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74 32階層
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翌朝、日が昇らないダンジョンの中で目覚めた私は準備をし、テントの外に出たところで呆然と部屋の隅をみてしまった。
い、いもむし?!
いや、ローブでぐるぐるにされた人と思われる物体が4つ、光るサークルから遠く離れた部屋の隅に転がっていた。それが、気持ち悪く、うごうごと動いている。
「シンセイさん。あれはなんですか?」
「姫。侵入者でありますぞ」
侵入者って、ダンジョンは誰の物でもないし!
「将が縄を持ってまいりましてな、騒がしいとあの様にしたのでありますぞ」
昨日、あれから騒ぎが酷くなり金属の甲高い音が混じって来たところで、ジュウロウザに様子を見に行ってもらったのだ。それから、直ぐに二人が戻って来たので、無事に何事もなく問題が解決したのかと思ったけど、強強制的に黙らせただけだった。
テントの中にいる間は聞こえなかったけど、ものすごく腹の虫が鳴いている。それは一晩放置されれば、お腹も空くだろう。
私は石の床に置いている鞄から、干しぶどうを練り込んだパンを4つ出し、油紙の上に乗せて、その4つのいもむしに近づいて行こうとすると、シンセイに取り上げられてしまった。
さっき朝ごはん山程食べていたのに、まだ食べる気か!
「姫は優しいのぅ。あのような者たちに施しをしようとは」
そう言って、シンセイは4つのいもむしの所に向かって行った。
「モナ殿」
上から呆れたような声が降ってきた。
「なにか?テントが片付いたのなら行きましょうか?」
ジュウロウザがテントを鞄の中にしまってくれたので、その鞄を私に差し出していた。鞄を受け取り、その上から外套を羽織る。すると、ジュウロウザがフードを深く被らせてきた。
「モナ殿。約束は覚えているのか?」
そこまで馬鹿じゃないから、覚えているよ。人前ではフードを被る。人に話しかけない····お、覚えているよ。
私はジュウロウザから視線を外す。
いや、ちょっとあれは酷いかなって思うじゃないか。一晩、芋虫は辛いよ。
「はぁ」
ジュウロウザのため息が聞こえたあと、体が浮いた。はい、今日も歩かせてもらえないと。ええ、わかっていますよ。私の体力じゃ階層一つでへばってしまうってことぐらい。
でも、普通にダンジョンを攻略してみたい!どこかスライムだけ湧き出るダンジョンってないのだろうか。いや、なんだかスライムまみれになっている私の姿が頭に浮かんでしまった。
「モナ殿」
そう言ってジュウロウザは自分の頬を指す。ジュウロウザぐらいなら、中級のダンジョンなんて楽勝だよね。
「昨日も言いましたが、このダンジョンで守護のスキルは必要ですか?」
「必要だ」
笑顔で必要と言われてしまった。くっ。本当に必要なのか?そう思いながら、ジュウロウザの頬にくちびるを落とす。
「32階層まで行けばいいのだな」
「そう、32階層に行ってください」
私が答えると、ジュウロウザが歩き出した。はぁ、今日は罠の中に真っ逆さまかぁ。段々と憂鬱になってきてしまった。
今日も昨日と同じく順調に進んで行った。魔物との遭遇も殆どなく、遭ってもシンセイの杖の一撃で事が済んだ。やっぱり、あの杖が凄い?
そして、問題の32階層にたどり着いた。罠は33階層に降りる階段の手前に存在する。普通に攻略をするなら、遠回りをしてその33階層に降りる階段に向かうのだ。
この32階層は31階層から降りてくると直線的に33階層に降りる階段が見えるのだ。そう、見えてしまうのだ。だから、そのまま突っ走る。で、罠にハマって落ちてしまうのだ。
31階層から降りてきて一番最初の十字路で立ち止まるように二人に言う。そして、鞄から小さな魔石を取り出し、直線的な通路に投げる。すると、その魔石は通路に落ち、ころころと転がりながら33階層に降りる階段に向かっていくが、突如として暗い空間が口を開けた。どう頑張っても逃げれない距離。落とし穴の中央付近に来て罠が発動するのだ。
「吾の魂が呼んでおる!」
そう言ってシンセイが罠の中に飛び込んでしまった。待って!そのままじゃ駄目だって!
声を掛ける暇もなく姿が見えなくなってしまった。
「落ちた先に魔物がうじゃうじゃいるのに」
真っ暗な穴に向かって私は呟く。そのまま飛び込んでも39階層に落ちてしまうだけなのに、私の話を聞いていなかったのだろうか。
私はため息を吐きながら、もう一つ魔石を取り出し、それに明り取りの魔術を込め、闇の中に放おり投げる。その光を目で追いかけると、キラリと光るモノが目に映った。
「キトウさん、あそこまで飛べます?」
目測10メルほど下に落ちたところの対岸側に光るモノがあった。そして、光はそのまま下に落ちていった。
私はダンジョンの薄暗い光が届かない穴に飛び込むために魔道ランプに明かりを灯す。
「ああ、問題ない」
そう答えるジュウロウザの声と穴の中から聞こえる奇声と重なった。シンセイは39階層にたどり着いようだ。『吾の魂はどこであるか!』という嗄れた叫び声が亡者の叫び声のように響いてくる。知っていなければ恐ろしい声だ。
そして、ジュウロウザは私を抱えたまま、穴の中に飛び込んで行った。
い、いもむし?!
いや、ローブでぐるぐるにされた人と思われる物体が4つ、光るサークルから遠く離れた部屋の隅に転がっていた。それが、気持ち悪く、うごうごと動いている。
「シンセイさん。あれはなんですか?」
「姫。侵入者でありますぞ」
侵入者って、ダンジョンは誰の物でもないし!
「将が縄を持ってまいりましてな、騒がしいとあの様にしたのでありますぞ」
昨日、あれから騒ぎが酷くなり金属の甲高い音が混じって来たところで、ジュウロウザに様子を見に行ってもらったのだ。それから、直ぐに二人が戻って来たので、無事に何事もなく問題が解決したのかと思ったけど、強強制的に黙らせただけだった。
テントの中にいる間は聞こえなかったけど、ものすごく腹の虫が鳴いている。それは一晩放置されれば、お腹も空くだろう。
私は石の床に置いている鞄から、干しぶどうを練り込んだパンを4つ出し、油紙の上に乗せて、その4つのいもむしに近づいて行こうとすると、シンセイに取り上げられてしまった。
さっき朝ごはん山程食べていたのに、まだ食べる気か!
「姫は優しいのぅ。あのような者たちに施しをしようとは」
そう言って、シンセイは4つのいもむしの所に向かって行った。
「モナ殿」
上から呆れたような声が降ってきた。
「なにか?テントが片付いたのなら行きましょうか?」
ジュウロウザがテントを鞄の中にしまってくれたので、その鞄を私に差し出していた。鞄を受け取り、その上から外套を羽織る。すると、ジュウロウザがフードを深く被らせてきた。
「モナ殿。約束は覚えているのか?」
そこまで馬鹿じゃないから、覚えているよ。人前ではフードを被る。人に話しかけない····お、覚えているよ。
私はジュウロウザから視線を外す。
いや、ちょっとあれは酷いかなって思うじゃないか。一晩、芋虫は辛いよ。
「はぁ」
ジュウロウザのため息が聞こえたあと、体が浮いた。はい、今日も歩かせてもらえないと。ええ、わかっていますよ。私の体力じゃ階層一つでへばってしまうってことぐらい。
でも、普通にダンジョンを攻略してみたい!どこかスライムだけ湧き出るダンジョンってないのだろうか。いや、なんだかスライムまみれになっている私の姿が頭に浮かんでしまった。
「モナ殿」
そう言ってジュウロウザは自分の頬を指す。ジュウロウザぐらいなら、中級のダンジョンなんて楽勝だよね。
「昨日も言いましたが、このダンジョンで守護のスキルは必要ですか?」
「必要だ」
笑顔で必要と言われてしまった。くっ。本当に必要なのか?そう思いながら、ジュウロウザの頬にくちびるを落とす。
「32階層まで行けばいいのだな」
「そう、32階層に行ってください」
私が答えると、ジュウロウザが歩き出した。はぁ、今日は罠の中に真っ逆さまかぁ。段々と憂鬱になってきてしまった。
今日も昨日と同じく順調に進んで行った。魔物との遭遇も殆どなく、遭ってもシンセイの杖の一撃で事が済んだ。やっぱり、あの杖が凄い?
そして、問題の32階層にたどり着いた。罠は33階層に降りる階段の手前に存在する。普通に攻略をするなら、遠回りをしてその33階層に降りる階段に向かうのだ。
この32階層は31階層から降りてくると直線的に33階層に降りる階段が見えるのだ。そう、見えてしまうのだ。だから、そのまま突っ走る。で、罠にハマって落ちてしまうのだ。
31階層から降りてきて一番最初の十字路で立ち止まるように二人に言う。そして、鞄から小さな魔石を取り出し、直線的な通路に投げる。すると、その魔石は通路に落ち、ころころと転がりながら33階層に降りる階段に向かっていくが、突如として暗い空間が口を開けた。どう頑張っても逃げれない距離。落とし穴の中央付近に来て罠が発動するのだ。
「吾の魂が呼んでおる!」
そう言ってシンセイが罠の中に飛び込んでしまった。待って!そのままじゃ駄目だって!
声を掛ける暇もなく姿が見えなくなってしまった。
「落ちた先に魔物がうじゃうじゃいるのに」
真っ暗な穴に向かって私は呟く。そのまま飛び込んでも39階層に落ちてしまうだけなのに、私の話を聞いていなかったのだろうか。
私はため息を吐きながら、もう一つ魔石を取り出し、それに明り取りの魔術を込め、闇の中に放おり投げる。その光を目で追いかけると、キラリと光るモノが目に映った。
「キトウさん、あそこまで飛べます?」
目測10メルほど下に落ちたところの対岸側に光るモノがあった。そして、光はそのまま下に落ちていった。
私はダンジョンの薄暗い光が届かない穴に飛び込むために魔道ランプに明かりを灯す。
「ああ、問題ない」
そう答えるジュウロウザの声と穴の中から聞こえる奇声と重なった。シンセイは39階層にたどり着いようだ。『吾の魂はどこであるか!』という嗄れた叫び声が亡者の叫び声のように響いてくる。知っていなければ恐ろしい声だ。
そして、ジュウロウザは私を抱えたまま、穴の中に飛び込んで行った。
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