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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
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しおりを挟む「いじめられていないよ。だけど、やっぱりライターさんの凄さを改めてわかったよ」
以前よりも少しは成長したルークは物事を捉える目が成長してきたのだろう。ライターの教えを咀嚼し飲み込むまでだったが、それが徐々に身についてきていると思われた。いや、今まではルーク一人しかライターから教えを請う者がいなかったが、今は弟弟子が二人もいるのだ。共に教えを請う者がいるとまた違うのだろう。
「そうなのね」
楽しそうに話すルークにシェリーは嬉しく感じ、我が子の成長を喜ぶ母親のように微笑ましげにルークを見つめるのだった。
「ルーちゃん。着替えてきたら夕食にしようね」
「うん。もうお腹ペコペコなんだ」
ルークもライターのところで散々地面に転がされたのか、砂がところどころ衣服に付いている。
ルークはそう言って、ダイニングから顔を引っ込め自室に戻るべく階段を上って行く。その姿を見送ったシェリーはキッチンに戻ろうとしていると、復活したスーウェンから声を掛けられた。
「ご主人様。リオンは目を覚ましましたか?」
スーウェンもリオンの事が心配なのだろう。リオンの状態を聞いてきた。
シェリーの番同士でいがみ合うことを禁じてはいるが、仲間意識でも目覚めたのだろうか。
「鬼族の王は残忍かつ凶悪的だと文献に残っていますが、リオンは何かしらの制裁でも受けたのですか?」
違っていた。何も詳しくリオンに何が起こったか話してくれないのは、種族的な罰でも与えられているのかと、スーウェンは思っているようだ。
しかし、鬼族の王の評価があまりにも酷い。炎王本人を知っているだけに、あまりにも似つかわしくない言葉がならんでいた。
「スーウェンさんも炎王に会っているではないですか。彼はそのような事をする王ではありませんよ」
「炎王は龍人ですよね。文献にあるのは鬼王イゾラのことです。私達エルフ族の間では常識が通じない狂鬼イゾラと呼ばれています。リオンは国を追われた身ですよね。何の用があって戻ったのかわかりませんが、鬼族のリオンがここまで目を覚まさないとなると、鬼族特有の何かをされたのではと思ったのですが違ったのですか?」
エルフ族の鬼族に対する偏見が酷そうだ。そして、鬼王イゾラ。その名は炎王とリリーナの口にも上っていたリリーナ自身が嫌っていた兄の名である。エルフ族の文献に残るほどの何かしらをイゾラは行ったのだろう。常識を疑ってしまう何かを。
「スーウェンさん。恐らく何かをされるのはリオンさんが目覚めてからです。今回はリオンさんの自業自得です」
正確にはシェリーの魔眼の所為だが、その魔眼を使うように願いでたのはリオンからだったので、自業自得ということにはなるのだろう。
「そうだ。俺自身が引き起こしたことだ」
スーウェンの背後から声が降ってきた。そこに視線を向けると、いつもと変わらない姿のリオンが廊下を歩いて、こちらの方に向かってきていた。3日間ベッドの住人であったにも関わらず、その足取りはしっかりしていた。その背後にはグレイとオルクスの姿も見受けられる。
「そういうことなので」
シェリーはリオンの姿を一瞥しただけで、視線を外し、スーウェンにこの話は終わりだと言わんばかりに、リオンの言葉に同意を示し、キッチンに戻っていった。
シェリーはルークがダイニングに顔を出すまでに、食事を仕上げなければならないという使命があるのだ。寝ていただけのリオンが起きてきたことは、シェリーにとっては些細なことと、食器を手に取りルークの分の食事を取り分けるのだった。
「それでリオンいったい何があったんだ?」
食事を取りながらオルクスがシェリーの隣で興味津々と言わんばかりに目を輝かせてリオンに質問をしている。
シェリーはというと、食事を終え食後の珈琲を飲んでいるところだ。カイルの膝の上に座らされたままの状態で。
ルークはというと日中はライターのところで剣の修業をしている。だから、シェリーとの食事が終われば早々に自室に戻り、学園から出された課題をこなしているため、この場にはいなかった。
「そう聞かれても、シェリーに魔眼を使って欲しいと願ってからの記憶がないので、実際に何が起こったのか俺にもわからない」
やはり、魔眼に抵抗する力がなかったリオンはカイルと同じく何が起こったのか記憶がないようだ。しかし、その言葉に驚きの声を上げた者がいた。
「え?シェリーの魔眼の力を受けたのか?リオンがか?よく生きていたな」
グレイだった。ラースの魔眼に関してはシェリーの次に理解があるラース公国の第2王子であり、金狼獣人のグレイの言葉だ。『よく生きていた』そこに含まれている意味に気がついたのは恐らくシェリーとカイルだけだろう。
「どういう意味だ?」
死んでいてもおかしくはないと言われたリオンはグレイに尋ねる。
「どういう意味も何も····」
そう言ってグレイはシェリーに視線を向ける。説明をシェリーはしなかったのだろうかという視線だった。
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