ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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襲撃

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三〇四号室。
黒木の部屋。
歯ぎしりと寝言が収まったと思ったら今度は豪快なイビキ。
耳を塞ぎたくなるほどのイビキが部屋全体に響き渡る。
電気も点けっぱなしで襲撃者にとっては最悪の環境と言えなくもない。
出来るならもう少しマシだと助かるんだが。
もはや奴を気遣う精神的余裕はない。

ハアハア
ハアハア
よし大丈夫。気付かれてないな? ここからが大変なんだから。
出来たら誰か手伝って欲しいが…… 無理な注文か。
黒木に向かってライトを照らす。
眩しそうにし寝言を言うだけ。
熟睡してる。起きる気配はまったくない。

うわああ!
辺りに散乱するゴミに足を取られ転びそうになる。
汚いなまったく。ここはお前の家じゃないんだぞ。
「おい起きろ! 起きろってんだ! 」
イビキを掻き無警戒な黒木の頬を叩く。
「ああん? モゴモゴ…… 」
「何を寝ぼけてやがる? 早く起きないか! 」
本当に世話の焼けるターゲットだぜ。
今すぐにでも壺を振り下ろしたい衝動を抑え観察。

「ううん…… 誰だこの! 」
ついにお目覚めのようだ。
まったく馬鹿な野郎だ。
こんな鍵あってないようなものを。信じてまあ。
仲間たちがその油断で殺されたと言うのに本当に成長しない奴だな。
さあ最後の仕上げと行きましょうか。

完全に目を覚ましたところで躊躇なく襲い掛る。
「うぐぐぐ…… 何をしやがる! やめろ…… 」
「ほら大人しくしましょうね。暴れると危険だよ」
口元を抑える。ここで大声を出されると困るのよ。
うん順調。ここまでは計画通りだ。
本来だったら起こさずに実行することも出来た。
しかしそれでは面白くないしスリルもない。
黒木だって恐怖を感じなくては反省することもないだろう。

「まったくこっちの身にもなれよ。好きでやってるんじゃないんだから」
モグモグ言いながら頻りに首を振る黒木。
「分かってるって。お前が悪人なのは調べがついてるんだよ。
何の罪もない奴を騙して地獄を見せたろ? ひき殺しさえしたな?
ケチな詐欺して恨まれて殺されるならそれは自業自得。文句は言えないだろ? 」
なおも首を振り続ける黒木。

「でもなここには置いておけない。何と言っても演じてもらう必要があるからな。
ほら踊れ! 指示通りに動くんだ!
まったくどれだけ愚かしい真似をしたか心から反省しろ!
そうすれば助けてくれるかもしれないぞ。こっちだって鬼じゃない。
さすがに壺を自分に振り下ろせないだろ?
ここは一旦隣に行ってもらう。そして遺書を残して失踪してもらう。
フィナーレはこのホテルごと吹っ飛んでもらうつもりだ。
良いショーが見られるだろう」

うぐぐ……
「どうした痛いか? 」
おお、頷いたか? どうやら痛いらしい。
「そうか。でもな被害者はもっと痛かったはずだ。苦しかったはずだ。違うか? 」
首を大きく振ることしかできない。

黒木を連れて秘密の抜け穴から隣の三号室へ。
第二の犠牲者、ミサの部屋へ。
口を塞がれ動きを封じられた黒木は後ろから押される形で無理矢理。
「ご到着と。ああそうだ。この後どうしたい? 」
ううう…… 
「失踪すると言っても動き回られては困るんだよ。分かるだろ? 」
何度も首を上下させ頷く。
「そう大人しくな。いい子にしてたら監視はしない」

謎の誘拐魔はなぜか出て行ってしまった。
一人きりの男は九死に一生を得る。
だがこのままではいずれ殺害されるのは目に見えてる。
どうにかここから脱出する必要がある。
でもどうやってこの拘束状況から? 抜け出せそうにない。

ぎぎぎ……
すぐ近くに無線が転がっていた。
「ああ元気してる? 君に死なれると困るんでね。大人しく出来る? 」
うぐぐ……
「駄目だって暴れちゃ! 今すぐお仕置きすることになるよ? 」
音を立てない。
すぐに迎えに行くと言うとウーウー文句を言うから困る。
「大人しくしてる? 」
決してうんとは言わない。言えないのだ。
「迎えに行こうか? 」
やはりウーウー言うだけ。
「まあいいや。大人しくしていてね」

ドスグロ山ホテル。
深夜三時過ぎ。
三階の例の部屋から煌々と光が漏れる。
まだ四時前だと言うのに随分早起き。
陽だってまだ昇ってない。
真っ暗闇。それだけに部屋から漏れる光は目立つ。
両サイドは真っ暗。
真ん中辺りから光が漏れる。
どうやらまだ眠れないらしい。
若者でもないのに夜更かししては体に悪い。
少しは健康を気にしろって。
どうせ今日までだからどっちでもいいだろうが。


                続く
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