10 / 121
10 生きる場所
しおりを挟む
「この村は英雄様がエルフの姫君を守る為に村全体に術を施しているのですよ。この村に来ようとしてもある手順をふまないと村の中に入れません。そして、生きる場所もなく路に迷った者は村にたどり着けるようになっています」
「生きる場所がない····」
ジュウロウザの呟きが降ってきた。そう、迷い人をこの村は受け入れる。だから、この村の人達はジュウロウザに好意的なのだ。
「この村は英雄様の願いが込められているんだ。お姫様を守るようにって。力のある人はここに悪いモノを近づけさせないように武器を取って外に出て、戦うんだ。僕も大きくなったら村の外に出て冒険者になるんだ」
ルードは自分の夢を語った。英雄の言葉を誇らしげに言いながら。
「戦う力のない人は村を豊かにするの。お姫様が寂しくないように、いつも笑顔でいてくれるように。だから、私は立派な薬師になるの」
ソフィーはニコニコと笑顔で夢を語った。今はもう居ない人物のことを上げて言った。
この村で何度も何度も聞かされる英雄とエルフの姫の話。この村を守る為に己がすべきことを成すようにと、まるで洗脳するように聞かされるのだ。
「だからね。ジューローザさん、この村に居たいだけ居ていいんだよ。モナねぇちゃんは色々言うかもしれないけど、兄ちゃんに対してもこんな感じというか、もっと悪い感じだから、気にしなくてもいいよ」
ルード!!何を言っている!
私は目の前のルードを睨む。私が一番大変じゃないか!ミサンガさえも灰にするほどのジュウロウザだ。ほとんど張り付いていなければならないなんて、私の精神が死にそうだ!
「あ!そうだ!」
ソフィーは何かを思い出したかのように両手を叩いた。そして、作業中の私と後ろにいるジュウロウザを見て言った。
「おねぇちゃんとジューローザさんが結婚するといいんだ!リリーねぇちゃんも結婚するでしょ?」
一瞬、思考が停止した。私はよくわからない発言をしたソフィーをぎこちなく見る。
「ソフィー?何を言っているのかな?」
「え?だってリアンお兄ちゃんと結婚するの嫌なんでしょ?このままだとおねぇちゃんリアンお兄ちゃんと結婚することになるよ?」
ガンッ
「おねぇちゃん!」
「モナねぇちゃん!」
「モナ殿!」
テーブルに額を打ち付けてみるが、痛い。夢じゃない。ソフィーの恐ろしい言葉は夢じゃないのか?なんで私がリアンと結婚?
いや、リアンの好意はわかっていたが、猛犬と言っていいリアンは私の手に余るというか、私が五体満足に生きていける自身がない。絶対に腕にヒビが入るだけで済むとは思えない。
腕一本ぐらい無くなる覚悟がないとリアンと結婚出来ないと思っている。絶対に無理だ。魔王を倒して帰ってきたヤツと結婚だなんて、私には無理だ!
ゲーム通りに王女様か聖女様と結婚してほしい。お似合いだった。私なんかより、とてもとてもお似合いだった。
そう、ゲームではサブイベントによってエンディングが異なっているのだ。クソゲーの癖にそこはこだわりがあったのか、フルCG、フルボイスで美しかった。
最初、聖女バージョンの大聖堂での結婚式のエンディングを迎えてやりきった感満載でゲームを終えたのだけど、ネット情報で王女バージョンのエンディングが良かったとの情報を得て、再度クソゲーをやった。王女バージョンは王都中をパレードをしたあと、国民の前で愛を誓って、王になるというエンディングだった。
勇者リアンのかっこよさに萌えたよ。
いや、今考えると恐ろしいな。あのリアンが王?一気に肌が粟立つ。
「ぇちゃん、おねぇちゃん!」
ソフィーが私の肩を揺すっている。頭を上げてテーブルの上を見ると8個のミサンガが出来ていた。そして、作りかけが私の手元にある。もういいや。
「もう寝る」
そう言って、私は出来上がったものと手紙と手芸用セットを持って部屋に戻った。
モナが居なくなった後
「モナ殿は何故、そこまでリアンという人物を嫌っているのか?」
十郎左がリアンの弟であるルードに尋ねる。その質問にルードは苦笑いを浮かべていた。
「うーん。俺が物心がついた頃にはもうあんな感じだったからなぁ。母さんが言うには昔はそうではなかったみたい。さっき姫君と英雄の話を聞いたよね」
ルードは何か言い難いように言葉を紡ぐ。
「『我らは英雄アドラの子孫でもあるが、奇跡の姫ルトゥーナの子孫でもある。忘れるな、英雄の力も奇跡の力も我らの中にあることを』」
そして、ルードは大きく息を吐き出す。
「これは、僕達の中にその力が在るっていう意味じゃなくって、そういう者が生まれてくるっていう意味なんだ」
「おねぇちゃんはエルフのお姫様の力を持っているんだよ」
ソフィーが自分の事を誇らしげに言った。
「僕の兄ちゃんは英雄の力を持って生まれた。だから兄ちゃんはモナねぇちゃんを守る役目があるのだけど」
ルードは自分の兄の事を残念に思いながら話す。
「はりきり過ぎたんだよ。で、逆にモナねぇちゃんを傷つけてしまった」
「おねぇちゃんが関わらないと普通なんだけど、リアンお兄ちゃんは頑張り過ぎちゃうんだよね」
リアンは英雄の力を持って、奇跡の力を持つモナを守る。これはこの村の者たちの総意であり、リアンの思いでもあった。だた、本人のモナだけがわかっていない。
「もしかして、この村はモナ殿の為に動いている?」
十郎左の言葉に二人の子供はニコリと笑った。
英雄がエルフの姫君の為に作った隠れ里“プルム”奇跡の力は隠さなければならない。
「生きる場所がない····」
ジュウロウザの呟きが降ってきた。そう、迷い人をこの村は受け入れる。だから、この村の人達はジュウロウザに好意的なのだ。
「この村は英雄様の願いが込められているんだ。お姫様を守るようにって。力のある人はここに悪いモノを近づけさせないように武器を取って外に出て、戦うんだ。僕も大きくなったら村の外に出て冒険者になるんだ」
ルードは自分の夢を語った。英雄の言葉を誇らしげに言いながら。
「戦う力のない人は村を豊かにするの。お姫様が寂しくないように、いつも笑顔でいてくれるように。だから、私は立派な薬師になるの」
ソフィーはニコニコと笑顔で夢を語った。今はもう居ない人物のことを上げて言った。
この村で何度も何度も聞かされる英雄とエルフの姫の話。この村を守る為に己がすべきことを成すようにと、まるで洗脳するように聞かされるのだ。
「だからね。ジューローザさん、この村に居たいだけ居ていいんだよ。モナねぇちゃんは色々言うかもしれないけど、兄ちゃんに対してもこんな感じというか、もっと悪い感じだから、気にしなくてもいいよ」
ルード!!何を言っている!
私は目の前のルードを睨む。私が一番大変じゃないか!ミサンガさえも灰にするほどのジュウロウザだ。ほとんど張り付いていなければならないなんて、私の精神が死にそうだ!
「あ!そうだ!」
ソフィーは何かを思い出したかのように両手を叩いた。そして、作業中の私と後ろにいるジュウロウザを見て言った。
「おねぇちゃんとジューローザさんが結婚するといいんだ!リリーねぇちゃんも結婚するでしょ?」
一瞬、思考が停止した。私はよくわからない発言をしたソフィーをぎこちなく見る。
「ソフィー?何を言っているのかな?」
「え?だってリアンお兄ちゃんと結婚するの嫌なんでしょ?このままだとおねぇちゃんリアンお兄ちゃんと結婚することになるよ?」
ガンッ
「おねぇちゃん!」
「モナねぇちゃん!」
「モナ殿!」
テーブルに額を打ち付けてみるが、痛い。夢じゃない。ソフィーの恐ろしい言葉は夢じゃないのか?なんで私がリアンと結婚?
いや、リアンの好意はわかっていたが、猛犬と言っていいリアンは私の手に余るというか、私が五体満足に生きていける自身がない。絶対に腕にヒビが入るだけで済むとは思えない。
腕一本ぐらい無くなる覚悟がないとリアンと結婚出来ないと思っている。絶対に無理だ。魔王を倒して帰ってきたヤツと結婚だなんて、私には無理だ!
ゲーム通りに王女様か聖女様と結婚してほしい。お似合いだった。私なんかより、とてもとてもお似合いだった。
そう、ゲームではサブイベントによってエンディングが異なっているのだ。クソゲーの癖にそこはこだわりがあったのか、フルCG、フルボイスで美しかった。
最初、聖女バージョンの大聖堂での結婚式のエンディングを迎えてやりきった感満載でゲームを終えたのだけど、ネット情報で王女バージョンのエンディングが良かったとの情報を得て、再度クソゲーをやった。王女バージョンは王都中をパレードをしたあと、国民の前で愛を誓って、王になるというエンディングだった。
勇者リアンのかっこよさに萌えたよ。
いや、今考えると恐ろしいな。あのリアンが王?一気に肌が粟立つ。
「ぇちゃん、おねぇちゃん!」
ソフィーが私の肩を揺すっている。頭を上げてテーブルの上を見ると8個のミサンガが出来ていた。そして、作りかけが私の手元にある。もういいや。
「もう寝る」
そう言って、私は出来上がったものと手紙と手芸用セットを持って部屋に戻った。
モナが居なくなった後
「モナ殿は何故、そこまでリアンという人物を嫌っているのか?」
十郎左がリアンの弟であるルードに尋ねる。その質問にルードは苦笑いを浮かべていた。
「うーん。俺が物心がついた頃にはもうあんな感じだったからなぁ。母さんが言うには昔はそうではなかったみたい。さっき姫君と英雄の話を聞いたよね」
ルードは何か言い難いように言葉を紡ぐ。
「『我らは英雄アドラの子孫でもあるが、奇跡の姫ルトゥーナの子孫でもある。忘れるな、英雄の力も奇跡の力も我らの中にあることを』」
そして、ルードは大きく息を吐き出す。
「これは、僕達の中にその力が在るっていう意味じゃなくって、そういう者が生まれてくるっていう意味なんだ」
「おねぇちゃんはエルフのお姫様の力を持っているんだよ」
ソフィーが自分の事を誇らしげに言った。
「僕の兄ちゃんは英雄の力を持って生まれた。だから兄ちゃんはモナねぇちゃんを守る役目があるのだけど」
ルードは自分の兄の事を残念に思いながら話す。
「はりきり過ぎたんだよ。で、逆にモナねぇちゃんを傷つけてしまった」
「おねぇちゃんが関わらないと普通なんだけど、リアンお兄ちゃんは頑張り過ぎちゃうんだよね」
リアンは英雄の力を持って、奇跡の力を持つモナを守る。これはこの村の者たちの総意であり、リアンの思いでもあった。だた、本人のモナだけがわかっていない。
「もしかして、この村はモナ殿の為に動いている?」
十郎左の言葉に二人の子供はニコリと笑った。
英雄がエルフの姫君の為に作った隠れ里“プルム”奇跡の力は隠さなければならない。
15
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる