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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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 シェリーは玄関を開けたところで眉を顰め不機嫌を顕わにする。この屋敷に訪問者はほとんどない中、来る人物など限られてくるのだが。
 玄関を開けた先にいた人物はシェリーに負けないほど不機嫌な顔をした青狼族のクストだった。

「何か?」

 シェリーの第一声がこれだった。

「シェリーさん。おはよう御座います。ご注文の品をお届けにきました」

 軍服を着ているクストの後ろからユーフィアが顔を出した。そう言えば先日ユーフィアの屋敷に行ったときに、フィーディス商会から頼まれた物が出来上がったと言っていた。
 しかし、シェリーの不機嫌の顔は直らない。

「ユーフィアさん。今何時だと思っているのですか?朝の4刻8時です」

 まだ、人の家を訪問する時間ではない。そして、いつもながら前もって訪問の予定を言われたわけでもない。

「でも、早いほうがいいと思いまして」

 いつもどおりの返答だった。シェリーはため息を吐きながら、中に入るように促す。クストが先に入り、その後にユーフィアが続いて入っていった。ただ、いつもユーフィアの側にいるマリアの姿が見当たらなかった。

 二人を応接室に案内し、シェリーはダイニングに入る。すると食器を片付けているカイルが声をかけてきた。

「また、公爵夫人が来たのか?」

 少し不機嫌そうだ。丁度、朝食が終わった頃に訪問をされたのだ。
 そして、ここにはカイルの姿しかいない。他の4人はシェリーの作ったカレーを食べて、文句を言わずに陽子のダンジョンに戻ったためここには居ない。

「頼んでいた物を持ってきてくれたそうです」

 シェリーはキッチンに入っていき、お茶の用意をして応接室に持って行く。その後ろには勿論カイルが付いていた。


「シェリーさん。頼まれていたものですわ。船につける置型の結界とビデオカメラとスマホです」

 ユーフィアはローテーブルの上に3種類の魔道具を並べた。

「まずは置型の結界ですが、持ち歩きな便利な小型にしてみました。これで半径100メルメートルの結界が施されます。いただいた『アルテリカの火』の鉱石をそのままを用いましたのでかなり強固な結界が出来上がりました。このスイッチを押すことで簡単に結界が張れる仕様です」

 相変わらず魔道具のことになると喜々として一気に説明をするユーフィア。

「そして、ビデオカメラは高性能のドラゴンの目のレンズと魔石を使っているので、4K並の高画質です。で、こちらが、プロジェクターです。これもドラゴンのレンズを使っているので、綺麗に写せます」

 シェリーはそのビデオカメラを手に取ってみる。手のひらにぴったりと収まり、大きめのレンズ。そして、撮っている画像が見える収納式のパネル。見覚えのある形のものだった。
 パネルを開いて赤い丸いボタンを押す。目の前のユーフィアの姿を撮って、止めて再生をしてみる。動作もの世界で使っていた幼い子供たちの姿を記録した物と変わりはないようだ。
 懐かしい物を見たようにシェリーはふっと口を緩める。

「そして、スマホです。スマホと言いましてもこの2つの間でしか、通信できませんが。そして、『女神の涙』でしたか。この素晴らしい鉱石を使いました。注文があったとおり通話機能とメール機能。追加で時計とメモ機能と計算機とカメラ機能を付けました」

 シェリーはビデオカメラを置いて、スマホを手に取る。黒い石版のような板状のもので、これも手に収まる大きさだ。中央下のボタン状のスイッチを押すと、黒い画面が光り。ユーフィアが言っていたアプリが画面上に映し出された。
 一通り触って問題ないことがわかり、そのスマホもテーブルの上に置く。

「問題ないです」

「当たり前だろ。ユーフィアが作ったものだ」

 ユーフィアとシェリーのやり取りをユーフィアの横で腕を組んで黙って見ていたクストが言う。

「それで師団長さんはなぜいるのですか?暇なのですか?」

「暇じゃない。お前が第3師団長のツヴェークを第0師団に引っ張り込むから、軍部内がごたついている。なぜ、ツヴェークなんだ」

 どうやら、ツヴェークを第0師団の師団長に据えたことが問題になり、原因のシェリーに聞いてこいとでも言われて来たのだろう。

「それは一番扱いやすいからです。第3師団さんには簡単に了承を得ることもできました」

 酷い言われようだ。一個師団を任された師団長を扱いやすいという理由で、決めたなんて誰も思いはしないだろう。

「おい、ツヴェークがそんな簡単に頷くはずないだろう。あのツヴェークだぞ」

 クストから見るツヴェークはサリーが言っていた二つ名の通り、難しい人物なのだろう。しかし、シェリーの奥の手にはその冷徹のツヴェークも敵わないということだ。
 
「ですが、人族で師団をまとめ上げられる人材を直ぐに用意することは難しいのではないのでしょうか?やはり、第3師団長さんにお願いするのが妥当ですよね」

 シェリーの言葉は最もだ。その言葉にクストも思うことがあったのか黙ってしまった。

 しかし、マリアがここに居ない理由はクストが軍の仕事でここに来ており、それにユーフィアが便乗したということなのだろう。

「青狼」

 カイルがクストに声をかけた。その声にクストがビクリと反応する。先日の事が身にしみたのだろうか。
 しかし、今日のクストは軍の仕事できているので、シェリーに突っかかることは無かったはずだが···。

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