桜姫の寵愛〜愛されすぎて戸惑います〜

アリス

文字の大きさ
23 / 29

二ヶ月

しおりを挟む
「信近様」

門下生の一人に名を呼ばれ今の光景を見られたのではと焦りバッと後ろを振り向く。

「どうした」

近くまできた門下生に動揺しているのを気づかれないように尋ねる。

「あらかた捜しましたが、生存者はいませんでした」

「そうか。悪いがもう少し先でお前達は捜してみてくれ。私は火を消す。頼んだぞ」

生存者がいないならさっさと火を消して撤退しようと思いそう指示を出す。

門下生は返事すると他の門下生達を率いてもう少し先の方を捜しにいく。門下生達は二手に分かれ大声で叫びながら生存者がいないか捜す。

「やるか」
息を深く吐き、霊力を両手に集め大量の水を発生させる。龍を作り町に覆う火を信近を中心に回りながら火を消していく。

夜が明ける頃には火も完全に消え、数名の生存者が瓦礫の下から助け出された。

生き残った人達は泣いて喜び、妖魔から命懸けで守ってくれた桐花家に感謝した。



二ヶ月後。

「すごいな。流石、桐花家。あっという間に町が元通りになった」

妖魔の襲撃で崩壊した町が桐花家の力でたった二か月で元通りになる。

「やっぱり、信近様は凄いわ。私達がこうしてまたここに住めるのは信近のおかげよ」

女性は頬を赤らめて信近を褒める。

「それを言うなら寧々様もだぞ。寧々様が張った結界のおかげで俺達は助かったんだ。寧々様がいなければ俺達は今ここにいないんだ。生きてられるのは寧々様のお陰だ」

「そうだな。二人のお陰で俺達は生き残れ、またここに住める。二人がいればここは安全だ。何の心配も要らないな」

一人の男の言葉に全員が大きく頷く。

二か月前にあった襲撃を忘れた訳ではないのに楽観視する。それに今、信近や寧々のことを褒める人達は舞桜が亡くなってから来たのでこの町が昔どうだったか知らない。

知っていたらこんなことを言わない。

舞桜が生きて当主だった頃は妖魔が襲撃してくることも、この町が危機に陥ることも、人同士で争いが起こることなどあり得なかった。

この町で人が死ぬのは寿命か医者でも治せない病だけだったが、信近が当主になってからは人が死ぬのは妖魔や人によって殺された者が大勢いた。

町の雰囲気も陽気で笑顔が絶えない町から貧富の差が激しく人を見下す町にと変わる。

だから、誰もこの町が最悪な町になった事を知らない。むしろ、前住んでいた所より良い町だと思っていた。

「それに比べてあの娘は本当に仕えないよな。いつまで引きこもっているつもりだ」

あの娘。それは未桜のことだ。

町の人達にとって未桜は桐花家の長女として自分達を守る人だと最初は認識していたが、信近、寧々、末姫達のせいで最悪な娘という認識に変わる。


力は自分を守る為にしか使いたくない。

自分達のような人間に力を使いたくない。


そんな人間だと思われていた。

「本当にその通りよね。私達の為に力を使う気が無いならどこかに行ってくれないかしら。図々しいにも程があるわ」

美しい女性が悲しい表情で言うと周りの男性達はポッと顔を赤くする。

「桐花家の血を受け継いでいるからって町のために力を使わないなら、桐花家の名を名乗る資格などないだろう。恥ずかしくないのか。先祖は町のためにその身を捧げたというのに」

深く息を吐き未桜にたいする不満を口にする。

「きっと大して霊力が無いのよ。恥ずかしくて家から出られないんじゃ無いかしら」

クスクスと馬鹿にしたように笑う。

「だからって、安全な場所に隠れるのは違うだろう。今回の襲撃で大勢の人が死んだ。例え大した力が無くても桐花家を名乗るなら俺達を命懸けで助けるべきだろう」

「仕方ないよ。出来損ないの娘なんだから。妖魔に立ち向かう勇気もない小娘なんだよ。きっと」

自分達の事は棚に上げてよく言う。

もしも、ここに助さんがいたら全員に水をぶっかけて大声で怒鳴り散らしただろう。

「はぁーー。何でここにいるんだろうね。そもそも、何で産まれてきたんだろう。先代の当主は強かったらしいけど、娘にはその力を受け継がせれなかったんだね。もっとマシな子を産めなかったのかしら」

「本当、その通りだ。もっとマシな娘を産んでいたら、俺達はこんな思いしなかったし、大勢死ぬこともなかった。親子揃って使えない」

「おい、その言い方だと信近様も使えないってことになるぞ」

一人の男が注意すると「そういうつもりで言ったんじゃない!信近様は俺達の恩人だぞ!俺がそんなこと言う訳ないだろう!」と胸ぐらを掴む。

「わかってるよ。でも、他の人が聞いたらそう思んじゃないかと」

手を上げ勘弁してくれと苦笑いする。

チッ。

大きな舌打ちをすると男を突きとばす。

「まぁ、確かにお兄さんの言う通り信近様は別としてあの親子は使いものにはならないわね」

その場にいた一人の女性が場の空気を変えようと明るい口調で言い、コホンと咳払いしてこう続ける。

「それに比べて末姫様は立派よね。寧々様を産んだのだから」

「ああ、そうだな。寧々様を産んでくださった末姫様には感謝しかないな。いつも、俺達のことを気にかけてくださってる。あんなに優しい人はこの世にいないよ」

さっまで男の胸ぐらを掴んで怒鳴っていた男かと疑いたくなるほど表情が違った。寧々の話になった瞬間恋する乙女のような表情になる。

ここにいる誰もが察した。

男のは寧々に惚れているのだと。

「それに比べて未桜だったか、名前は。あんな女さっさと死んでしまえばいいのに。寧々様のように美しい訳でも強いわけでもない。俺達、町の人達に好かれている訳でもない。ただ、桐花家の血を受け継いでいるだけのお高くとまった嫌な女だろ」

例え血は受け継いでいなくても、寧々の方が桐花家の人間として相応しいと。

男その考えに全員その通りだと口々に声に出して賛同する。

「本当何でそんな奴が生きてるんだろうね。死ねば良かったのに」

ボソッと少年が呟く。

その声は男のとは違い本気でそう思っていた。

男はふざけて冗談みたいな感じで言ったが、少年は心の底から死んで欲しいと願っていた。

今回の襲撃で少年は目の前で家族を殺されこれから一人で生きていかないといけない。

少年が助かったのは運良く出くわした倫太郎が、妖魔を倒してくれたから。

自分がこんな目にあったのも家族が殺されたのも未桜が義務を果たさず一人安全な所に隠れていたせいだと思い恨んでいた。

「そうね。本当に死んでくれないかしら」

少年の意見に一人また一人と未桜の死を望む者が増えていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。 同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。 おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。 幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。 しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。 実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。 それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...