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新たな結婚相手
「未桜です」
当主のいる部屋の前で床に手をつき頭を下げる。
「入れ」
許可が出て、ようやく顔を上げ中に入る。
部屋の中には既に西園寺家の重役の人たちと両親がいた。
また、小言かと面倒だと思いながら用意された座布団の上に座る。
「未桜よ」
「はい」
(早く終わって)
「明日、お前の結婚式を執り行う」
「はい……え?いま、何ておっしゃいましたか?」
(いま結婚式を執り行うって言った?言ったよね?冗談でしょ?聞き間違いよね?)
「お前の結婚式を執り行うと言った」
当主は淡々と同じ言葉を繰り返した。
(聞き間違えじゃなかったのかよ。冗談じゃないわ。あんなクソ野郎と結婚なんて絶対に御免よ。頭いかれてんのかよ。このクソジジイ。それとも、とうとうボケ始めたのかしら)
従妹と浮気して子供まで作っていた男と結婚するなんて絶対に嫌だった。
少し前まで、将来を共にしてもいいとか思っていた自分をぶん殴りたいほど後悔しているのに、夫婦になるなんて無理だった。
「ボケておらんわ。お前に心配されるなんて気持ち悪いからやめろ。あと、相変わらず口が悪いのう。見た目だけはいいのに、残念じゃ」
心の中で思っていたことが口から出ていたみたいだ。
むかつきすぎて無意識に。
当主は笑っていたが、両親は顔が青ざめていた。
重役たちが非難するよう目をしていたからだろう。
私は彼らを気にすることなく「見た目もいいんです。間違えないでください。そういうところがボケはじめていると思われる原因ですよ」と言ってやった。
続けて笑顔で「他の女と子供を作った男と結婚しろ、なんていうところも、元々イカれているのに、さらにイカれていると思われるんですよ」と付け足した。
当主は急におかしそうに笑いだした。
床をバンバンと叩きだす。
やっぱイカれたなと思っていると、「誰があのクソ男と結婚しろと言った?」と凄んだ。
「違うんですか?では、誰と結婚しろとおっしゃるんですか?」
あのクソ野郎と結婚しなくていいのは嬉しいが、婚約破棄してまだ半日もたっていないのにすぐに相手を決めるなんて怪しすぎる。
あれだけ念入りに調べて失敗したのに、自分たちが損をするかどうか調べる前に結婚させようとするなんて絶対におかしかった。
「お前は頭はいい方だと思っていたのに、わからないとは……もともと馬鹿だったのか?それとも、今日のことがショックで……それなら仕方ないか」
当主の鬱陶しい一人芝居に腹が立つも、相手が誰かを当ててやろうと今の西園寺家のつながりを整理する。
「まさか……!」
嫌な考えが頭によぎった。
嘘だと言ってほしかったが、私の困っている表情をみた当主が嬉しそうに笑ったのをみて悟ってしまった。
「いや、いや、いや、いや、いや!冗談ですよね」
私は首を横に振りながら、どうか違うと言ってと目で訴えかける。
「いや、冗談じゃない」
当主は満面の笑みを浮かべて言う。
「なんで、私なんですか!?」
「それは、もう気づいているだろ。お前しか残っていないと」
「そうかもしれませんけど……あぁ!もう!嫌ですってば!」
「それでも、お前以外残っていなんじゃ。わしらだって本当はお前を嫁がせるのは嫌なんじゃ」
「だったら……!」
やめてよ、と続けようとしたが当主が口を開いたせいで、最後まで言わせてもらえなかった。
「これは契約なんじゃ。どうしようもできんじゃろ。西園寺家の人間で、十六歳以上で、結婚してない女子(おなご)は、お前と茜だけなんじゃから」
十五歳は三人いるが、十六歳になるまで一番早くて五カ月後だ。
向こうが待ってくれるはずもない。
もし、聞いてもらえたとしても、向こうに借りを作ることになってしまう。
私を失うより、そちらの方が嫌なのだろう。
最悪、私には茜程度の力だけ使うように言えばいいと思っているのだろう。
「あぁ!もう!すればいいんでしょ!すれば!しますよ!結婚!」
契約と言われた以上、断ることなどできない。
本当に、本当に心の底から嫌だったが、受け入れるしかなかった。
「さすが、未桜!では、あとのことは頼むぞ。わしはこれから、温泉旅行に行ってくる!」
当主は軽い足取りで部屋から出ていった。
元々、明日は茜の結婚式だったのに温泉旅行をするつもりだったのかと呆れるが、今日もいなかったし、いないほうがマシだと考えを改め、一生帰ってくんな、と心の中で中指を立てた。
そこからはあっという間に準備が進んでいった。
茜用に用意されていたものは全て私の好みで用意されなおされた。
嫁ぐために体を清めると言われ、時間がないからと一気に全部を一緒にやる羽目になった。
それと同時に相手側の親族の情報を頭に叩き込んでいった。
寝る間も惜しんで準備が終わった頃には、疲れ果てていてベッドの上で寝たかったが、出発する時刻となり、その願いは叶わなかった。
昨日はドレス、今日は着物。
二種類の花嫁衣裳を着ることになるとは思いもよらなかった。
人生は何が起こるかはわからない、というが本当にわからないものだ。
衣装だけでなく、結婚する相手までも変わることになるなんて。
それだけじゃなく、相手が人間から妖狐にまで変わるなんて、本当に人生とは試練の連続だ。
間違いなく世界中の人間の中で、私ほど今日を迎えたくないと思う人間はいないだろう。
「お嬢様、準備が整いました」
従者の一人が跪いて言う。
「そう。なら行きましょうか」
私は後ろに控えていた男から狐の面を受け取り、それを顔につけてから神輿に乗った。
今から妖の世界に私は行く。
大勢の人間を連れて、妖狐の屋敷へと行かなければならない。
車で行けたらいいのだが、よくわからない伝統とやらのせいで、七時間も神輿に乗ったまま移動しなければならない。
(お尻がもつかしら)
現代の素晴らしい乗り物に慣れた私のお尻では、この神輿の乗り心地は最悪でしかなかった。
どうでもいい見栄のせいで、我慢しなければならないのが嫌だったが、口を開けば変な声が出そうで我慢して耐えた。
※※※
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