言葉の暴力で世界最強! 消えたヒロインを追い求めて世界へ! 幼馴染に告白するつもりがなぜかモンスターに愛の告白を

二廻歩

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アンの気持ち

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<最終章>
第六世界。東エリアにある山奥の村。
夜遅く。
壁を軽く叩く音がすると男が入ってきた。
「こんな夜中に済まない」
家の者が寝込んだのを見計らって訪ねてきたらしい。
これで三日続けての訪問。
用心深い上に執念深いところがある。
もうそこまで気を遣わなくてもいいのに。
まさか私を信じてないの?

「どうされました? 」
「何だその他人行儀な物言いは? 会いに来たのではないか」
男は怒ってるのでは決してない。ただ元々が横柄な態度で誤解を受けやすい。
一緒に過ごすようになってもまだイマイチ男のことが分からない。
でも決して悪い方ではないと思う。
やさしく見守ってあげたい。そういう気持ちがある。

「まさか…… またあのお話をなさるつもりですか? 」
「当然であろう? 僕たちは結ばれる運命なのだ」
随分と自信過剰なお方。これがただの流浪の民なら問題ない。
でも実際は違う。

「しかし王子様…… 」
「よせ! もう自分は王子ではない! 」
「そうでしたね。元王子」
「その呼ばれ方も不愉快だ。現王子に違いはない。ただその地位を捨てたのだ」
男はそう言って頭を掻く。嫌なことを忘れようと掻くから止めることになる。
「おやめください! 」
「分かっている。それで私の気持ちを受け入れてくれたか? 」
少々我がままだから皆から疎まれいじめられさえする。
そんな時に助けていたらいつの間にかかけがえのない存在にお互いがなっていた。

第六世界に来て安住の地を得たはいいが未婚の者は契りを交わさねばならない契約。
それがこの世界の平和のためなら仕方ないこと。
受け入れられたのだからこちらだって条件を呑むのが当然。
問題は誰と契りを交わすか。
もちろん彼でも構わないと思った。でも……

「なあもうそろそろ意志を固めてくれないか? 」
まずいまずい。迫られるとつい返事をしてしまいそうになる。
「ですがあなた様と私とでは釣り合いません」
「おいおい! そんな古臭いこと言ってないで皆の祝福を受けよう」
仲間のうちで選べと言われたら間違いなく彼を選ぶでしょうね。
でも私にはゲンがいる。将来を誓い合った幼馴染のゲンがいる。

「アン? アン? 聞いてるのかアン? 」
「済みません。ついぼうっとして…… 」
「ふん! どうせまたあいつのことを考えていたんだろう? 」
意外に鋭い元王子様。なぜ流浪の民になどなったのか?
「はい。私には心に決めた人がすでにいるんです。
それにあなた様にはもっと相応しい人が必ず現れます」
「いつもそうやってはぐらかす。僕に相応しいのはアンしかいないんだ」
「しかし呼び戻されることだってありますよ? 」
「そうなったらそうなっただ。アンを妃に迎えればよい」
本当にこの男は自分勝手なんだから。私の事情を知ってるはずなのに。
いつまでもしつこい。そこが男らしくないのよね。

王子だから甘やかされてばかり。本当に嫌になる。
「僕にはアンしかいないんだよ。あいつだって姿を見せてないんだろ? 」
「ゲンは…… 第一世界で姿を見せました。あなたもいたでしょう? 」
「でもそこから一度も…… もう違う女性を見つけてよろしくやってるさ。
だからこっちだって…… 」
「ゲンの悪口はやめて! 陰で助けてくれたのはきっとゲンだと思う」
「ははは…… 都合がいいな。それはきっと地元の親切な人さ」
「一度だけでなく二度までも」
「偶然だって。なぜ姿を見せない? おかしいだろ? 」
男は見苦しくも嫉妬して攻撃的になってる。

ゲンを巡ってのケンカはこれで三日目。いい加減嫌になる。
「それはきっと訳があって…… 」
「訳ね。まあいいや。そう言うことにしておくよ」
「待って! 」

「いいかアン? どのみちあと十日もしないで相手を決めることになる。
僕の機嫌を損ねない方がいいぞ」
自信過剰なのは王子だったから。本来なら張り倒したい気分。
でも確かに彼の言う通り相手は限られる。
「分かってる。でも返事はあと三日。いえ二日待って。
明後日には必ず答えを出すから」

「それは僕とでいいんだな? 」
「まだ…… 」
「勝手にしろ! 」
男は怒って出て行ってしまった。
本当に困った人。これが元王子だから始末が悪い。
誰か彼を受け入れてくれる心優しい人はいないのでしょうか?

                続く
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