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別れ
しおりを挟む「ちょっと!巴!いつ藤堂と仲良くなったの!?」
教室に入るなり楓に腕を掴まれ席に座らされる。
楓にあの現場を見られたのかと頭が痛くなる。
藤堂が私に挨拶したこで注目を浴びて恥ずかしかったのに、何故か途中まで一緒に上まで上がった。
私は7組。藤堂は3組だから途中でわかれるが、それまで一緒にいたせいですれ違う人達に好機の目で見られて疲れた。
きっと私を心配して挨拶してくれたのだろうが、その優しさが楓の好奇心を刺激してしまい面倒なことになった。
藤堂はこの学校トップ3に入るほどイケメンでモテる。
他の二人とは違いクールだと言われてるせいか、女子と話すことがほとんどない。
挨拶も友達以外には自分からしないことで有名。
それなのに、今日いきなり私に挨拶をした。
楓じゃなくても気になる人は多い。
「昨日、図書委員があったじゃん。そのときに、ね」
本当のことを言いたかったが、クラスのみんなが私の言葉に耳を傾けていたのを知っていたので誤魔化すしかなかった。
「そうなんだ。てか、珍しいね。藤堂が女子と話すのも珍しいけど、何より巴が男子と話したってことが。それで、一体どんなはな……イタッ!ちょっ!誰!?」
楓は急に頭に何かがぶつかり痛くて涙目になる。
「芹那」
「落ち着きなさい。廊下まで声が聞こえたわよ」
「え?まじ?」
「まじよ。話しは後すればいいでしょう。放課後空いてる?久しぶりに遊ばない?巴がよければだけど」
日曜日に大会があるので、練習が優先されるのはわかってる。
だからわざと遊ぼう言った
この話しを終わらすために。
何があったのかは廊下を歩いているときに聞こえてきた声で何となく予想はついた。
巴と藤堂が仲良く歩いたら大事になるのはわかる。
現にそうなっているし。
だから楓を落ち着かせ、巴助けるために。
「うん。大丈夫だよ」
「え?本当?」
芹那は私の言葉に驚いて信じられないという顔をする。
「うん。私もみんなに話したいことがあったから放課後時間あるか聞こうと思ってたの」
「……」
「……」
二人は私の顔が暗くなるのを見て、昨日何かあったのだと察する。
藤堂と急に仲良くなったのもそれが原因だと気づいた。
なんて返事をするか迷っていたそのとき「おはよー」と桃花が元気よく駆け寄ってきた。
「おはよう。桃花。今日は珍しく遅いね」
「寝坊した。お陰で朝から全力疾走する羽目になったよ」
あちぃ。
そう言って教科書をうちわがわりにして仰ぐ。
「この間の私とは逆だね。それより桃花。今日の放課後予定ある?」
「ないよ」
「じゃあさ、久しぶりに遊ばない。二人からはもう許可は得てからあとは桃花だけなの」
「もちろん行く!あ、でも大丈夫なの?日曜、試合なのに」
「うん。大丈夫。何でかわからないけど負ける気しないし。それに帰ってからちゃんと稽古するし大丈夫だよ」
あの二人の怒りを試合にぶつける気満々なせいか、どうしても負ける気がしなかった。
それに、秋夜と別れることはちゃんと自分の口からみんなに言いたかった。
昼休みに秋夜に言うつもりだから、まだ別れてないけど。
それから先生が入ってきて授業が始まる。
今日はいつもより時間が経つのが早く感じてあっという間に昼休みになった。
私は弁当を一気に食べ、予定があるから抜けると言って教室を出て、体育館裏に行く。
昨日の夜、秋夜にラインをした。
『大事な話があるから、明日の昼休み体育に来てほしい』
すぐに秋夜から返信がきた。
たった一言『わかった』と。
私達のラインは今思えば、ただの友達以下のようなやり取りだ。
ただ淡々とデートの約束と帰る約束をするだけで、その日に会ったことや何がしたいとかどうでもいい、くだらない話しをしたことが一度もない。
私はそんなやり取りだけでも幸せだったが、きっと秋夜は違う。
面倒くさいと思っていたと思う。
だから、私を裏切れたのだ。
そう思い、目の前の秋夜を睨みつける。
顔を見たらやっぱり好きってなるかもしれないと心配していたが、全くそんなことにはならなかった。
寧ろ顔をボコボコにしてやりたくて仕方なかった。
「一体こんなとこに呼び出して何のつもりだ?手短に話してくれよ。早く戻らねーといけねーからさ」
頭をかきながら面倒くさそうに言い放つ。
「心配ないわ。3秒で終わるから」
「3秒?それなら、わざわざこんなところに……いや、いいや。それで何だ話って?」
「別れて」
「……は?今なんて言った?」
「別れって言ったの。ほら、3秒で終わったでしょう。話しは済んだから、もう行くわ」
「待てよ!」
秋夜は立ち去ろうとする私の手を思いっきり掴む。
「触らないでっ!」
私は掴まれた瞬間、その手を振り払う。
秋夜に触れられてせっかく思い出さないようにしていた嫌な記憶が一瞬で呼び起こされた。
その手で茜を抱きしめた。
その唇で茜にキスをした。
あなたは私を裏切った。
そんな汚い手で私に触れないで!
私は秋夜を睨みつける。
「……っ!何だよ。急にどうしたんだよ」
秋夜はイライラしながら吐き捨てるように言う。
私が浮気しているのを知らないと思っているからか、自分は何も悪いことはしていないという態度を取る。
その態度に腸が煮えくりかえるほど苛立ったが、ほんの少し期間付き合っていたし、茜とは長年の付き合いだったから浮気のことを知っているというのは言わないつもりだったが、全てぶちまけ自分がどれほど最低な男か教えてやろうかと思うも、やっぱりやめる。
ただ別れたなら、そこまで噂にならない。
でも浮気で別れたとなれば人は興味を持つ。
噂が広まり有る事無い事を言われる。
それは別に構わない。
他人にどう思われようとどうでもいい。
ただ、噂でも秋夜と茜と一緒に名前が出ることが耐えられない。
もうそれすら嫌だった。
「別に別れたいから言っただけよ。私はあんたのこともう好きじゃないの。ただそれだけよ」
「なっ!……おい!ふざけんなよ。!ちゃんと説明しろ!俺が納得できるように!」
秋夜は今にも殴りかかりそうな勢いで私を睨む。
ハッ。
その程度で私が怯えて謝ると思っているのか笑える。
私は秋夜とは真逆に凍てつくほどの冷たい視線を向けこう言った。
「何で私があんたに説明しないといけないのよ。付き合うのにはお互いの気持ちが必要だけど、別れるのには片方の気持ちだけでいいの。それでも説明して欲しいっていうなら教えてあげるわ」
私は秋夜に近づき胸を中指で押しながら、吐き捨てるように言う。
「あんたみたいなクズはいらないのよ」
その言葉を聞いた秋夜は顔から血の気がなくなっていき、一歩、また一歩とゆっくりと後ずさる。
'間抜け面ね'
私は秋夜の顔を見て鼻で笑いその場から立ち去る。
角を曲がるとそこには何故か桃花達がいた。
桃花達は慌てて隠れようとしたみたいだが、足が絡まったのか仲良く転けていた。
三人は笑って誤魔化そうとしたが、気まずい空気が流れた。
「……早く教室に戻ろう」
私は転けている三人を起こす。
「……巴」
桃花が心配そうに名を呼ぶ。
「放課後にちゃんと説明する」
私は自分でもわかるほど酷い顔で笑っているのがわかる。
でも、今は何も言いたくない。
少しだけ時間が欲しかった。
「わかった。戻ろっか」
「うん」
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