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76話 男の正体

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初老の男は、ティーセットを準備し、熱い紅茶をカップへ注ぐと、

ソファに対面して座った、ティアとその若い男の前に置いた。

「どうぞ、よかったらお飲みください。

お疲れでしょう。毒などは入っていませんから、ご安心ください。」

若い男はそういうと、まず自分が飲んで見せた。

ティアはそれを見て、まだ少し疑いながらも、冷静になるため、紅茶にひと口、口をつけた。

こんな時なのに、とても上品なその紅茶の香りが鼻から抜けて、少しほっとする。

その表情を彼は見逃さない。

「少し落ち着かれましたか?

セルデューク国の茶葉は人に安らぎをもたらすのですよ。

我が国は物理干渉の術を扱えるものは多くても

聖力の術使いこなせなるものがほとんどいませんから、

こういったものや、色々な薬草などを使って、癒したり病気を治したりしているのです。」

なるほど…

と敵の言葉ながら感心してしまう。

「それで?なぜ私をここへ?なぜその、あなたの国へ一緒に行かないといけないの?」

ゆっくりしている場合じゃないと、ティアはキリッと表情を戻して尋ねた。

「あなたの国…ですか。

何も知らないからとはいえ、嘆かわしいことですね。リズティア様。」

彼は整った顔で悲しげに微笑んだ。

「さぁ、何から話したものか…

…リズティア様は、昔この国で大きなクーデターがあったのはご存知でしょうか?

あなた様のお祖母様が若かった時代の頃のことですが…」

「ええ、歴史の科目を勉強した時に書物で知ったわ」

「そうですか。では、申しますと、私はそのクーデターの生き残りの末裔です。さらにいえば、王族のはしくれですね。

名前を聞いて頂けばおわかりかと思いますが…

私の名は

フェリス=パロマ=ド=セルデューク

…以後フェリスとお呼びください」

ティアは頷いた。

「あともうひとつは、この髪と目をご覧下さい。

リズティア様と同じでしょう?

この色はセルデューク王国の王族のみが持つ色。

2つの色が揃ったもののみが王になれるのです。」

「えっ?ということは、あなたは王?王位継承者?」

自分のことは他人事のように忘れていたティアだった。

「どちらも残念ながら違います。我が国では、男は王になれません。建国以来、我が国は女帝の王国なのです。」



そうか…確かにそんなことが歴史書に書かれていたわね

とティアは随分前にサラッと読み流してしまった歴史書のことを思い出した。

「つまり、リズティア様、あなた様は正当な我が国の王位継承権を持つお方なのです」

「何ですって⁉︎」

青天の霹靂に、ティアは思わず立ち上がり、口を両手で覆った。
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