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自己紹介

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三日目(残り十三日〉

<おはようございます。島に不審者が出没した模様。

島民の皆さんはご注意願います。今日の予定は特にありません。

昨日の大雨のにより二次被害の恐れもありますので気をつけて行動してください>

以上 広報部。


山の上に立つ洋館は静寂に包まれている。

音がしない。人の気配がしない。空気の振動も僅か。

もちろん人が少ないのも確かだが人々の騒ぐ声が聞こえないのだ。

大声を出したり叫んだりするものは皆無。

聞こえてもささやき程度。それでは外に漏れてはこない。

物静かで上品な者の集まり。

ごきげんようがぴったりの雰囲気。

良く言えばそうだが覇気がない。

冷ややかな空気が支配しており精気を感じられない。


建物内では五人の少女と年かさの童顔の女性が朝の挨拶を始める。

「おはようございます」

毎朝繰り返す日常の風景で飽きが来るほど。

しかし今朝は違った。特別だった。

ドアが開くと見知らぬ青年が姿を見せる。

年は十代後半か見た目よりも幼く見えるし経験豊富な大人にも見える。

スポーツで鍛えたのか筋肉と生々しい傷跡が見え隠れする。

ただその割には細っそりした背の高い可愛らしい顔立ちの男。

島民ではないことが一発で分かる特徴的なルックス。

少女たちを釘付けにする。


白シャツと緑の半ズボンの格好でそこからはみ出る筋肉がまた惹きつける。

もちろん彼が魅力的な男なのは間違いない。

だがどうだ。これがもっと頼りなくても情けなそうなタイプでも関心を持つだろう。

逆にもっと男らしい威圧的な男でもいい。若くないおじさんでさえ。

いっそのこと女の子でも興味を抱いただろう。

それだけ五人の少女たちはいつもの生活に飽き刺激を求めている。

ただ上品に振る舞うことで何とか理性を保っている。抑えている。

今起きている刺激や変化が今後どうなっていくのか。

「ええ、この方は事情がありまして実は…… 」


男と女は一時間ほど前に事前に話し合っていた。

「あの、何か御用でしょうか? 」

「初めまして。実は祭りに参加したいのですが」

祭りとは約二週間後に行われる島のお祭りのこと。

その日ばかりは多くの観光客で賑わうビッグイベント。

村にとっても収入源の一つ。商売に関わる者は書き入れ時で大忙し。

島の雰囲気もガラッと変わる。


「陽祭りですね? 私たちも今月から準備と練習に大忙しなんですよ。

どうぞお楽しみください。今パンフレットを…… 」

「いえそちらではなく…… もう一つの方の月祭りに観客ではなく演者として」

固まる女。何か不都合でもあるのか? 

「あの…… 何をおっしゃっているんですか? まったく要領を得ないんですが」

さすがは余裕のある大人の女性。誤魔化すのが上手い。

俺がただの観光客ならそれで引き下がるさ。だが俺はそんなに甘くない。

全て知っている。ある人から聞いたのだからな。


「そちらで行われる月祭りに是非とも参加させていただけませんか」

女は反応しない。できないのだ。

「とぼけるんですね」

「そんなこと…… 」

もうすでにボロを出している。あると認めたようなもの。

ただの妄想であるならば笑い飛ばせばいいのだからな。

「神に誓えますか? 」

彼女はシスターではないが嘘を吐くのが苦手と見た。

「分かりました。仮にそうだとしても部外者を参加させるわけにはいきません。どうぞお引き取り下さい」

やはり大人の対応を見せる女。ここは一旦引き下がるのが賢明か。

「分かりましたか? ではお帰り下さい」

女は有無を言わせない。


「あの…… 」

仕方なくここを紹介してくれた副村長の名前を出す。

「本気なんですか? 」

「もちろん」

真っ直ぐな目でこちらを見つめる。

ここで怯んで目を逸らしては信用を失う。

せっかくここまで来たと言うのにこの程度のこと切り抜けられない俺ではない。

じっと見つめ返す。相手が伏せるまでやってやる。

「どうやら相当な覚悟のようですね。分かりましたどうぞお手伝い下さい」

ようやく理解してくれたようだ。

これで第一関門突破。


「この月祭りに参加すると言うことが何を意味するか副村長からお聞きになったと思いますがもう後戻りはできませんよ。いいんですね? 」

「充分理解してるつもりです。よろしく」

「そうですか…… では参りましょうか」

言われるまま後に続く。

「懐かしいわ。私も昔あなたぐらいの頃に先生の指示で学園を案内したっけ」

過去の思い出に浸る少女のような瞳のメイドだか先生だか学園長だか。


自己紹介。

「この方は大河さんとおっしゃって二日前にやって来たそうです。

何と月祭りに興味があるそうです。祭りまでの間協力していきましょうね」

「はい」

文句を言う者も不満を漏らす者もいない。拍手で出迎えられる。

何かおかしいがこの際多少のことは気にしない。


                 続く
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