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許可
しおりを挟む「マーガレットは何もなかったか?」
マンクスフドからアネモネとルドベキアにあったと報告は受けていた。
会話までは聞こえなかった、と。
念の為確認のつもりで尋ねる。
「特には。ただお父様とお母様が国王に呼ばれた後、エカルト侯爵とシルバーライス侯爵令嬢と会いました」
「どんな話をしたか聞いてもいいか」
「はい、構いませんが、大した話はしていません。エカルト侯爵は決闘の勝利の祝いの言葉とお父様の剣の腕を褒めたことくらいでしたし、シルバーライス侯爵令嬢は私ではなくエカルト侯爵に用があったご様子でしたので挨拶をしただけで会話はしていません」
嘘はついてはいない。
本心を言ってないだけ。
あの時マーガレットはルドベキアとアネモネが絶対に政略結婚できないようにしようと思って話をした。
「そうなのか」
まさかの返答に拍子抜けしてしまう。
「はい」
「何もなかったのならよかった」
マンクスフドから報告を受けてから、もし何かあったらと気が気ではなかった。
直接何もなかったとマーガレットの口から聞けてようやく安心する。
流石に母親のように娘は馬鹿ではなかった、と。
「それで、これからどうしますか?」
カトレアが尋ねる。
自分達が狙われているのは間違いない。
一歩間違えれば自分達の人生は終わる。
アングレカムのこともある。
慎重に行動しなければならない。
「あの、二人にお願いがあります」
二人がこれからのことをどうするか悩んでいるとマーガレットが口を開く。
「お願い、とは」
サルビアが聞く。
「ランドゥーニ国のパーティーに参加する許可が欲しいのです」
「……それは、別に構わないが……どうしてだ」
サルビアは急にパーティーに参加すると言い、また参加したいと言うマーガレットを不審な目で見てしまう。
カトレアもどうして急にパーティーに参加したがるのか、と不審に思う。
「これはあくまで私の考えです」
そう前置きをしてから二度の人生をさもこれから起きるかもしれないというていで話し出す。
「王妃はランドゥーニ国を招いたパーティーを滅茶苦茶にするつもりだと思います」
マーガレットの発言に二人はこれでもかと目を見開く。
「な、それはどういうことだ。マーガレット、何故そう思ったのか知っていることを全て話しなさい」
サルビアにそう言われあらかじめ考えていたことを話す。
本当の事を言うわけにはいかないので、それとなく嘘と真実を混ぜて本当のことのように話す。
「はい。私がそう思ったのはあの日のパーティーである者達の会話を聞いからです」
これは本当。
「どんな会話だったの」
「"薬は手に入ったか"、"計画は予定通り"、"ランドゥーニ国とのパーティーは必ず失敗させる"と言っておりました。所々聞き取れなかったので正確な内容はわかりませんが……」
他のことも言っていたが敢えてそれは伏せて話す。
「……マーガレット、顔は見たか?」
サルビアの問いにマーガレットは首を横に振り「暗かったので見えませんでした」と嘘をつく。
正確に言えば一人の男の顔は月が雲から出てきたとき見えたがマーガレットはその顔に見覚えがなかった。
もう一人の顔は見えなかったが声からして王妃側についているアルバーノ侯爵だとわかった。
本当ならこの事を伝えないといけないが、二度も自分のせいで二人は死んだ。
もう一人の男の正体がわからない以上、二人を危険な目に遭わすわけにはいかない。
「そうか」
顔がわからなかった以上どうすることもできない。
サルビアがどうするべきか悩んでいるとカトレアが口を開く。
「マーガレット、どうしてこの事を直ぐに言わなかったの」
パーティーからは数日経っている。
その日に言っていれば国王にも報告できた。
どうしてこの事を報告しなかったのか、ここ最近のマーガレットの考えていることがわからず責めるような口調で尋ねてしまう。
「ごめんなさい、お母様」
「カトレア」
サルビアが落ち着くように言う。
カトレアも名を呼ばれついきつい口調になっていたことに気づき「あ……」と口元を押える。
怒るつもりなんてなかった。
ただ心配だっただけなのに……。
マーガレットの申し訳なさそうに謝る姿をみて上手く伝えられない自分が嫌になる。
「マーガレット、どうして黙っていたか聞いてもいいか」
カトレアの手を優しく握りながら尋ねる。
「はい」
サルビアに尋ねられ用意していた答えを嘘だとバレないよう伝える。
「男達の計画が何なのかわかってから話そうと思ったのです。私の聞き間違いかもしれないから……いえ、きっとそうであったらいいと思って……私の勝手な判断で報告するのが遅くなり申し訳ありません」
頭を深く下げ謝罪をする。
この謝罪は二人に報告しなかったことではなく、嘘をついていることに対してのもの。
そしてこれからも嘘をつき続けるということへのもの。
「……マーガレット、今私達に話したということは計画が何か掴んだからか」
「はい、そうです」
二度の人生でロベリアがランドゥーニ国の王達にしたことは知っているので調べるまでもなく何が起きるのか知っている。
「それを阻止できる自信があるから参加する許可が欲しいのか」
「はい」
サルビアの目を真っ直ぐ見つめ返す。
カトレアは二人のやり取りでパーティーに参加するのを許可するのだとわかり慌てて反対する。
「駄目です。そんな危険なことさせる訳にはいきません」
「カトレア」
サルビアが宥めようとするも聞く耳を持たず反対する。
「絶対に駄目です。許可できません。もしも、万が一マーガレットに何かあったらどうするつもりですか」
マーガレットがアングレカムでヘルマンに殺されかけたこと、アドルフが死に死体が消えたこと、ここ数日の出来事を思い出し取り乱す。
マーガレットは運が良かっただけ。
アドルフみたいに死んだら……。
そう思うだけで胸が苦しくなり息ができなくなる。
「お母様。大丈夫です。何も心配はありません。どうか私を信じてください」
マーガレットはカトレアの傍により手を両手で包み込む。
安心させるよう微笑みを浮かべカトレアの目を見つめる。
「……わかったわ。でも、これだけは約束して。絶対に無茶はしないと」
本当は許可など出したくなかったが、一度決めたら絶対に意見を曲げない子だと知っているので、それならと条件をつけることでマーガレットを守ることにする。
「はい、約束します。必ず無茶はしないと」
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続きを楽しみにしています。完結まで書いて頂けたらとても嬉しいです。
読ませて頂いて有難うございます。