその貴族の前に立った。

マーガレットがブローディア家の娘とわかった瞬間態度を変え逃げ出すようにその場を去っていった。

あの後屋敷に戻りどうしてあのような行動を取ったのか尋ねると「困っている人がいたら助けるのは当然のことでしょう」と。

確かに当然のことだがそれをできる人間は少ない。

貴族の人間なら尚更自分達にとって都合の良いようにする。

ーーああ、この子はそういう子ではない。旦那様と奥様の子だからとか関係なく、忠誠を誓いたい。

そう思い、マンクスフドはマーガレットに忠誠を誓い主人として認めた。

「ありがとう、マクス。でも大丈夫よ。これは私がやらなければならないことだから」

マーガレットならそう言うと思った。

暫く二人共何も話さなかった。

「マクス。彼はどう」

「そうですね。将来が楽しみです。後一、二年程で国に名を馳せる騎士になるかと」

マンクスフドはカラントの事を高く評価していた。

「そう。それは楽しみね」

当然だと思った。

五年後、カラントはブローディア家を潰し大陸中に名を馳せ国一番の騎士として認められる。

「はい」

少し複雑な気持ちになる。

罪悪感が生まれる。

マンクスフドは過去の記憶がない。

カラントが自分達を殺した事を知らない。

だから、自分のことのようにカラントの成長を喜べる。

ずっと守って来てくれた大切な兄みたいな存在が殺したい程憎い相手と仲良くなっていくのをこれから見守らないといけないと思うとどうしてもやるせない気持ちになる。

「じゃあ、そろそろ行くわ。楽しかったわ。また一緒にお茶しましょう」

あれからいろんな話をしてその時を楽しんだ。

これ以上マンクスフドの稽古の邪魔をする訳にはいかないと部屋に戻ると。

マンクスフドは稽古を見にくるかと尋ねるが「また今度にする」と言って別れる。

練習場に戻るとカラントがやってきてマーガレットの事を尋ねる。

「また今度見にくるって。お嬢様がくるときの為に頑張って少しでも強くなろう」

な、と微笑みかけ頭を撫でる。

「は、い。が、がんば、ります。ごしどう、よろ、しく、お、おねがい、します」

マーガレットを守れるよう強くなりたいと。

そのためにはマンクスフドの指導が必要不可欠。

頑張って、頑張って、一日でも早くマーガレットの専属騎士になれるよう稽古に励もう。

そう心に誓う。
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