狐の嫁入り

アリス

文字の大きさ
3 / 9

新たな結婚相手

しおりを挟む


「未桜です」

当主のいる部屋の前で床に手をつき頭を下げる。

「入れ」

許可が出て、ようやく顔を上げ中に入る。

部屋の中には既に西園寺家の重役の人たちと両親がいた。

また、小言かと面倒だと思いながら用意された座布団の上に座る。

「未桜よ」

「はい」

(早く終わって)

「明日、お前の結婚式を執り行う」

「はい……え?いま、何ておっしゃいましたか?」

(いま結婚式を執り行うって言った?言ったよね?冗談でしょ?聞き間違いよね?)

「お前の結婚式を執り行うと言った」

当主は淡々と同じ言葉を繰り返した。

(聞き間違えじゃなかったのかよ。冗談じゃないわ。あんなクソ野郎と結婚なんて絶対に御免よ。頭いかれてんのかよ。このクソジジイ。それとも、とうとうボケ始めたのかしら)

従妹と浮気して子供まで作っていた男と結婚するなんて絶対に嫌だった。

少し前まで、将来を共にしてもいいとか思っていた自分をぶん殴りたいほど後悔しているのに、夫婦になるなんて無理だった。

「ボケておらんわ。お前に心配されるなんて気持ち悪いからやめろ。あと、相変わらず口が悪いのう。見た目だけはいいのに、残念じゃ」

心の中で思っていたことが口から出ていたみたいだ。

むかつきすぎて無意識に。

当主は笑っていたが、両親は顔が青ざめていた。

重役たちが非難するよう目をしていたからだろう。

私は彼らを気にすることなく「見た目もいいんです。間違えないでください。そういうところがボケはじめていると思われる原因ですよ」と言ってやった。

続けて笑顔で「他の女と子供を作った男と結婚しろ、なんていうところも、元々イカれているのに、さらにイカれていると思われるんですよ」と付け足した。

当主は急におかしそうに笑いだした。

床をバンバンと叩きだす。

やっぱイカれたなと思っていると、「誰があのクソ男と結婚しろと言った?」と凄んだ。

「違うんですか?では、誰と結婚しろとおっしゃるんですか?」

あのクソ野郎と結婚しなくていいのは嬉しいが、婚約破棄してまだ半日もたっていないのにすぐに相手を決めるなんて怪しすぎる。

あれだけ念入りに調べて失敗したのに、自分たちが損をするかどうか調べる前に結婚させようとするなんて絶対におかしかった。

「お前は頭はいい方だと思っていたのに、わからないとは……もともと馬鹿だったのか?それとも、今日のことがショックで……それなら仕方ないか」

当主の鬱陶しい一人芝居に腹が立つも、相手が誰かを当ててやろうと今の西園寺家のつながりを整理する。
 
「まさか……!」

嫌な考えが頭によぎった。

嘘だと言ってほしかったが、私の困っている表情をみた当主が嬉しそうに笑ったのをみて悟ってしまった。

「いや、いや、いや、いや、いや!冗談ですよね」

私は首を横に振りながら、どうか違うと言ってと目で訴えかける。

「いや、冗談じゃない」

当主は満面の笑みを浮かべて言う。

「なんで、私なんですか!?」

「それは、もう気づいているだろ。お前しか残っていないと」

「そうかもしれませんけど……あぁ!もう!嫌ですってば!」

「それでも、お前以外残っていなんじゃ。わしらだって本当はお前を嫁がせるのは嫌なんじゃ」

「だったら……!」

やめてよ、と続けようとしたが当主が口を開いたせいで、最後まで言わせてもらえなかった。

「これは契約なんじゃ。どうしようもできんじゃろ。西園寺家の人間で、十六歳以上で、結婚してない女子(おなご)は、お前と茜だけなんじゃから」

十五歳は三人いるが、十六歳になるまで一番早くて五カ月後だ。

向こうが待ってくれるはずもない。

もし、聞いてもらえたとしても、向こうに借りを作ることになってしまう。

私を失うより、そちらの方が嫌なのだろう。

最悪、私には茜程度の力だけ使うように言えばいいと思っているのだろう。

「あぁ!もう!すればいいんでしょ!すれば!しますよ!結婚!」

契約と言われた以上、断ることなどできない。

本当に、本当に心の底から嫌だったが、受け入れるしかなかった。

「さすが、未桜!では、あとのことは頼むぞ。わしはこれから、温泉旅行に行ってくる!」

当主は軽い足取りで部屋から出ていった。

元々、明日は茜の結婚式だったのに温泉旅行をするつもりだったのかと呆れるが、今日もいなかったし、いないほうがマシだと考えを改め、一生帰ってくんな、と心の中で中指を立てた。

そこからはあっという間に準備が進んでいった。

茜用に用意されていたものは全て私の好みで用意されなおされた。

嫁ぐために体を清めると言われ、時間がないからと一気に全部を一緒にやる羽目になった。

それと同時に相手側の親族の情報を頭に叩き込んでいった。

寝る間も惜しんで準備が終わった頃には、疲れ果てていてベッドの上で寝たかったが、出発する時刻となり、その願いは叶わなかった。

昨日はドレス、今日は着物。

二種類の花嫁衣裳を着ることになるとは思いもよらなかった。

人生は何が起こるかはわからない、というが本当にわからないものだ。

衣装だけでなく、結婚する相手までも変わることになるなんて。

それだけじゃなく、相手が人間から妖狐にまで変わるなんて、本当に人生とは試練の連続だ。

間違いなく世界中の人間の中で、私ほど今日を迎えたくないと思う人間はいないだろう。

「お嬢様、準備が整いました」

従者の一人が跪いて言う。

「そう。なら行きましょうか」

私は後ろに控えていた男から狐の面を受け取り、それを顔につけてから神輿に乗った。

今から妖の世界に私は行く。

大勢の人間を連れて、妖狐の屋敷へと行かなければならない。

車で行けたらいいのだが、よくわからない伝統とやらのせいで、七時間も神輿に乗ったまま移動しなければならない。

(お尻がもつかしら)

現代の素晴らしい乗り物に慣れた私のお尻では、この神輿の乗り心地は最悪でしかなかった。

どうでもいい見栄のせいで、我慢しなければならないのが嫌だったが、口を開けば変な声が出そうで我慢して耐えた。




※※※
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

処理中です...