ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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人影

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先頭は出来ればガイドさんにお願いしたかったがどうも嫌がってる模様。
仕方なく残りの三人でじゃんけん。
その結果龍牙が先頭に。
私としても後ろで皆の様子を見守るつもりだったから助かる。
私が先頭だと後ろが神隠しのように消えてしまっても気付かない。
それこそマジシャンのイリュージョンのように。
その彼は今のところ動きを見せずにただ従っている。

龍牙が先頭を引っ張ること五分。
その間も震えが止まらず怯え続ける哀れな男。
果たしてこの震えは演技かそれとも……
「もう限界です! 」
薄暗い森に差し掛かったところで弱音を吐く。
やはり彼の震えは本物だったようだ。最初からそんな気もしたが。
龍牙は伝説を信じる性質で今回のドスグロ山の雷人伝説にも敏感に反応。
確かに薄気味の悪い場所で伝説の化け物が現れても何ら不思議はない。

ここは一本道を少し外れ、草叢を抜けたところにある森。
立ち入り禁止の神聖な場所の可能性も。
「まずいですよ。これ以上は呪われる」
「交代しましょう」
震えて使いものにならない龍牙の代わりに山田さんが先頭へ。

雨が弱まり捜索は幾分楽になった。
今が絶好のチャンス。
「見てください。あそこに小屋みたいなものが」
山田さんが怪しげな小屋を探り当てる。
「まずいですよ…… 」
龍牙は引き返そうと懇願する。
「まあまあ。我々は黒木さんを探しに来たんですから」
「そうですね探偵さんの言う通り。では行きましょうか」
山田さんを先頭にゆっくり小屋に近づいて行く。

「うわああ! 」
もう限界の龍牙が叫びながらガイドさんにしがみつく。
「きゃああ! 」
ガイドさんも連鎖するように悲鳴を上げ逃げ惑う。
まったく何をやってるんだ?
龍牙の奴わざとやってないか?
龍牙にしろガイドさんにしろ大声を出せば気付かれると言うのに。

「いい加減にしてください龍牙さん! 」
ガイドさんが呆れる。龍牙は申し訳なさそうに頭を掻く。
これは失敗だったか。龍牙を連れて行くべきではなかった。
足手まといにしかならない。人選を誤ったか?
私も明後日探偵なので人のことは言えないがそれにしても何とかならないものか?

近づいてみるが中の様子までは見通せない。
なぜここにこのような小屋があるのか謎。
「あのこの建物は? 」
「はい。ここはオーナーの隠れ家です。資料にありましたから」
オーナーから渡された資料の一つにこの建物があったと主張するガイドさん。

「オーナーと会ったことは? 」
「一度だけです。ただマスクの上、先輩がほとんど対応したので詳しくは…… 」
この事件がホテルのオーナー。即ちオーナーが化けた人物の犯行なら楽なのだが。
オーナーの正体を知る彼女から情報を得られるかもと思ったがそれは甘かった。
それにここに来てオーナーの正体を見破ってももう遅い気も。
真犯人はそんな間抜けではない。

「ちょっと待ってください。オーナーが犯人なら鍵も自由自在。
密室も簡単に作れてしまうのではありませんか? 」
山田さんが鋭く突っ込む。
「確かに…… 」
マジシャンも同じ意見のようだ。
ただ彼ならオーナー以上に自由自在ではないかと思う。
何と言ってもその道のプロなのだから。
マジシャンへの疑惑の目が向く。
「お静かに。さあ行きますよ! 」
無駄話を終えなぜか再び龍牙が先頭に。
怯えていた彼が隊を引っ張るおかしな展開。

鍵はかかっておらずと言うか南京錠が壊された痕がある。
「お邪魔します」
一応は断る。
非常時とは言え住居不法侵入罪に当たる。まあ断っても無駄ではあるが。
電気は点かない。懐中電灯で中を照らすことに。
「誰かいますか? 」
ライトを点滅させ炙り出す。
「待ってください! あそこに人影が」
冷静な山田さんが一歩前に出る。
龍牙は一歩後退。

「探偵さんお願い」
ガイドが後ろに引っ付いて離れようとしない。
「大丈夫ですってたぶん…… 」
ライトを人影に向ける。
「あの黒木さん。迎えに来ましたよ」
「何だお前らか。驚かせるなよ」
黒木は何事もなかったように振る舞う。
強烈な違和感を覚える。
これは一体何がしたかったのだろう?
ただ闇雲に逃げ回って自分を危険にさらしている。
とても状況判断が出来ているとは思えない。
それだけに心配だ。

何も彼だけではない。黒木の行動によって危険にさらされているのは参加者全員だ。
さすがに黒木の行動を予測する者はいない。
それは裏を返せば犯人も意表を突かれたことになる。
まあとは言えここは真犯人にとってホーム。
予想外な行動を取ろうが逃げ切るのは不可能だと踏んで放置したか?
もちろんこれは彼が真犯人では無かった場合の話だが。

不機嫌なままの黒木を連れてホテルに帰還。

                続く
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