ファイブダラーズ～もう一つの楽園 囚われの少女と伝説の秘宝 夏への招待状シリーズ①

裏切りの予感

夜か……　何の違和感もない。ただ飯を喰って風呂に入って寝るだけだ。

最近は緊張や慣れない場所と言うこともあってか眠りが浅い。

一定の時間になると目が覚めてしまう。

昨日と同じように食堂で皆と晩飯を喰う。

風呂に入り汗を流し疲れを取る。大きな風呂を一人で貸し切り状態。

ラッキーなことに男は俺一人のためゆっくり浸かることが出来る。

ここに来てからは読書することもなく早寝を心がけている。

やはり眠りは浅く深夜に何度か目が覚めてしまう。

緊張だとは思うが体には良くない。寝不足になりかねない。

島に来てからずっとそうだ。

体のどこかが悪いのかもしれない。


夜更け。

いつものように目が覚める。

何かおかしい。

いつもこの時間。

まるで何か得体の知れない者に導かれるように。

起こされた？

音が聞こえる。人の声がする。

これは幻聴？

どこからともなく音が流れ込んでくる。

間違いない外からだ。

少女たちの抑えた歌声が。意味不明の祝詞が、ただの叫びが入ってくる。

五分？　十分？

ようやく不気味な音が消え辺りに静寂が戻った。

気のせいかもしれない。疲れているし幻聴に違いない。

そんな風に勝手に自分を納得させて横になる。


十分経っても眠れず汗を掻く。

眠気が取れ目が冴える。

睡眠薬代わりにポケットから取り出した小瓶のふたを開け一口摘まんで飲み込む。

そうすると自然と意識を失い次の瞬間には朝に。

最近はずっとこのパターン。効き目も薄れているし良くないことも分かっている。

だがこの際仕方がない。

おやすみなさい。

意識を失い深い眠りにつく。


朝方、まだ陽が上り切らない時間帯。グリーズ島の右手にあるマウントシー付近。

無線をやり取りする者がいた。

「まだか！　まだ手掛かりは見つからないのか！　」

「もう少々お待ちください。全力で取り組んでおり目下捜索中」

「しっかりしろ！　俺が代わりをするわけにはいかないんだ。頼んだぞ。

前にも言った通りどんな手を使ってでも構わない。早くしろ！　」

「分かりました」

「いいか情に流されるな。冷静に冷静に。

ふふふ……　と言っても感情は無いんだったなお前らは。ははは……　」

「了解しました」

「それでは俺は隠れ家に一旦戻る。定期連絡は忘れるな！　」

マウントシー洋館から漏れる光はおぼろげ。

その光を包み込むように太陽が東の空から昇る。

そうすると光もいつの間にか気にならなくなってしまう。


＜間奏＞

「お嬢様お待ちください」

目の前の少女は困惑気味に見つめる。

「お嬢様は止めてよ」

恥ずかしそうに下を向く。

「では何とお呼びすればよろしいでしょうか？　」

「もう、堅苦しいのは止めて。二人の時は普通に呼んでくれて構わないのよ」

「それではカナ」

「もう一度お願い」

「カナ。カナ……　」

お嬢様と使用人の倅と言う二人の関係は……　こうして対等になった。

まだ愛も恋も知らない幼き二人。

彼女の方が一つも二つも上である。

　　　　　　　　　　　　　　　　　続く

登場人物紹介②

　大河　この物語の主人公。ある目的を持って島へ、マウントシーへ。
　　　　過去に一度島に来たことがある。
　　　
　カナ　ある大金持ちのお嬢様。
　　　　大河たちとどう関わっているのか不明。
　　　　カナが本名かも定かではない。
　　　
副村長　反対派との対立激化。原因はマウントシーにあり。
　　　　副村長のリーダーシップが災いして新たな火種に。
　　　　島の歴史に精通。普段は温厚だが頑固で熱しやすい。
　　　　大河にこの島の英雄を重ねる。

管理人　村長派。少女たちを陰から見守っている。
　　　　男はシードクターとして。
　　　　女はコックとして腕を振るう。
　　　　ミス・マームとの連携も取れている。
　
少女Ａ　山小屋で匿われている謎多き少女。
　　　　彼女が目を覚ました時マウントシーに激震が走る。
　　　　最後のピース。

マーム　外ではミス・マームあるいはミセス・グリーズ。
　　　　内ではハッピー先生。
　　　　『皆に幸あれ』が口癖。昔はもっと物騒な口癖だったとか。　　
　　　　優しくて頼りがいのある大人の女性。年齢不詳。
　　　　見た目は若そうだが実際は……
　　　　この島を開拓した英雄の一人とも言われている。
　　　　常にエプロン姿。時々伊達メガネ。
　　　　服装は地味。
　　　　何か意味深なつぶやき。過去を引きずっている？
　　　　楽園の使者。