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姫さま、彼の初めてを奪いました
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今日の昼食は、おひつの中に、鯛めしの白ご飯タケノコ入りと、ヤマメの塩焼き、しじみのお味噌汁、山菜のおひたしと、なかなか豪華だ。
「ねぇ、ばあや……何かいいことでもあった?」
最近は眉間にシワを寄せ、ため息をつくことが多かったのに。今は目に見えるほど機嫌がいい。
「分かりますか?ヒナギク様にようやく春が訪れたようで。ばあやは嬉しゅうございます」
「春?」
確かに、季節は春だけど。ヒナギクは首をかしげる。
「ヒスイ、私は応援していますよ。あなたは私の推しですから」
ばあやが扇子を広げてあおぐ。その扇子には、彼らしき絵とハートが描かれていた。
「うざい舅なんかに、負けてはなりませんよ」
ヒナギクの隣で、昼食をとっていた彼は、綺麗な所作で箸を置く。
「ばば様、ありがとうございます。これからも精進します」
「期待していますね」
気難しいばあやを、ここまで懐柔するなんて。
イケメン、恐るべし。
「あの……うざい舅って、もしかして俺のこと?」
向かいで、鯛めしを豪快にかっ込んでいたコウヤが、おそるおそる訪ねる。
「他に誰がいるというのです?幼い恋人たちを何年も引き離すなど、鬼の所業ではありませんか」
ばあやが、コウヤに蔑んだ目を向ける。
「ちょっとヒスイ、ばば様にどう説明したの?何か、変な誤解されちゃってるんだけど!!」
「別に。事実しか伝えていませんが」
彼は平然と答える。
「どこが事実だよ!お前がヒナギクの初めてを奪っちゃうからだろ!」
話が長くなりそうだったので、大福に手を伸ばすが、父の問題発言に、大福が手からこぼれ落ちた。
「まあ!いつの間にっ」
ばあやの声が、弾んでいる。
額から汗が止まらない。
「違いますよ。正確には、初めてを奪われたのは俺です。そこは履き違えないでください」
先ほどより、さらに聞き捨てならない彼の発言に、黙っていられなかった。
「ちょっと待って!?さすがに痴女疑惑は、乙女心が大ダメージです!早急に説明を求めます!!」
ヒナギクは、手をあげて叫ぶ。若干、涙目だ。
「私も知りたいわ。ぜひ、教えてちょうだい」
ばあやが瞳を輝かせ、筆と紙を両手に持って構えている。
もういいから、介入しないでほしい。
彼がヒナギクの手を取り、熱く見つめてきた。
「俺はーー十年前、あんたに命を救われた」
「いやいや、命を救ったのは俺だろ?ヒナギクはどちらかと言えば、お前に止めをさそうとしていたじゃん」
コウヤがすかさず訂正する。
「ひっ、と、トドメって何!?」
怯える娘を不憫に思ったのか、コウヤが詳しく説明してくれた。
彼は十年前、ギスタニア帝国に滅ぼされた、カナン国の最後の生き残り。
第二王子で、本名はカナン・ロイド。
カナン国は、海が鮮やかに美しく、鉱山で採れる天の宝石が有名で、資源も豊富だった。
そこをギスタニア帝国に、目をつけられたらしい。
実際、カナン国を滅ぼしたのは、一人の魔術師だったとかーー
父はカナン国王と親友だったらしく、サキチを連れて、カナン国に侵入したときには、もはや手遅れで、城壁の下敷きになっていた彼を連れて逃げるのが、精一杯だったこと。
さらには、怪我で苦しんでいる彼の口に、ヒナギクが大福を詰め込んで、圧死させるところだったらしい。
ヒナギクはよほど焦ったのか、彼の背中を泣きながら叩き、水を口移しで飲ませたーーと。
コウヤが、悔しそうに語ってくれた。
娘の初めてを奪われたと大騒ぎし、怪我が完治した彼に、娘に近づくなと命令したらしい。
「いくら親友の息子でも、娘に手を出す奴は許さん!」
腕を組んで、憤慨する父。
「まあ、もう少しロマンスを期待していましたが、ヒナギク様ですものね。そんなものでしょう」
ばあやがスンと正気に戻る。何気にひどい。
本当に幼い頃の私、何しちゃっているの。
下手したら、五歳にして殺人者よ。
「……何故、覚えていなかったのかしら?」
いくら頭を捻っても、彼とのなれそめを思い出せない。
いや、酷すぎて、逆に記憶を抹消してしまったとか?
「あの時は、コチョウが死んでそれどころじゃなかったんだろ」
コウヤが乱暴に髪を乱し、苦笑する。漆黒の瞳は、どこか物悲しい。
そうか、母さまが死んだ年ーー
今まで納得できなかった心が、父の言葉を聞いて、とうとつに理解した。
母さまの墓前で、泣くまいと、口一杯に大福を詰め込んだ。
この、桜華国を守ろうと決意した大切な記憶。
「ヒスイさん、思い出せなくてごめんなさい。いくらでも償いをするから、どうか許して!」
誠心誠意を込めて、頭を下げた。
母さまのことがあったとはいえ、彼に対して失礼すぎる。
「なら、これからもそばにいていいか?」
「ええ、もちろん!ヒスイさんが望むなら、いつまでもそばにいて」
言葉には責任が伴う。
この時は、言葉の意味の深さも、重みも、全く理解していなかったーー
次はヒスイの過去編の予定です。残虐シーンもあるので、苦手な方は読み飛ばしてくださいね(´・ω・`)
「ねぇ、ばあや……何かいいことでもあった?」
最近は眉間にシワを寄せ、ため息をつくことが多かったのに。今は目に見えるほど機嫌がいい。
「分かりますか?ヒナギク様にようやく春が訪れたようで。ばあやは嬉しゅうございます」
「春?」
確かに、季節は春だけど。ヒナギクは首をかしげる。
「ヒスイ、私は応援していますよ。あなたは私の推しですから」
ばあやが扇子を広げてあおぐ。その扇子には、彼らしき絵とハートが描かれていた。
「うざい舅なんかに、負けてはなりませんよ」
ヒナギクの隣で、昼食をとっていた彼は、綺麗な所作で箸を置く。
「ばば様、ありがとうございます。これからも精進します」
「期待していますね」
気難しいばあやを、ここまで懐柔するなんて。
イケメン、恐るべし。
「あの……うざい舅って、もしかして俺のこと?」
向かいで、鯛めしを豪快にかっ込んでいたコウヤが、おそるおそる訪ねる。
「他に誰がいるというのです?幼い恋人たちを何年も引き離すなど、鬼の所業ではありませんか」
ばあやが、コウヤに蔑んだ目を向ける。
「ちょっとヒスイ、ばば様にどう説明したの?何か、変な誤解されちゃってるんだけど!!」
「別に。事実しか伝えていませんが」
彼は平然と答える。
「どこが事実だよ!お前がヒナギクの初めてを奪っちゃうからだろ!」
話が長くなりそうだったので、大福に手を伸ばすが、父の問題発言に、大福が手からこぼれ落ちた。
「まあ!いつの間にっ」
ばあやの声が、弾んでいる。
額から汗が止まらない。
「違いますよ。正確には、初めてを奪われたのは俺です。そこは履き違えないでください」
先ほどより、さらに聞き捨てならない彼の発言に、黙っていられなかった。
「ちょっと待って!?さすがに痴女疑惑は、乙女心が大ダメージです!早急に説明を求めます!!」
ヒナギクは、手をあげて叫ぶ。若干、涙目だ。
「私も知りたいわ。ぜひ、教えてちょうだい」
ばあやが瞳を輝かせ、筆と紙を両手に持って構えている。
もういいから、介入しないでほしい。
彼がヒナギクの手を取り、熱く見つめてきた。
「俺はーー十年前、あんたに命を救われた」
「いやいや、命を救ったのは俺だろ?ヒナギクはどちらかと言えば、お前に止めをさそうとしていたじゃん」
コウヤがすかさず訂正する。
「ひっ、と、トドメって何!?」
怯える娘を不憫に思ったのか、コウヤが詳しく説明してくれた。
彼は十年前、ギスタニア帝国に滅ぼされた、カナン国の最後の生き残り。
第二王子で、本名はカナン・ロイド。
カナン国は、海が鮮やかに美しく、鉱山で採れる天の宝石が有名で、資源も豊富だった。
そこをギスタニア帝国に、目をつけられたらしい。
実際、カナン国を滅ぼしたのは、一人の魔術師だったとかーー
父はカナン国王と親友だったらしく、サキチを連れて、カナン国に侵入したときには、もはや手遅れで、城壁の下敷きになっていた彼を連れて逃げるのが、精一杯だったこと。
さらには、怪我で苦しんでいる彼の口に、ヒナギクが大福を詰め込んで、圧死させるところだったらしい。
ヒナギクはよほど焦ったのか、彼の背中を泣きながら叩き、水を口移しで飲ませたーーと。
コウヤが、悔しそうに語ってくれた。
娘の初めてを奪われたと大騒ぎし、怪我が完治した彼に、娘に近づくなと命令したらしい。
「いくら親友の息子でも、娘に手を出す奴は許さん!」
腕を組んで、憤慨する父。
「まあ、もう少しロマンスを期待していましたが、ヒナギク様ですものね。そんなものでしょう」
ばあやがスンと正気に戻る。何気にひどい。
本当に幼い頃の私、何しちゃっているの。
下手したら、五歳にして殺人者よ。
「……何故、覚えていなかったのかしら?」
いくら頭を捻っても、彼とのなれそめを思い出せない。
いや、酷すぎて、逆に記憶を抹消してしまったとか?
「あの時は、コチョウが死んでそれどころじゃなかったんだろ」
コウヤが乱暴に髪を乱し、苦笑する。漆黒の瞳は、どこか物悲しい。
そうか、母さまが死んだ年ーー
今まで納得できなかった心が、父の言葉を聞いて、とうとつに理解した。
母さまの墓前で、泣くまいと、口一杯に大福を詰め込んだ。
この、桜華国を守ろうと決意した大切な記憶。
「ヒスイさん、思い出せなくてごめんなさい。いくらでも償いをするから、どうか許して!」
誠心誠意を込めて、頭を下げた。
母さまのことがあったとはいえ、彼に対して失礼すぎる。
「なら、これからもそばにいていいか?」
「ええ、もちろん!ヒスイさんが望むなら、いつまでもそばにいて」
言葉には責任が伴う。
この時は、言葉の意味の深さも、重みも、全く理解していなかったーー
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