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23話 名女優
しおりを挟む「マッマクロスさまっ、グスッヒック」
いつもそうしているように、マクロスとマリーサは庭の散歩を終え、部屋の中でティータイムに入ろうとした時だった。
部屋に入ると同時に突然マリーサが泣き始めたので、マクロスは驚いた。
「⁉︎どうしたんだ⁉︎マリーサ⁉︎」
「わっ、わた…し、たっ、大変な事に…なってしまって…どうしたら…いいのか…ぐすっぐすっ」
マリーサは目を潤ませながら、マクロスを上目遣いで悲しそうに見上げた。
「そんなに泣いて、どうしたの⁉︎マリーサ、ほら、こっちにきて座って?ゆっくり話を聞くから、ね?」
そう言ってマクロスはマリーサの肩を優しく抱き寄せるとソファに座らせ、自分も隣へ座る。ハンカチで涙を拭いてやりながら落ち着くのを待った。
「大丈夫?話せそうかい?」
「えっ、ええ…あの、マクロス様?どうか怒らないで聞いて欲しいのですが…」
マリーサが言い難そうにその先を言わないまま黙ってしまったので、怒ったりしないから教えて?とマクロスは優しく促した。
「実は…その……私のお腹の中に…子どもが…います」
「…な…何言ってるの…マリーサ?僕たち…そういうこと…してないよね?」
マリーサは小さく頷いた。
「は、はは、じゃあ間違いだよ…できるわけ…ないじゃないか?」
マクロスは笑顔を引き攣らせながらマリーサの顔を覗き込んだ。
「…グスッ…グスッ」
いつまでも泣き止まないマリーサを見て、真実味は徐々に増していく。
「マリーサ…本当なの?」
マリーサはもう一度頷く。
「そんな…そんなことって…じゃあ、君はつまり…僕を裏切ったということなのか?」
マクロスの顔がみるみる青ざめていく。しかしマリーサは首を横に振った。
「違うんですっ…私は裏切りたくなんてなかった!だって、だって、私…無理矢理……殺されるかと思って…恐くて……逃げられなかったんです…ごめんなさい、マクロス様!本当に…ごめんなさいっ…ヒック」
マリーサは泣き叫びながらそう言って、マクロスの胸に縋りついた。
「…なんてことだ…それは…つまり君は…ああ…そんな…そんなことって…
…気づいてあげられなくて…ごめん…マリーサ…そんなに辛いことを1人で抱えさせていたなんて…」
マクロスの胸に顔を埋めて泣いているマリーサを、マクロスは強く抱きしめた。
「…マ、マクロス様…許して…くださるん…ですか?」
マリーサは胸に顔を押し付けたまま聞いた。…泣き真似を隠すために…
「許すも許さないも、君は何も悪くないじゃないか!……相手は誰かわかるのかい?…僕がそいつを八つ裂きにしてやるよ…」
マクロスは、綺麗な緑の目を暗い色に沈めながら、低い声で言った。
「…言っても…いいんですか?」
マリーサは俯いてマクロスに見えないようニヤリと口の端を歪ませた。
「わかるのか⁉︎」
マリーサはこくりと頷く。
「誰なんだ!言ってくれ!マリーサ!」
マクロスはすごい剣幕でマリーサの肩を掴んだ。
そのマクロスの険しい目を見つめながら、充分引きつけられたと思ったマリーサはおずおずと口を開いた。
「……あの……カイル殿下…です」
マクロスは耳を疑った。目の前が真っ暗になり、一瞬時間が止まったようにも感じ、力が抜けてマリーサの肩に置いた手がぶらんと落ちる。
「…う、うそだ…マリーサ…うそだろ?
あ、あの優しい兄上が…僕が君を大好きだと知ってるのに…そん…な
う、うそだ…
マリーサ?誰かと間違えてるんじゃないのか?あのガーデンパーティーで紹介した時くらいしか顔を見ていないはずだ。
誰かと勘違いしてるんじゃないのか⁉︎」
マクロスはそう思いたくて、語気を強めて聞いた。
「…マクロス様…そう思いたいお気持ちはお察し致しますが…これは全て…本当なのです。
それに、カイル殿下が最近夜遊びをよくなさっていることはご存知のはず…
もしかしたら…戦争が殿下を変えてしまったのかも…」
「そんな…マリーサ…じゃあ…本当なんだね?
兄上が君にそんな酷いことを…
兄上…兄上…なんてことを…
僕は兄上を…許さない」
マクロスが覚悟を決めた目になる。それを見たマリーサは、口の端がニヤリと歪むのを止められず、慌てて手で隠した。
「マリーサ…安心して…?
兄上には僕が制裁を下すから…
君はその子を僕の子として産めばいい…
マリーサもお腹の子も、僕がずっと守ってあげるよ…」
死人のように光のない目をしたマクロスは、心が侵され、奇妙な微笑みを浮かべながらそう言った。
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