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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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しおりを挟む「な、なんだ···」
クストがビクリとして返事をする。その姿にカイルは苦笑いをしながら言葉を口にする。
「ただの疑問なのだが、君たち獣人は空を飛ぶ完全体の悪魔に対してどう対処したのかと思ってな」
翼のある鳥人でもない。魔力が多い種族は一握りだ。討伐戦を知らないカイルはただ疑問だった。獣人である彼らはどう戦ったのだろうかと。
しかし、クストは普通に答えた。
「俺たちは空を駆けるだけだ」
「空を駆けるか」
「そんなことよりも、魔眼に対する対策の方がきつかった」
クストも炎王と同じく魔眼への対策が厄介だったという。誰もが警戒する事柄。それほど苦戦したのだろう。
空中戦になるのは当たり前。それに対応できなければ、戦う資格はなく、更に魔眼の耐性を付けなければならないと。
その答えにカイルはため息を吐く。己に一番足りない事を突きつけられたのだ。
「いきなり、どうした?またどこかで次元の悪魔の出現があったのか?」
クストは警戒を顕わにするが、カイルは首を横に振る。
「いや、空中戦は当たり前ということが知りたかっただけだ」
その言葉にクストは首を捻る。竜人であるカイルが何を言っているのだろうかと。そこに割り込む声があった。
「浮遊の魔道具ならありますよ?」
ユーフィアだった。それぐらい彼女なら作れるだろう。メイルーンの街の中を走っている列車は地面を走っているわけではなく、微妙に浮いているので、乗客を乗せて大型の箱型を浮かせて走らせるものを作り上げたユーフィアにとって見れば、人一人ぐらい簡単なことだろう。
「ユーフィアさん。飛ぶだけじゃだめですよ。雷獣ぐらいの速さで空中戦ができなければ使い物になりません」
雷獣。雷を纏った獣型の魔物だ。その速さは稲妻に匹敵する。
「あら、そうなの?それは難しいわね」
ユーフィアはそう言いながら、それを再現するには何が必要か頭の中で計算しているようだ。
「あと、第6師団長さん。ギラン共和国でも次元の悪魔の存在を確認したそうです」
「は?ギラン共和国?」
クストは思ってもなかった言葉を聞いて、目をみはる。
「ちょっと待て、そんな情報聞いて無いぞ。どこからの情報だ」
どこから、それはダンジョンマスターのユールクスからだが、そんなことは言えるはずもなく。
「国の中枢からの情報ということで」
「ギラン共和国にも現れたとなると、ヤバいな。ユーフィア。戻るぞ。軍に戻って報告しなければならなくなった」
クストは立ち上がり、ユーフィアに手を差し出すが、ユーフィアは何かを考えているのか、シェリーをじっと見ている。
「ユーフィア?」
再度、クストはユーフィアに声をかける。
「シェリーさん。あれのことなのですが、調べてみると神経毒があることがわかりました。正確には神経を制御する寄生虫と言えばいいのでしょうか。わかりやすく言うとカマキリのハリガネムシと言えばいいでしょうか」
もう少し例えようがなかったのかとシェリーは眉間にシワを寄せる。
ハリガネムシ。カマキリ等に寄生し水辺に誘導し、入水させるという生物だ。
あれというのは、モルディールの街で実験に使われていた奴隷の制御石の劣化版の話だろう。
「戻って来られた第7師団の方々にはその神経を操作する寄生虫もどきは見られませんでしたが、マルス帝国の人たちから話を聞き出すのに使ったてみたという人にはその寄生虫もどきに操られていました」
恐らくマルス帝国の侵入者に尋問するときに試しに第4師団の者が使ってみたのだろう。思っていた以上に恐ろしモノだったようだ。
「私に元の状態に戻して欲しいと言われて、色々試したのですが、どうしても寄生虫もどきから解放出来なかったのです。シェリーさんはどうやって街の人達を寄生虫もどきから解放したのですか?」
ユーフィアは光の魔術を使って治癒を施し、額の魔石を取り外そうとしたのだろう。だが、それでは神経まで浸食したモノを排除が出来なく、シェリーに聞きたかったのだろう。
どうやって、街の人達を制御石から解放したのかと。
「聖魔術を使いました。因みにユーフィアさんが作った制御石もそれて解除できます」
「聖魔術····やっぱり光の属性ではダメってことだったの。聖属性の物ってなにかしら?」
ユーフィアは自分の世界に入り込んでしまったかのように、ブツブツと言い、考え始めた。
そのような姿に慣れているクストはユーフィアを抱きかかえる。
「用件は終わったから、帰らせてもらおう」
そう言ってクストは部屋を出ていこうとするが、その背中にシェリーは声をかける。
「万能薬の材料のユニコーンの角などはいかがでしょうか?」
「ゆ、ユニコーンの角!!クスト。ユニコーンってどこにいるのかしら?」
そんなユーフィアの声と共にドアが閉まっていく。しかし、ユーフィアは万能薬の材料として市販されているユニコーンの角までも自分で取りに行こうとしているようだ。
今回はクストがシェリーの言葉に噛み付いて来ず、さっさと帰っていったことに、シェリーは内心ほっとしていた。その実はシェリーの横でカイルがクストに威圧を掛けていたことには気づかないままだった。
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