13 / 111
カエデの木
しおりを挟む甘味料を手に入れるには原料がどこにあるか探さないといけない。
領地内にあればいいがなかった場合、他の領地主からどうやって手に入れるかを考えないといけない。
まずは領地内に生えてある植物を知る必要があるが……
この広い領地を一個一個探し回るのは面倒くさい。
それは最終手段だ。
まずは話しを聞いてあるかどうかを確認する。
「二人共。この領地に生えてある木や草。知ってるだけ教えてくれる」
そう言って微笑んだが、二人は「うわっ!」と声には出さなかったが表情からドン引きしているのが伝わってくる。
'相変わらず失礼ね。せっかく微笑んだのに'
二人の表情にイラッとくるも、すぐに表情を元に戻す。
「えっと、木と草ですね。私が知る限り……」
オリバーは軽く咳払いしてから知っている植物の名を上げていく。
さすが皇宮で官僚にまでのしあがる男だと感心しながら耳を傾けるも、どれも求めているものではない。
やっぱりそんな簡単にはないか、そう思ったそのとき……
「……あっ、そうでした。この屋敷の裏側から少し離れた所にカエデの木が沢山生えていますね」
カエデ、その言葉を聞いて驚きのあまり持っていたカップを落としてしまう。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
オリバー慌てて駆け寄る。
アスターとアイリーンもコップの割れる音がして慌てる。
「……オリバー。今なんて言った?」
「……?大丈夫ですか、と」
私が何を聞きたいのかよく理解できず困惑する。
「その前!」
「えっと、たしかカエデの木がこの屋敷の裏側に生えて……」
オリバーは最後まで言うことができなかった。
ローズがいきなり抱きついてきたから。
慌てて引き剥がそうとするもローズの口から出た言葉に気を取られそれどころではなくなった。
「オリバー。あなた最高よ!ありがとう!これで借金もなくなるし、億万長者にも繋がるわ!今すぐカエデの木に行くわよ!」
私はオリバーを突き飛ばし出かける準備をする。
「大丈夫か?」
オリバーはアスターに憐れむような目を向けられるも、ローズの口から感謝の言葉を言われそれどころではなかった。
「ちょっと!何してるの!早く行くわよ!」
準備を終え案内してもらおうと思ったのに、倒れたヒロインを助けるヒーローみたいなことをしている二人に怒鳴る。
すぐそこに金のなる木があるのに、動こうとしない二人に私は理解できなかった。
「はい」
二人は私の声でようやく動き出し、カエデの木のところまで案内してくれる。
「きゃあああー!」
想像以上の多さに私は嬉しすぎて叫ぶ。
「最高!金のなる木がいっぱいあるぅー!よっしゃあーーっ!」
私がそう叫ぶとアイリーンも「よっしゃあーっ!」と叫ぶ。
そんな私達の姿に二人は本気で同情した。
'妖精なのに可哀想'
'妖精王なのに可哀想'
ペットは飼い主に似るとよく言われるが、アイリーンだけには似てほしくなかったと思う。
「さぁ、あなた達。準備をしない」
私がそう言うと三人はそれぞれ動き始める。
アイリーンは桶を浄化。
アスターはナイフで木に傷を作る。
オリバーは傷ができたところの下に桶を括り付ける。
この作業は三人に任し、私は周囲を捜索する。
何かないかと。
暫く探したが結局何も見つからなかった。
私が三人のところに戻ると丁度作業が終わったところだった。
「三人共、お疲れさま。じゃあ、帰ろっか」
私はそう言うと屋敷へと向かう。
アイリーンは私の後をすぐ追うが、二人はその場に立ち尽くす。
借金返済できると言っていたのに、やったのは木を斬りつけ桶を木に括り付けること。
これでどうやって金を稼ぐのか二人にはどれだけ考えても検討がつかなかった。
何か考えがあるのはわかるが、今回ばかりは無理だと二人は思った。
次の日。
「おー。大量。大量」
私は桶に入ったメープルウォーターを見て顔がニヤける。
もう私にはこれがお金にしか見えなかった。
「じゃあ、二人共桶を交換して」
「……はい」
今日も自分達かと言う顔をする二人に、さっさと働けと顔でそうだと言う。
二人がせっせと交換しているうちに昨日とは反対側の方を捜索するもやっぱり何も見つからない。
諦めて帰っていると、どこからか花びらが飛んできた。
よく見ると桜の花びらだった。
今は春だし咲いてもおかしくない。
桜か。
'昔はよく見ていたな。施設にも一本だけあったし。5月になると実ができて、鳥達とよく戦ってたな。意外と美味しいのよね。あのさくらんぼ…………さくらんぼーー!'
私はもしかしたらこの桜の木がさくらんぼの木ではないかと思い、飛んでくる花びらの方へと走る。
「お嬢様!?」
「ご主人様!?」
いきなり走り出した私に驚きアイリーンはすぐさま追いかける。
二人はメープルウォーターのせいでゆっくり追いかけるしかない。
さっき「一滴でも溢したらおやつ抜き」と言われたため。
「あった」
走ること20分。ようやく見つけた。
私は木に近づき咲いてる花を見る。
そして確信した。
この木は施設に生えていた木と同じだと。
「さくらんぼの木。みーつけた!」
実がなるのはまだ先だが、使い道は沢山ある。
新たな金のなる木が見つかり、私の気分は最高だった。
「ご主人様。この木がどうかしたのですか?」
嬉しそな私を見て、アイリーンはこの木が気になる。
「これはね……」
説明しようと口を開くがそのとき「お嬢様。勝手にいなくならないでください」と二人が到着した。
「一体どうしたんですか?」
オリバーが尋ねる。
二度説明するのは面倒だし丁度良かったと思い、話しの続きを言う。
「この木が何の木か知ってる?」
「桜ですよね」
私の問いにアスターが答える。
「うん。この木に実がなるのは知ってる?」
「はい。何度か見かけました。小さな赤い実がなってました」
オリバーが言うと後ろでアスターも頷く。
「それが食べられるってことは知ってる?」
「……いえ」
オリバーは本当に?と疑う。
アスターもそういう顔をする。
アイリーンだけは私の言葉を信じいつ食べられるのか聞いてくる。
「食べられるのはまだ先だど、果物が食べれるのは良いわね。ねぇ、この国の果物は何があるかわかる?」
オリバーは「それはお嬢様の方が詳しいはずでは?それともわざときいているのか?」と思いながら答える。
この質問のせいで私に対する疑いがますます強くなる。
「リンゴ、レモン、びわ、葡萄、メロン、梨、イチジク、桃ですね……お嬢様。なぜそんな怖い顔をしてるのですか?」
オリバーは言い終わり、私の顔を見るとまたかと思った。
「私が?気のせいよ。私はいま最高に気分がいいから」
そう。本当に気分が最高だった。
この世界で食べられている果物がたった8種類しかないとは。
元の世界では私が食べたことない果物も多くあるくらい種類が沢山あるのに。
今のうちに手に入れれば更に大金が入ってくる。
笑いが止まらないとはまさにこのことだ。
この世界は何もかもが金に変わる。
誰も知らないから、全てを手に入れられる。
'ああ。実に愉快。最高に素晴らしいわ'
私は無意識に大声で笑った。隣で一緒にアイリーンも笑った。
その光景を見て二人がドン引きしているのも知らずに、長時間笑い続けた。
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる