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仮病

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翌日。
朝からのんびり読書。
だってやることがないんですもの。
「紅茶が入りました」
飴色のどろっとした舌触り。
甘い。これははちみつ。
うんこれじゃない。
メイドに言っても分かってくれないだろうな。
もっとこう目がすうっとするお酒のように刺激のあるもの。
もう紅茶は飽きました。男の人が呑むような強いものがよろしくてよ。
ただいくら伝えても出てくるのはハーブティ―くらいなもの。
まあ朝からお酒は出せませんものね。

「ヴィーナはどうしました? 昨日から呼ぶように言っていたはずですが」
少しだけきつく言う。私は別に怒っていません。
ただ甘やかすとつけあがって尊敬もされなくなる。
ヴィーナにせよメイドたちにせよ。
最近ボノが甘やかすからどんどん生意気になっていくし。
これは取り組む姿勢にも表れる。喋り方からも滲み出てしまう。
いくら取り繕っても本性は隠せないもの。
こうなると近くには置いておけない。
ボノ付か雑用係にでも回す。

「申し訳ありません。ヴィーナ様はお体が優れないとのことで無理はさせるなと旦那様がおっしゃるものですからはい…… 」
それでのこのこ引き下がったと。まあ立派なメイドだこと。
「では様子を見に行きましょう」
部屋を出ようとすると全力で止めに入る。
「何事ですか? 」
「それが今日は誰とも会いたくないから中に入れるなときつくおっしゃっていましたのではい…… 」
「あらあらヴィーナったら本当にお仕置きしないといけませんね」

昔とちっとも変わらない。
ヴィーナはずる賢いものだからメイドを利用して私を避けていた。
すぐ自分の部屋に戻るとのらりくらりとかわしまた不機嫌に戻る。
これを幼いころから繰り返していた。
私は分かってるんです。ヴィーナが一度たりとも寝込んでなどいないと。
当時だって仲のいいメイドたちと談笑してたじゃない。
談笑が悪いんじゃない。仮病を使って自分の都合の良いようにしようとするのが気にくわないんです。
それなのに注意すると余計に不機嫌になって顔を合わせようともしない。
本当に一体何なの? 我がままに育ってしまった。そう思います。
やはり私がしっかり育てればよかった。
でも私には…… 無理……

「早くヴィーナを連れてきなさい」
「ですがご主人様…… 」
「これは命令です。早くしなさい」
「しかしご主人様。ヴィーナ様が…… 」
またやってしまった。ついイライラすると他の者にあたる癖がある。
この子だって辛いのでしょう。二人の板挟みではかわいそう。

「いいわ。ヴィーナは放っておきましょう。その代わりセピユロスさんを呼んできなさい」
巻き込まれた哀れなセピユロスさん。ヴィーナの代わり頑張ってね。
「それが…… 朝一番に出かけられました」
呑気なこと。ヴィーナがヴィーナならセピユロスもセピユロスだ。
「ヴィーナが体調を崩してるのにですか? 」
まさか心配ではない? それでは何の為にここに? まさか観光?
「はい。釣りに出かけております」
早朝から釣りとは呆れ果てて物も言えない。
ボートかしらそれとも渓流釣りかしら。
ただ休暇を楽しんでるとしか思えない。
私を舐めてるの?
本当にお仕置きしてあげましょうか。

「いいからセピユロスさんを呼んできなさい」
「無理です。連絡が取れません」
私が直々に連れ戻してはいい笑いもの。
ここはじっと我慢よ。
「ひい、そのお顔…… 」
あらどうしたのかしら怯えちゃって。食べたりしませんよ。
「済みませんご主人様」
「謝らなくていいわ。とにかくセピユロスさんをここに呼ぶように。
戻ったら伝えてください」

どうにか堪える。本当だったらヴィーナのくだりで激高していたでしょう。
しかしそれでは恐怖で支配してるに過ぎない。
いくらご主人様と呼ばれていようと力や恐怖で抑えつけてはならない。
それが私のポリシー。

                    続く
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