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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「グレイさん、ここで暴れるのであれば、国に帰ってください」

 シェリーはカイルの胸ぐらを掴んでいるグレイに、とても面倒くさそうに言った。シェリーとしては、『番の儀式』というものは絶対に避けたいことだった。やはり一番は人としての時間を生きられないということが上げられるが、自分の生命が自分だけのもので無くなるのが嫌だったのだ。
 確かに今までシェリーは自分の生命と隷属であるオリバーの生命を抱え込んでいるが、オリバーは元々死者を蘇られた存在であるため、気に負うことはなかった。しかし、そこにツガイの生命もと言われると、些か重みが増してくるのだ。

 争い事を行うようであれば、目の前から消え去れと言わんばかりのシェリーの言葉に、内心カイルに対して苛立ちを感じながらも、その手を離す。

「カイル。説明しろ!これは流石にアイツらも許さないだろう」

 グレイの言葉にカイルはニコリとして答える。

「シェリーと一つの物を分け合って食べるって良いことだよね」

 カイルのその言葉にグレイはカッと頭に血が上って、カイルに拳を振るうが、カイルの手で軽くいなされてしまった。
 しかし、グレイは逆の拳をカイルに突きつけようとしたところで、シェリーが無言のまま立ち上がる。

 そこで、グレイは慌てて拳を収め、カイルから距離を取った。だが、シェリーは立ち上がったままグレイを睨みつけている。

「グレイさん。私は何度も言っていますよね。争うのであれば、国に帰ってくださいと。そうですね。ミゲルロディア大公閣下も戻られたことですし、丁度良いのではないのですか?」

「ちょっと待ってくれ、シェリー。これはアレだ。あ···うん。何というか。思ってもみないことが起きたから、戸惑ってしまった···シェリー!俺が悪かったから、転移の魔石を取り出すのは止めてくれ!」

 グレイが己の行動に対しての言い訳を歯切れ悪く言っているとシェリーがいつも使っている転移の魔石を取り出したため、グレイは懇願するように謝った。
 シェリーはグレイを強制排除しようとしたようだ。暴れるのであれば自国に戻って暴れてくれと。それに大公であるミゲルロディアがその座に戻って来たので、グレイが暴れても即座に対処してくれるであろうと。

「シェリー。俺が本気になってもカイルに敵わないことはわかりきっていることだろう?だから、取り敢えず座ろうか」

 グレイは魔石を握ったシェリーの手を魔石ごと握り込んで、ソファに座るように促し、カイルと反対側に腰を下ろした。だが、カイルを睨んでいることに変わりない。

「はぁ。グレイさん。このことに対してカイルさんを怒っても仕方がないことです」

 シェリーはグレイが落ち着いたので、ため息を吐きながら、転移の魔石を鞄にしまう。
 そして、カイルが起こした『番の儀式』の事について説明しだしたのだ。

「カイルさんは気がついていませんが、今回の事は白き神が動いた結果です」

「「は?」」

 グレイもだが、カイル自身もシェリーの言葉が寝耳に水だった。

「番の儀式の事はユーフィアさんから聞いた話でしか私は知らなかったので、まさか『生命の果実』という物がなくても成立するとは知らなかったので油断をしていたのもあります」

 どうやら、シェリーの番の儀式に関する知識はユーフィアから与えられたものだったようだ。確かにシェリーの身近にいる番同士と言えば、ユーフィアとクストになるだろう。

「私は今でも怒っています。私の意志を無視して行ったことに、憤りを感じています」

 シェリーは平然と話してはいるが、ふつふつとした怒りは胸の奥に宿していた。ただそれは側にいるカイルにではなく、この場にいない白き神に対してだ。

「確かにカイルさんの起こした行動ですが、カイルさんらしくない行動でしたよね?カイルさん自身も感じたのではないのですか?魔が差したという感じでしょうか?」

 シェリーはカイルに何故この様な騙し討ちのような行動を取ったのかと聞いていた。シェリーの問いに対してカイルは己の胸の内を語った。それは番に対して誰しも思っていることだ。
 シェリーが自分の生命を軽く見ているということは横に置き、番に先に死なれることは絶望でしかない。共に同じ時を歩んで生きたい。
 これは誰しも胸の内に抱えている想いだ。

 にも関わらず、シェリーはカイルが起こした行動がカイルらしくないと言った。確かにカイルはシェリーに対して思っていたことはあるだろう。しかし、カイルはシェリーに剣を向けてしまったことから、シェリーに嫌われないように、なるべくシェリーの意を汲むような行動をしていたのだ。

 だが、結果としてはシェリーの意に反する行動を取った。それが、おかしいとシェリーは言ったのだ。

「それに、世界の意志が動いたと感じましたので、私はカイルさんに理由は尋ねましたが、怒りを向けることはありません。このことで怒りを向ける存在は別にいますから」

 カイルはシェリーの話を聞いて、喜びを感じていた心が一転、ドズ黒く染まっていくように感じていた。まさか、己の意志でシェリーを繋ぎ止められたと思っていたら、高貴なる存在によって行動を促されていたのかと。
 このときシェリーの言葉がカイルの頭に響き渡った。

『そう今は思っているかもしれませんが、聖女ビアンカをカイルさんは見てますよね。昔はとても活動的な人だったらしいです。ですがあの時は頑なに勇者の結界から出ようとはしませんでした。もしこれが、勇者をこれ以上自由させないための、世界からの干渉の結果だとすれば、見方が変わってきませんか?全て世界の思惑だとすれば?【全ては白き神の手の上で躍らされている】各地の古いダンジョンに隠すように記された言葉の一つです』

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