ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

文字の大きさ
60 / 122

第三の現場

しおりを挟む
「本当に黒木さん居ませんね。どうしたんでしょう? 」
詐欺グループの一員とは言えガイドさんにとっては客の一人。
そんなに心配することないのに。あんな奴放っておけばいいさ。
世話を焼き過ぎ。そんなんだから第一発見者にされてしまうんだ。
おっと…… つい感情的になってしまう。冷静に冷静に。
だが四度も第一発見者になるのはどう考えても異常。わざと?
真犯人によって仕立て上げられた可能性もある。

「ねえ探偵さん? 」
彼女はすっかり私に頼り切っており話を聞こうと瞳を輝かす。
ああその大きな瞳に吸い込まれそうで怖い。
「あれほど部屋で待機してろと言ったのにまったく黒木の奴め!
抜け出したとなるとますます怪しい」
「まさか黒木さんが犯人? 」
驚いた表情を見せるガイドさん。今のところ黒木が第一容疑者だろう。
何と言っても密室だと思われた現場に隠し扉が用意されていたのだから。
これでありとあらゆる前提が崩れた。ただ黒木が真犯人ならすべて辻褄があう。

「あのもう一度聞きますがこの隠し扉の存在を知らなかったんですよね? 」
「はい。私も田中さんも気づく暇などありません」
「そうですか。分かりました」
黒木がいない時に隠し扉を発見。
仮に彼が真犯人だとしてもこちらの動きを悟られることはないだろう。
取り敢えず秘密の抜け穴から元の世界に戻る。
小さな冒険から戻って来た我々は静かに部屋を後にする。

続いて第三の現場へ。
三〇六号室。雑見の部屋。
ドンドン
ドンドン
やはり簡単には開かないか。
「何してるんですか探偵さん? 」
「念のための確認です。鍵が掛ってるか? 強引に開けられないか? 」
ここも前の二件同様に鍵がかけられており出入りが出来ないようになっている。

遺体もそのまま。今回は覆いを剥いで遺体を確認する必要がある。
ミサさんの時とは状況が異なりどうしても剥ぐ必要がある。
それにはダイイングメッセージの存在が大きい。
『ドスグロ山』で力尽きたようだが雑見は我々に何と残したかったのか?
さすがに『ドスグロ山』では意味不明。
解明が待たれるが私も相棒もその手のことに明るくない。

立ち入り禁止。
勝手に入られては困るから。警察が来るまでは立ち入り禁止に。
鍵も犯行当時のままで机の上に置いてある。
仕方なく彼女にマスターキーで開けてもらう。
ロック解除。
「お邪魔します」
さあ中はどうなってるのか?
夏ではないので悪臭が漂うほどでもなく鼻にハンカチを当てればどうにかなる。
うん? 鼻がおかしくなったかな。ちっとも臭いを感じない。
「すみませんちょっと…… 」
ガイドさんはやはりダメらしい。
とは言えこの臭いは強烈で消臭スプレーでもどうすることも出来ない。
ただ今のところ自分は臭いを感じられないが。

遺体の確認。
絶命した鑑定士が恨めしそうに睨んでいる。
これでは成仏できそうにない。
「きゃああ! 」
ガイドさんが大声を上げて後退りをしようとする。
「大丈夫。生きてはいないさ」
「何か睨んでるみたいな気がして…… 」
やはり彼女には荷が重すぎたか。
四度も第一発見者になったから現場慣れしたと勝手にそう考えていた。
だがそれは思い込みに過ぎなかったのかもしれない。
いくらお客様のお世話をするとは言えこの非常事態。思っても見なかったこと。
ここはもう相棒と交代した方が賢明だろう。

「大丈夫? 無理しないで。今相棒と…… 」
「心配ありません。続けましょう」
気丈に振る舞う彼女に好感が持てる。
「よしだったらまず隠し扉の類があるか調べよう」
三号室と同様動物の絵がある。これは川を泳ぐ鴨?
絵の周りを探ってみると案の定取っ手が。
だが今回は三号室のように開くことはなかった。

「おかしいな。どうやら鍵が掛ってるみたい」
「ちょっと待ってください。それではやはりここは密室だと? 」
「いやそうとは限らない。その鍵を貸してくれないか」
「これですか? 」
机の上にある鍵を取ってもらう。

鴨の絵で隠れた取っ手の下を探り鍵穴に差し込む。
ロックを解除。取っ手の部分を押して隣の部屋へ。
どうやらロックされていた。
ここはもうこれくらいでいいだろう。
六号室を後にする。

続いて第四の被害者の千田の部屋へ。


                  続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...