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私とママ。
ママのBAR-エデン-
しおりを挟む「ノース、お疲れ様。今日はありがとう」
ママがノースさんの頭を撫でる。全ての荷物を下ろし、日除けを取ったノースさんは身体を伸ばして、落ち着いているように見える。
「主人、俺も良い旅が出来て良かった。新しい家族も出来たしな。」
ノースさんの紅い瞳と目があった。家族、、、その言葉が身に染みて、心が温かくなる。
「ノースさん、ありがとうございました。ゆっくり休んでください。」
「ユーリ、俺も主人と同じで、お前に出逢えて良かったと思ってる。これからもよろしく」
そう言うと、ノースさんは私の身体に頬を寄せてすり寄った。私は、ノースさんの頬の鱗に触れる。硬くてひんやりしてて、どこか温かい。初めて触れることが出来たノースさんの鱗は、そんな感じだった。
「さ、ユーリちゃん。荷物の片付けもあるし、行きましょうか。」
ママは、かなり大きい荷台を持って来て、仕入れ箱を全て乗せていた。、、、、これを、ここから見える少し離れた家まで運ぶのか。ママの体力が有り余っててよかった。
ママが荷台を引っ張って、私はその後ろから荷台を押して家へと向かった。
振り返ると、ノースさんは洞窟の中へと消えていた。
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「はぁっ、、、、重かったわね。ユーリちゃん、手伝ってくれてありがとうね。それと、おかえりなさい。」
「た、ただいま。、、、ママもおかえりなさい」
こんな挨拶を交わすのは、何年振りだろうか。
実家暮らしだった頃は、夜勤のお母さんがいつも出迎えてくれたっけ。朝は、お父さんが送り出してくれたなぁ、、、。二人とも居ない時は、お兄ちゃんが一緒に居てくれたから、一人暮らしを始めた時はとても寂しかった。毎晩泣いて、お母さんに電話掛けてたなぁ、、、。でも、もう会えないのか。
ふとした時に、生きてた頃の事を思い出してしまう。
寂しいけど、でもママもノースさんも居るから、まだ寂しさが和らいでいた。
それに、この世界に来て、まだ1日も経ってないのに、ずっと前からここに居た気分になる。ママの暖かさと、家の雰囲気は、私を心から優しく包み込んだ。
「ユーリちゃん??、、、疲れたわよね。座ってて。ママは仕入れた物を片付けて来るからね。」
ママに椅子に座らせられると、思ってた以上に疲れていたのかボケーとしてしまう。私もママの片付けを手伝いたいのに、全然身体に力が入らない。
どうしようもないから、ママの店を観察する事にした。
BAR-エデン-
大きな看板が、カウンターキッチンの奥、上の方に掛かっている。ここはお店の空間なのだろう。
壁に沿うように、ディアウォールが作れられていて、沢山のお酒と、様々なグラスが並んでいる。
ワイングラス、カクテルグラス、シャンパングラスがグラスハンガーに吊るされて、ショットグラスやロックグラスが並べられている。
、、、ママのお店は、本当にBARだ。グラスがわかってしまう私も、結構な酒呑みだな。
天井から吊るされている角度の変えることの出来るペンダントライトが、BARカウンターを照らしている。
カウンター席は全部で8席。テーブル席は2つあるだけのこじんまりとしたお店。隠れ家のお店って感じがする。
壁にかけられた、美しい街の絵画はとても綺麗で、思わず魅入ってしまう。
カウンター奥、お客様から見えない空間にママはいる。どうやら、とっても大きい冷蔵庫があるみたい。仕入れた物を収納しているのはとても楽しそうだ。
ママがBARのマスターか。とても似合ってると思うし、こんなにもかっこいいお兄さんが作ってくれるお酒はとても美味しいだろう。
ママの事を口説く女性も少なくないと思うし、ママも可愛らしい女性が来たら嬉しいに違いない。一夜限りの関係なんて普通にありそうだなぁ。
ママは、女性を口説いたりするのだろうか。
私の知らないママ。想像すると、胸がギュッと痛くなる。誰かに掴まれているかの様なそんな感じ。
「ユーリちゃん、ご飯にしない??」
片付けが終わったのか、ママの声がカウンター奥の部屋から聞こえる。
「うん。」
モヤモヤもお腹がいっぱいになったら消えるはず。そう思って、ママのいる方に向かう。
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「ユーリちゃんとの初めてのご飯だから、腕を振るいたかったんだけど、、、、ごめんね。ママも疲れちゃった。サラダとバケットぐらいしか無いんだけど、食べれるかしら??」
ママのところに向かうと、そこは家だった。とても大きい冷蔵庫と、負けないぐらい大きいキッチンがあるが、その向こうは普通サイズのテーブルと椅子があり、ここが住居空間である事に間違い無いだろう。
テーブルの上には、美味しそうなサラダとバケットが並んでいる。ママは身体を沢山動かしたのに、これだけで足りるのだろうか??
「美味しそうだけど、、、ママはもっと栄養とった方がいいと思うよ?」
「ママの事心配してくれてるの??ふふ、ありがとう。でもユーリちゃんの言う通りよね、、、久しぶりにこんなに身体を動かしたものね。」
、、、これは料理しても良いのだろうか。異世界で初料理。ワクワクする。
「ママ、私、料理は出来そうだから借りてもいい??」
「え、ユーリちゃん。ママの為に作ってくれるの!?嬉しいわ!!食材はわからないだろうから、使ってみたい物出して見てくれる??」
ママはキラキラした目でこちらを見る。かっこいいのに、可愛い。私もママの為に何かが出来るだなんて、嬉しい。
冷蔵庫の前に立つと、改めてそのデカさに驚かされる。厨房にある冷蔵庫ってこんな感じなのかな。それにしても大きい様な、、??でも、今日仕入れた物が全部収まっちゃうんだから、これぐらいの大きさがないと困るよね。
冷蔵庫を開けると、そこは美味しそうな食材の山だった。
とりあえず、鶏の卵とか非にならないサイズの何かの卵と、鶏肉っぽいけどこれまたデカすぎる何かの肉を取り出す。
「朱雀の卵と、グリフォンのお肉ね。」
、、、どんな味がするんだろう。とりあえず、スクランブルエッグと、照焼きチキンになればいいんだけど。サラダもバケットで挟んで、サンドイッチにすると、タンパク質も取れるし良いはず。
ママに見られながらの料理緊張する。適当なご飯しか作らないから、もう少し料理を頑張っておけば良かったと後悔した。
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「ユーリちゃん、すごく美味しいわ!!」
「そ、そう??ありがとう。」
自分でも食べてみると、びっくりするぐらい美味しかった。これは、素材が良い物だからだろう。この世界の住人はこんなに美味しいものが食べれるのか。
沢山食べてしまいそうで、太ってしまうんじゃないかと不安になる。運動すれば良いのだけど、、、運動って何すればいいんだっけ。走るぐらいしか思いつかないんだけど。
モンスターに襲われない様に、剣術とか武術とかもやってみたいな。ママは闘う事があるのだろうか。ママは強そうだけど、でも傷ついて欲しくないから嫌だなぁ。
「誰かの手料理って良いわね。ユーリちゃんが作ってくれたから、いっぱい食べちゃったわ。」
「それは良かった。残った料理は、明日の朝ごはんの時にでも使おうね。」
あれほど大きい物を調理したのだ。流石に食べ切れないほど大量に出来てしまった。明日の朝ごはんにも使えるし、残りは冷蔵庫にしまった。
ママは沢山食べてくれたし、美味しいって言ってもらえたし、嬉しい。
「ユーリちゃんは、良いお嫁になりそうね」
その言葉に、ママの入れてくれたコーヒーが苦味を増した気がした。お嫁か、、、、私なんか誰が貰ってくれるんだろう。
「貰ってくれる人が居るかなぁ」
そう言ってママの方を見ると、なんだか難しい顔をしていた。え、やっぱりこんな性格の私じゃ貰い手居ないかな、、、。ママもそう思ってるって事、、??あんまり結婚願望が無いとはいえ、ちょっと傷つく。むすっとしてると、ママはこちらを見て慌てた。
「ち、違うのよっ。ほ、ほら、、、その、、、。」
ママの元気が段々と無くなっていく。お嫁の話を始めたのは、ママの方なのに。どうしてママの元気がなくなるのかが、イマイチ私には理解出来なかった。
「そうだ!!ユーリちゃん、お風呂に入ってらっしゃい。お湯はもう溜めてるから。ね??」
ママは立ち上がり、誤魔化すかの様に私をお風呂場へと押し込む。
「うん。先にいただきます。」
今のママはよくわからないし、そっとしておこう。私は着ていた服を脱ぎ、浴室に入った。
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