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地を這う龍騎士
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里の転移装置を使って飛んだ先は、またも森であった。
同じ森でも、ケルビムの里の森より明るい印象を受ける。木々の間隔が離れているから、光が差し込みやすいのかもしれない。
「へぇ、こんな近くに出られるのね。まあ、往路しかないのでしょうけど」
「わかるのか?」
話によれば、帝都の最寄の森に着けているらしいが、ロンフォールには見分けがつかない。
初めて使った転移装置の到着点では、転移岩が設置されていたが、ここにはそれがない__そうした違いは分かるだけだ。
「だって、ここ、庭みたいなものだもの。__二苑の森よ」
「ふたのその……?」
フィガロの言葉を聞いて小首をかしげるロンフォール。それを見かねたのかイェノンツィアは、小枝を手にロンフォールの足元へしゃがみ、下草のない場所へ円と扇を描く。__その迷いのなさ。
__見えてるようにしか、見えないんだがな……。
「これが、帝都の全景__上から見ていると思ってください。この円が、龍の山。そこから扇状に都が拓かれています」
ロンフォールはよく観察するために、膝に手を置いて上体を支えるように身を屈めた。
イェノンツィアは扇の部分に弧線を入れ、5つの層をつくる。
「都はこのように区分けされ、1層と2層は禁域ですね」
「禁域?」
「平たく言えば、一般人は立ち入り禁止の領域です。龍室__龍帝御一門の敷地ですので。それぞれ、一苑(ひとのその)、二苑(ふたのその)と呼ばれ、一苑に城などの国家の中枢があり、二苑が……まあ、庭みたいなものです」
「他の所に、帝都の人が住んでる?」
「厳密には、4層と5層に、ですね。3層には神殿がありますので。3層から順にそれぞれ、三苑、四苑、五苑」
扇の中央に、彼は一本線を引く。
「__扇の中央を南北に大通りが走っていて、城を背に右手を右京、左手を左京と呼びます」
「あたしたちは、二苑の左京にいるわ。__このあたり」
フィガロは、軽やかにしゃがむと同時に二苑の一角__右側を人差し指で示した。そして、その指差した手を口元に持っていき、顎に添える。
「……うまく隠せてる。必要な時しか使えないのね。古い時期のものだから、馴染んでいるのか、最初からこうだったのかはわからないけれど」
ロンフォールは首を傾げるが、それに彼女は肩をすくめるだけで、詳しく説明するつもりはない様子。
そのとき、木々の枝の上__上空を、大きな影が音もなく通り過ぎた。
ロンフォールは驚いて、反射的に見上げる。その瞬間、羽ばたく音が、影が走って去って行った方向から聞こえた。
「龍帝従騎士団の見回りね」
__あれが、龍……。
腹が黒、背は白。馬よりも大きい身体でも、重さを感じさせないその姿。
いつぞや本で見かけた生き物が、我が物顔で飛んでいる。
「帝都の見回りよ。__あれが見える? あの懸崖」
フィガロが指示したのは、木々の間から遠方に見える岩肌。それは山で、雲をいただくほど高くはない。山の形をした、大きな切り立った崖を持つ一枚岩のようにも見える。
山の膝元__目線よりやや高い位置に、城のようなものが見えるが、遠目にははっきりとはしない。ほかにもいくつかの建造物がある。__扇状のこの首都は、緩く傾斜しているのは確かのようだ。
「あれが、龍の山です」
言って、イェノンツィアは、再び図を示した。
帝都を示す扇のうち、二苑の際__親骨にあたる部分から、背後の山を囲うように、大きめの円になるよう弧を描く。
「このように、苑には含まれない森が広がっていて、通称、懸崖の森と呼ばれています。この森と、あの崖のような山が天然の城塞になっていますね」
岩の山は、帝都の背を守っているかのように、弧を描いている。改めて見てみれば、たしかに曲を描いているように見え、さらにその中腹に、出っ張っている部分を認められた。
「あの出っ張ってるところは?」
「あれは、露台。あそこから、龍騎士の龍は飛び立つのです。さっきの龍もそこから飛び立ったのでしょう」
すっく、と立ち上がって、フィガロは周囲を見渡す。
「イェノンツィア、そのぐらいでいいでしょう」
視線は遠くどこかを見つめたまま、フィガロは手を振って促した。
イェノンツィアはそれに従い立ち上がって、ロンフォールへ手を差し出し、掴んだ手を引いて立たせる。
そして、徐に彼は肩から下げていた鞄から、白い包みを取り出し、ロンフォールへと差し出す。
「これをお召しください」
「これは?」
受け取ったその包みは、軽そうに見えたのだが、持ってみるとたっぷりとした重みがある。
「司祭の神子に追従する際等の、旅装束です。頭から被るだけですので」
司祭は神官職のひとつで、神子の身の回りの世話を担う者。
なるほど、従者という立場に自分がなるわけだ。
イェノンツィアが、ロンフォールへと渡した持つ包みを再び手に取り、慣れた手つきで広げる。包まれているのだと思っていたが、広げてみるとそれ自体が法衣だった。
その法衣は2つの服から成っていた。徐にそれを彼は分けて、一方を肩へかけ、もう一方をロンフォールへ促すように差し出す。
彼にされるがまま、ロンフォールはその法衣を頭から被った。袖から手を出し、皺を直す為に撫でつけると、ケルビムの服よりしっとりとした肌触りだとわかる。
「あとはこの外套を」
厚手で、さらりとした手触りのそれ。金の刺繍が施されていた。
同じ森でも、ケルビムの里の森より明るい印象を受ける。木々の間隔が離れているから、光が差し込みやすいのかもしれない。
「へぇ、こんな近くに出られるのね。まあ、往路しかないのでしょうけど」
「わかるのか?」
話によれば、帝都の最寄の森に着けているらしいが、ロンフォールには見分けがつかない。
初めて使った転移装置の到着点では、転移岩が設置されていたが、ここにはそれがない__そうした違いは分かるだけだ。
「だって、ここ、庭みたいなものだもの。__二苑の森よ」
「ふたのその……?」
フィガロの言葉を聞いて小首をかしげるロンフォール。それを見かねたのかイェノンツィアは、小枝を手にロンフォールの足元へしゃがみ、下草のない場所へ円と扇を描く。__その迷いのなさ。
__見えてるようにしか、見えないんだがな……。
「これが、帝都の全景__上から見ていると思ってください。この円が、龍の山。そこから扇状に都が拓かれています」
ロンフォールはよく観察するために、膝に手を置いて上体を支えるように身を屈めた。
イェノンツィアは扇の部分に弧線を入れ、5つの層をつくる。
「都はこのように区分けされ、1層と2層は禁域ですね」
「禁域?」
「平たく言えば、一般人は立ち入り禁止の領域です。龍室__龍帝御一門の敷地ですので。それぞれ、一苑(ひとのその)、二苑(ふたのその)と呼ばれ、一苑に城などの国家の中枢があり、二苑が……まあ、庭みたいなものです」
「他の所に、帝都の人が住んでる?」
「厳密には、4層と5層に、ですね。3層には神殿がありますので。3層から順にそれぞれ、三苑、四苑、五苑」
扇の中央に、彼は一本線を引く。
「__扇の中央を南北に大通りが走っていて、城を背に右手を右京、左手を左京と呼びます」
「あたしたちは、二苑の左京にいるわ。__このあたり」
フィガロは、軽やかにしゃがむと同時に二苑の一角__右側を人差し指で示した。そして、その指差した手を口元に持っていき、顎に添える。
「……うまく隠せてる。必要な時しか使えないのね。古い時期のものだから、馴染んでいるのか、最初からこうだったのかはわからないけれど」
ロンフォールは首を傾げるが、それに彼女は肩をすくめるだけで、詳しく説明するつもりはない様子。
そのとき、木々の枝の上__上空を、大きな影が音もなく通り過ぎた。
ロンフォールは驚いて、反射的に見上げる。その瞬間、羽ばたく音が、影が走って去って行った方向から聞こえた。
「龍帝従騎士団の見回りね」
__あれが、龍……。
腹が黒、背は白。馬よりも大きい身体でも、重さを感じさせないその姿。
いつぞや本で見かけた生き物が、我が物顔で飛んでいる。
「帝都の見回りよ。__あれが見える? あの懸崖」
フィガロが指示したのは、木々の間から遠方に見える岩肌。それは山で、雲をいただくほど高くはない。山の形をした、大きな切り立った崖を持つ一枚岩のようにも見える。
山の膝元__目線よりやや高い位置に、城のようなものが見えるが、遠目にははっきりとはしない。ほかにもいくつかの建造物がある。__扇状のこの首都は、緩く傾斜しているのは確かのようだ。
「あれが、龍の山です」
言って、イェノンツィアは、再び図を示した。
帝都を示す扇のうち、二苑の際__親骨にあたる部分から、背後の山を囲うように、大きめの円になるよう弧を描く。
「このように、苑には含まれない森が広がっていて、通称、懸崖の森と呼ばれています。この森と、あの崖のような山が天然の城塞になっていますね」
岩の山は、帝都の背を守っているかのように、弧を描いている。改めて見てみれば、たしかに曲を描いているように見え、さらにその中腹に、出っ張っている部分を認められた。
「あの出っ張ってるところは?」
「あれは、露台。あそこから、龍騎士の龍は飛び立つのです。さっきの龍もそこから飛び立ったのでしょう」
すっく、と立ち上がって、フィガロは周囲を見渡す。
「イェノンツィア、そのぐらいでいいでしょう」
視線は遠くどこかを見つめたまま、フィガロは手を振って促した。
イェノンツィアはそれに従い立ち上がって、ロンフォールへ手を差し出し、掴んだ手を引いて立たせる。
そして、徐に彼は肩から下げていた鞄から、白い包みを取り出し、ロンフォールへと差し出す。
「これをお召しください」
「これは?」
受け取ったその包みは、軽そうに見えたのだが、持ってみるとたっぷりとした重みがある。
「司祭の神子に追従する際等の、旅装束です。頭から被るだけですので」
司祭は神官職のひとつで、神子の身の回りの世話を担う者。
なるほど、従者という立場に自分がなるわけだ。
イェノンツィアが、ロンフォールへと渡した持つ包みを再び手に取り、慣れた手つきで広げる。包まれているのだと思っていたが、広げてみるとそれ自体が法衣だった。
その法衣は2つの服から成っていた。徐にそれを彼は分けて、一方を肩へかけ、もう一方をロンフォールへ促すように差し出す。
彼にされるがまま、ロンフォールはその法衣を頭から被った。袖から手を出し、皺を直す為に撫でつけると、ケルビムの服よりしっとりとした肌触りだとわかる。
「あとはこの外套を」
厚手で、さらりとした手触りのそれ。金の刺繍が施されていた。
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