王弟転生

3333(トリささみ)

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「なーっははははは!!!」
「ちょっとアンタ、はしゃぎすぎだよ!」
「これがはしゃがずにいられるかってんだ!この世に二つとないめでたい日なんだぞ!」

 戴冠式のパレードの真っ最中。
 街の住人たちはお祭り騒ぎだ。

「……………」

 人混みから少し離れたベンチに腰掛けると、思わずため息が漏れた。

(マズイな……俺が意図的にシナリオを書き換えようとしてるのが、クコリにバレたかもしれねえ。本来なら男爵令嬢のひとり、大したことねえが…今のアイツのバックには新国王がいる。何か吹き込まれたら、俺がフラグを折る前に対策を取られかねない。)

 迅速に動かなければならない事態を覚悟して、次のステージに向かう。
 フラグを一本へし折ったぐらいでは安心できない。
 あくまで猶予期間がほんのわずかに伸びただけで、現状は何も解決されてない。
 俺はフードを深々と被りながら、人混みを掻き分けて『ある男』を探す。

「…!」

 見つけた。
 この国から少し離れたところにある皇国スフィールの、若き皇帝セディオム。
 自分よりも遥かにゴツいSPたちに囲まれながらパレードを鑑賞している彼を見つけて、俺は安堵した。
 無事に戴冠式を迎えたルートで登場すらしてなかった彼だが、やはりストーリーがヒロインの一人称視点だからというだけで来てはいたようだ。
 俺は接触を図るため、歩み寄った。

「…!」

 SPたちが俺の前に立ち塞がり、皇帝陛下が此方に気付く。
 俺はフードを取り顔を見せた。

「っ!?」

 皇帝陛下は驚愕し、SPたちがたじろぐ。

「王弟殿下?いったい何故…」
「貴方様にどうしてもお願いしたいことがあり、参りました。」
「お願いとは?」
「其方の国に、わたくしを宮廷魔導師として雇っていただきたいのです。」

 セディオムは何も言わない。
 愕然としたような、呆れ返ったような顔をして俺を見つめるばかりだ。
 無理もない。
 プレイヤーだった前世で得た知識だが、共通ルートの小話でセディオムは一度、

「……こんな言い方しか出来なくて申し訳ないのですが、どういう風の吹き回しで?」
「すべて兄の独断です。わたくしは承諾するつもりでした。」

 そうだ。
 ザフィルは王城でこのスカウトを受けたとき、当人である俺に何も言わず、即行で突っぱねた。
 もちろん奴からの報告なんか受けていない俺はその事実を知らず、王城の金食い虫として寄生しつづけて今に至る。

「『魔法』は『魔』の『法』。神の御手から外れた禁断の技だ。楽ができるからと使い続けていれば、いつか人を脅かす『魔』と成り果てる。」

 父上がご存命のときから口酸っぱく言われてきた言葉を思い出す。
 この国は歴代の王から、魔法への偏見とそれを扱うスフィール皇国へのヘイトが強い傾向にある。
 ザフィルは小話のなかで、皇国への嫌悪と弟である俺を取られたくないという心中を吐いていたが、ストーリー上ではそれに対しての謝罪もフォローも一切無かった。

「陛下はこのことについてご存知……ではありませんよね。」
「はい。わたくしも独断で申し出た次第です。」
「ううん……此方としては有難いですが、それでこの国と揉めることになったら…」
「恐れ入りますが、事態はそれどころではなくなるかと。」
「?」

 俺は鞄から国王…今となっては先代王の日記を取り出して、あのページを開きセディオムに手渡す。

「っ!!?」
「皇帝陛下、この国は近いうちに血の雨が降るやもしれません。」
「……そういうことでしたら、分かりました。」

 セディオムは日記を返すと、微笑んで一礼する。

「貴方がいつでも此方に来れるように、準備をしましょう。もちろん国王陛下には内緒で。」
「有難う御座います。」

 俺はセディオムと固めの握手を交わした。
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