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第一話 蘇る思い出
情けない自分と輝く彼女
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スタジオ内の撮影現場。俺も何度かだけ、こういう本番前の殺伐とした空気を感じたことがある。まさか、懐かしみのあるこの雰囲気をまた味わえるなんて、思ってもみなかった。
「本番までぇ、五、四、三、二」
第一話の最後、引っ越しの後片付けのシーン。
ドラマは幼馴染みの男女のラブストーリー。俳優は少し前から人気を爆発している、『神崎 誠』演技がうまく、最近ではバラエティセンスも長けていることが知られて、ますます人気が増している。
「俺は、お前の事、ずっと前から好きだったよ・・・」
「え・・・?」
画面越しの二人の会話が、海華の彼氏として聞きたくなかった。リハーサルで聞いた言葉を聞きたくないって必死に足掻きたかった。
「だから、妹なんて、なんだかんだ思ってなかったんだよ」
年上の誠からの言葉に俺は少しだけ、殺意を思ってしまった。少し、そう、ほんの少しだけ。
「それじゃあ、俺は帰るよ。この後仕事だし」
海華が誠の手をとって彼の足を止める。海華の手に気付いて誠は振り返る。
二人はキスをした。
「・・・・・・」
俺にはその後の言葉が頭に入ってこなかった。俺は彼氏だって理解してた。でも、今この時、海華が好きでいる人が俺でないように頑張っているのに、胸騒ぎをしていた。
「はいカット!」
演技終了の声が聞こえた。
「良かったよ海華ちゃん」
周りの人が海華を褒める声に俺は、ついていけなかった。
「テレビとかで見てたけどさ、やっぱすごいね。なんていうか、引き込まれるっていうか」
煌太は素直に言った言葉に、どこか恐怖を感じているように聞こえた。俺もテレビで見ていた海華と、今回見た海華の姿は別物だった。それはきっとリハーサルや失敗を見ていたから、そう思う気がした。
「どうだった?二人とも」
いつの間にか海華が俺たちのところに着ていた。俺たちは感想を言うけど、俺にはどこか引っかかりつつも語った。
「やっぱり?私も今までで最高の演技ができたと思ったんだ」
海華の笑顔に俺はどこか素直に喜べない。
「今日はこれで終わりだから、帰ろうよ」
俺と煌太は頷いて撮影現場を後にする。
「いや、ほんと。すごいしか言いようがないほど凄かったです!食材も生がいいみたいに、お芝居も生で観ると尚いいんですね!」
煌太のこの台詞を何回聞いただろうか。
「そうでしょ?だから舞台とかも本当にいいんだよ」
この二人はいつも明るく俺と接していてくれる。この環境に俺は正直に言うとちょっと息苦しい。どうして、彼氏じゃない男と彼氏の前で話すのか。
『・・・待ってるね。ここで。ちゃんと迎えに来てよ・・・』
海華のことを考えていたりすると時折、昔の風景が思い出す。どこかへ行かなきゃダメな気がする。でもそこがどこなのか分からなければ、誰を待たせているかなんて微塵も覚えてなんていやしない。
「真鳳も、もう一度チャレンジしてみたら?」
「確かにってか、なんで俳優業やめたん?」
「ん?あぁ、俺には才能がないって分かったからやめた。それだけだよ」
この業界には才能の有無がその人の人生を大きく左右する。なるべく速く自分の才能の有無か限界を知れば、より簡単にこの業界から抜け出せて、楽になる、そう思ってた。
「俺よりは才能あるとおもぜ?」
煌太よりは確かに才能がある、それは確実だ。でも、その演技の技量は言ってしまえば皆無に等しい。そんな人に比べられても、何の慰めにもならない。
「私は、もう一度真鳳の演技見てみたいなぁ」
「何で俺なの」
少し笑って言った言葉に、海華からの返事は、想定外だった。
「才能あるって思ったから・・・」
「俺も」
「どうしたの、二人揃って、何か企んでんの?」
二人の言葉が俺には、聞きたくないものだから、これ以上進んで欲しくない。
「あなたの才能を判断するのは、あなたじゃなくて、私たちだよ?」
「そうそう、お前の演技はどんな時も見てて清々しいもんだったよ」
「俺は、その才能を他の人に判断されるのが苦手だし、清々しいかもしれない演技をしてる時、ちょっと息苦しいんだよ。だから、俺は、もう戻りたくない」
一度逃げたところにもう一度なんて、そんな甘い世界じゃない。それはようく分かっている。だから俺がここでじっとしている。
「なんか、変わったよね真鳳。昔はあんなに必死だったのに・・・」
「あぁ、あの時以降なんか人が変わったてか。別人って感じがする」
俺はここで昔のことを何となく、思い出そうとする。でも・・・・・・。
「じゃ俺は、ここで」
帰る途中、煌太とはある道で別れた。そこからは、少し惨めな自分との会話が始まる。夢を叶えた海華は、夢を諦めた俺とは正反対、そんな人と話すのは自分のことを情けなく思う一方だ。
「ねぇ、今日の晩ご飯は何にするの?」
稀に俺は海華の家に行って一緒に過ごすことがある。その時には俺が料理することがほとんどだ。
「何にするって、言われても冷蔵庫の中に何があるのか知らんからなんとも言えないよ」
「冷蔵庫の中身は特に何も入ってません!」
堂々と言った彼女に俺は笑いながら答えるしかなかった。
「なら、 海華の好きな『ナスの肉味噌丼』にでもする?」
「いいじゃん!もち、ナス多めがいい!」
俺の得意料理というか、基本的に季節関係ないからよく作るもの。だから彼女の家で作っては食べさせてる。
「うん、そうだね。だったら近くのスーパーで買い物してこ。ついでに色々と」
海華は喜び、俺との距離を縮める。彼女の腕が俺の腕と絡み、彼女の体温を感じる。俺は自分の生活の充実生を感じて今の生活の満足さに浸る。
海華の家にお邪魔し、料理を作っている。なのに海華が部屋の片付けをしながら俺に話しかけてくる。
「ねぇ、本当に再開しないの?俳優業」
俺はナスを多めに切って彼女を無視する。
「だって、私も北山さんも他の人も、みんなあなたの演技をもう一度って見たがってるんだよ?」
俺には、沈黙が相応しく思えた。そして、油を敷いて熱したフライパンでひき肉を炒め始める。
「あの時まではずっと楽しそうだったのに」
「俺にはもう、関係ないよ。夢を叶えた海華は俺にとって、夢の生活を送ってるみたいなものだよ」
彼女の海華は、少し照れているようだ。ある程度、お肉が焼けた後でナスを入れる。
「でも、私はもう一度、みたいって思っちゃうっちゃけどな」
お肉とナスがいい焼け色になったところで味噌を入れて、味付けをする。
「俺からすれば、海華は今が一番輝いてるよ?それに今の俺は、昔に戻ろうとする俺がなんだか情けなく思っちゃうちゃもん。今この時を否定するように思えるけんさ。そんなこと思いたくないとよ」
俺は白ごはんの上に、フライパンの上の具を乗せて卵の黄身を飾り、完成した。
「本番までぇ、五、四、三、二」
第一話の最後、引っ越しの後片付けのシーン。
ドラマは幼馴染みの男女のラブストーリー。俳優は少し前から人気を爆発している、『神崎 誠』演技がうまく、最近ではバラエティセンスも長けていることが知られて、ますます人気が増している。
「俺は、お前の事、ずっと前から好きだったよ・・・」
「え・・・?」
画面越しの二人の会話が、海華の彼氏として聞きたくなかった。リハーサルで聞いた言葉を聞きたくないって必死に足掻きたかった。
「だから、妹なんて、なんだかんだ思ってなかったんだよ」
年上の誠からの言葉に俺は少しだけ、殺意を思ってしまった。少し、そう、ほんの少しだけ。
「それじゃあ、俺は帰るよ。この後仕事だし」
海華が誠の手をとって彼の足を止める。海華の手に気付いて誠は振り返る。
二人はキスをした。
「・・・・・・」
俺にはその後の言葉が頭に入ってこなかった。俺は彼氏だって理解してた。でも、今この時、海華が好きでいる人が俺でないように頑張っているのに、胸騒ぎをしていた。
「はいカット!」
演技終了の声が聞こえた。
「良かったよ海華ちゃん」
周りの人が海華を褒める声に俺は、ついていけなかった。
「テレビとかで見てたけどさ、やっぱすごいね。なんていうか、引き込まれるっていうか」
煌太は素直に言った言葉に、どこか恐怖を感じているように聞こえた。俺もテレビで見ていた海華と、今回見た海華の姿は別物だった。それはきっとリハーサルや失敗を見ていたから、そう思う気がした。
「どうだった?二人とも」
いつの間にか海華が俺たちのところに着ていた。俺たちは感想を言うけど、俺にはどこか引っかかりつつも語った。
「やっぱり?私も今までで最高の演技ができたと思ったんだ」
海華の笑顔に俺はどこか素直に喜べない。
「今日はこれで終わりだから、帰ろうよ」
俺と煌太は頷いて撮影現場を後にする。
「いや、ほんと。すごいしか言いようがないほど凄かったです!食材も生がいいみたいに、お芝居も生で観ると尚いいんですね!」
煌太のこの台詞を何回聞いただろうか。
「そうでしょ?だから舞台とかも本当にいいんだよ」
この二人はいつも明るく俺と接していてくれる。この環境に俺は正直に言うとちょっと息苦しい。どうして、彼氏じゃない男と彼氏の前で話すのか。
『・・・待ってるね。ここで。ちゃんと迎えに来てよ・・・』
海華のことを考えていたりすると時折、昔の風景が思い出す。どこかへ行かなきゃダメな気がする。でもそこがどこなのか分からなければ、誰を待たせているかなんて微塵も覚えてなんていやしない。
「真鳳も、もう一度チャレンジしてみたら?」
「確かにってか、なんで俳優業やめたん?」
「ん?あぁ、俺には才能がないって分かったからやめた。それだけだよ」
この業界には才能の有無がその人の人生を大きく左右する。なるべく速く自分の才能の有無か限界を知れば、より簡単にこの業界から抜け出せて、楽になる、そう思ってた。
「俺よりは才能あるとおもぜ?」
煌太よりは確かに才能がある、それは確実だ。でも、その演技の技量は言ってしまえば皆無に等しい。そんな人に比べられても、何の慰めにもならない。
「私は、もう一度真鳳の演技見てみたいなぁ」
「何で俺なの」
少し笑って言った言葉に、海華からの返事は、想定外だった。
「才能あるって思ったから・・・」
「俺も」
「どうしたの、二人揃って、何か企んでんの?」
二人の言葉が俺には、聞きたくないものだから、これ以上進んで欲しくない。
「あなたの才能を判断するのは、あなたじゃなくて、私たちだよ?」
「そうそう、お前の演技はどんな時も見てて清々しいもんだったよ」
「俺は、その才能を他の人に判断されるのが苦手だし、清々しいかもしれない演技をしてる時、ちょっと息苦しいんだよ。だから、俺は、もう戻りたくない」
一度逃げたところにもう一度なんて、そんな甘い世界じゃない。それはようく分かっている。だから俺がここでじっとしている。
「なんか、変わったよね真鳳。昔はあんなに必死だったのに・・・」
「あぁ、あの時以降なんか人が変わったてか。別人って感じがする」
俺はここで昔のことを何となく、思い出そうとする。でも・・・・・・。
「じゃ俺は、ここで」
帰る途中、煌太とはある道で別れた。そこからは、少し惨めな自分との会話が始まる。夢を叶えた海華は、夢を諦めた俺とは正反対、そんな人と話すのは自分のことを情けなく思う一方だ。
「ねぇ、今日の晩ご飯は何にするの?」
稀に俺は海華の家に行って一緒に過ごすことがある。その時には俺が料理することがほとんどだ。
「何にするって、言われても冷蔵庫の中に何があるのか知らんからなんとも言えないよ」
「冷蔵庫の中身は特に何も入ってません!」
堂々と言った彼女に俺は笑いながら答えるしかなかった。
「なら、 海華の好きな『ナスの肉味噌丼』にでもする?」
「いいじゃん!もち、ナス多めがいい!」
俺の得意料理というか、基本的に季節関係ないからよく作るもの。だから彼女の家で作っては食べさせてる。
「うん、そうだね。だったら近くのスーパーで買い物してこ。ついでに色々と」
海華は喜び、俺との距離を縮める。彼女の腕が俺の腕と絡み、彼女の体温を感じる。俺は自分の生活の充実生を感じて今の生活の満足さに浸る。
海華の家にお邪魔し、料理を作っている。なのに海華が部屋の片付けをしながら俺に話しかけてくる。
「ねぇ、本当に再開しないの?俳優業」
俺はナスを多めに切って彼女を無視する。
「だって、私も北山さんも他の人も、みんなあなたの演技をもう一度って見たがってるんだよ?」
俺には、沈黙が相応しく思えた。そして、油を敷いて熱したフライパンでひき肉を炒め始める。
「あの時まではずっと楽しそうだったのに」
「俺にはもう、関係ないよ。夢を叶えた海華は俺にとって、夢の生活を送ってるみたいなものだよ」
彼女の海華は、少し照れているようだ。ある程度、お肉が焼けた後でナスを入れる。
「でも、私はもう一度、みたいって思っちゃうっちゃけどな」
お肉とナスがいい焼け色になったところで味噌を入れて、味付けをする。
「俺からすれば、海華は今が一番輝いてるよ?それに今の俺は、昔に戻ろうとする俺がなんだか情けなく思っちゃうちゃもん。今この時を否定するように思えるけんさ。そんなこと思いたくないとよ」
俺は白ごはんの上に、フライパンの上の具を乗せて卵の黄身を飾り、完成した。
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