王弟転生

3333(トリささみ)

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 我ながらよくやった。
 これでこの国と王城から追放された後の食い扶持は確保できた。
 だがまだまだ問題は残ってる。
 さっさと次に取り掛かることにした。
 俺は人混みを抜けて図書館へと足を運び、前世でいうところの六法全書のような書籍を探して読み漁る。

(お、あったあった。)

 それによると、この国の法律において、国外追放の刑に処される罪は、代表として王族の婚約者または配偶者との不貞行為がそれに当たる。
 愛した人と愛を育んだその土地から引き離すことによって精神的苦痛を与えることに重きを置いた罰とのことだ。
 これは…いける!
 俺は最高の切り札を手に入れた。

(だがまだアイツらは単なる恋人同士だ。俺がフラグを潰したせいでストーリーが進行しなくなったからってのもあるんだが…)

 まあいい。
 本を片付けて、次の計画に移った。
 市民も貴族も王族関係者も、皆がパレードに夢中な今が、最大のチャンスなんだ。
 俺は急いで王城に戻り、無人の政務室に入る。
 そして金庫から官僚どもの裏帳簿を拝借した。

(他の男とのルートで奴らの不正を探すときに、ダイヤルの書かれている場所は覚えた。官僚どもも、執務で忙しいザフィルの目から逸らすのは容易いし、無能で愚鈍な俺は最初から脅威とすら見なしてない。おかげでこんなにも不用心に、大事な大事な犯罪の証拠を置いといてくれた。)

 俺は自室に戻り、手に入れた裏帳簿を先代王の日記とともに自分用の金庫に保管した。

(これでよし、と。ふぅ…)

 重要証拠品を完全に封じたところで、ほっと息をつく。

(今の俺に誰かがついていなくて、本当に良かった。)

 これまでの俺は普段から素行が悪く、また平気で危険を侵す行動をとっていたため、ザフィルから差し向けられた付き人という名のお目付け役が常に張り付いていた。
 アイツとクコリの関係を知ってからは荒れに荒れたため、みんな監視役を辞退してしまい、こうしてひとりぼっちになったいきさつを思い出す。

(まあ人がいたなら金で買収するだけよ。さて…今日はもう日が暮れそうだし、このくらいにしておこう。)

 俺はそのまま自室にあるベッドに飛び乗り、少し仮眠を取ることにした。



 …

 ……

 ………



(……駄目だ。休みたいのに全然気が安まらない。)

 瞼を閉じて意識が離れかけると、今日あったセディオムとのやりとりが脳内で回帰され、勝手に神経が興奮して目覚めてしまう。

(やっぱり怖いモンだな……『推しの力』ってのは。)

 前世の俺は二次元という架空の存在が大好きな女で、セディオムが最推しだった。
 というより『乙女の庭に恋の花咲く』……もう長ったらしいし公式略称の『のにのく』でいいか。
 そもそもあのゲームをプレイした理由は、公式PVで登場したセディオムに一目惚れしたことがキッカケだった。
 しかしセディオムは『のにのく』において非攻略対象だったことを知って嘆き、来年に発売される彼が攻略対象になった続編を一日千秋の思いで待っていたのだ。

(まさか発売前に死んで、この世界の悪役令息に転生させられるとは、前世では夢にも思ってなかっただろうな。)

 今の俺は王弟のアズラオとしての人格が形成しきっているが、それでもセディオムにガチ恋していた頃の思い出は、そう悪いものではなかった。
 だからこそ続編をプレイ出来ずに死んだ彼女の未練や悔しさは想像に難くない。
 ………でも………今なら………

(って何考えてんだ俺は!!!)

 浸りすぎるあまり、とんでもない方向に走りそうになった思考にブレーキをかける。

「はあ……もうやめだ、やめ!!」

 もはや眠るタイミングを完全に見失い、飯の時間になったので食堂に向かう。

「!」
「…来たか。」

 すでに来ていたザフィルの姿を目にして、心臓がひときわ力強く跳ね上がる。
 未だに胸の中でマグマのように渦巻いている熱を努めて冷やし、いつもの席についた。

「戴冠式はどうだったか?」

 ザフィルは飯を待っている最中ずっと沈黙を保っていたが、食事の最中にそれだけ発言する。
 なんだ?弟に対してまでそんなに権力を見せびらかしたいのか?
 そう言いたくなるのをグッと堪えて、体裁を第一に考える。

「とても素敵な式でした。」

 ザフィルが固まった。

「………そうか。何処が良かった?」
「兄上を寿ことほぐ皆様の姿です。今日の戴冠を、皆様が心から喜び祝福していることが伝わりました。」
「…うむ。」

 ザフィルとの食卓での会話は、それだけだった。
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