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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「シェリー。これはどう?」

「これもいいよな」

 そう声を掛けられているシェリーの目は腐った魚の目をしている。第一層のナヴァル公爵家をあとにしたシェリーはお昼ごはんを行き付けのジェフの店····ではなく冒険者ギルドの併設の食堂で食べ、ニールから依頼を受けるように小言を言われているのを無視をして、冒険者ギルドを出たあと、第二層の屋敷に戻ろうとしたところで、カイルとグレイにデートをしようと両手を封じられ、洋服店に連れてこられ、あれがいいとかこれがいいとか現在言われているのだった。
 
 シェリーが必要ないと言っているのにも関わらず、シェリーのツガイたちはシェリーに洋服を買い与えていた。そのため、シェリーのクローゼットは今やどこの貴族だと言わんばかりの着ないであろう着飾ったドレスから訪問用のドレス、普段着まで多種多様に揃えられていた。なのにグレイとカイルはまだ洋服を増やそうとしているのだ。これはシェリーでなくても遠い目をしてしまいそうだ。

「もう、いらないのですが?」

 シェリーに洋服を見せている二人に言う。恐らく聞いてもらえないだろうが、一応拒否権を発動してみたのだ。

「え?でも冬服はまだ買ってなかったと思う」

 グレイが赤い色の厚手の洋服を手にとっている。

「冬服も必要だよね」

 カイルが白い毛皮のコートを手にして言っている。

「今まで来ていた服があるので必要ないです」

 これ以上はクローゼットの中には入りそうにないのでシェリーは冬服までいらないと抵抗してみた。だが、そんなことは二人は許さない。

「シェリー、約束したよね。シェリーも努力するって」

 カイルはそう言うが、シェリー自身はそのことには頷いてはいない。

「そうだよな。約束だもんな」

 グレイはそう言いつつ別の洋服にも手を出している。
 シェリーは何かと色々動いてはいるが、この国にいる時はほとんど屋敷内で過ごしている。外に出る時は冒険者ギルドの依頼を受けに行くときか、食材を買いに行くときぐらいだが、食材のほとんどはフィーディス商会に運んでもらっているため、食材を買いに出ることもほとんどなく、屋敷内で過ごしているのだ。だから、はっきり言って何処に着ていくのだという毛皮のコートも厚手の外出用の洋服も必要ないのだ。

 なのに次々と手に取った洋服を店員に渡していく二人。今日はこのようにシェリーは抵抗を試みているが、いつもはこれが5人となる。それはもう抵抗する気力も失ってしまうというものだ。

 洋服を精算し、死んだ魚の目をしたシェリーはカイルとグレイに再び両手を繋がれ第三層内を歩いている。両側の二人から次は何処に行きたいかと問われいるが、シェリーとしては、もう帰りたいの一択しかないので、帰りたいという意志を伝えてみるが、両側から却下されてしまった。

 ただ、今日は第三層内で軍服を着た者達がよく目につく。確か第5師団長が第一層のナヴァル公爵家を出ていったのはシェリーが出ていくのと、さほど変わらなかったはずだ。

 行動が早すぎる。いや、もしかして違う事件でも起きているのだろうか。

「今日は蛇人を多く見かけるね」

 シェリーの右手を握っているカイルが、数人の軍人が固まって行動しているのを見て言った。遠目では蛇人は人族と見た目が変わらず、獣人と人族の混成班かと思えば、蛇人が混じっているようだ。やはり、第5師団長が動いているのだろう。

「本当に普通の人と帝国の人を見分けられるのか?」

 もっともな疑問をシェリーの左手を握っているグレイが言った。邪眼といっても本人を目の前にしないと意味がない。この王都に住んでいる人族全てに邪眼を使っては非効率過ぎる。いったいどれ程の人族がこの王都に住んでいると思っているのだ。

 いや、クストがヒューレクレトには直感というものがありそれを侮れないと言っていた。それに新たに第5師団長を据えようとして謎の事件が起こった原因。それはヒューレクレトの執念というべき呪いだったと言われている。ならば、ヒューレクレトであるのなら、全てをあぶり出し。部下に突撃させるという方法がとれるのかもしれないが、シェリーは軍がきっちりと仕事をしていれば、このようなことにはなっていなったと、冷めた目でせわしなく動いている軍人達を見ているのだった。

「シェリー。何か欲しいものある?」

 何も答えないシェリーをいつものことだと気を止めることもなく、カイルが話しかける。

「何もないです」

「それじゃ、その辺りを一緒に歩こう。お店も沢山あるし、見ているだけでも楽しいよな」

 グレイがご機嫌に街の中をぷらぷらと歩いてウィンドウショッピングでもしようかと提案する。

「はぁ、私は帰りたいと言っていますが?」

 シェリーは口癖のようになっている『帰りたい』という言葉を出す。

「でもさぁ、帰ると絶対にあいつらが目を覚まして、うるさいと思うんだ。カイルだけシェリーと番になっているし、シェリーは番の儀式は嫌だって言うし、俺もシェリーと番の儀式したい」

 グレイは表面上何とも無い風に装っていたが、やはりカイルだけシェリーと番の儀式をしたことに不満感を持っていた。だが、シェリーはそんなグレイを一瞥して

「嫌です」

 と一言で済ませた。その言葉に機嫌がいいように装っていたグレイはこの世の終わりかと言わんばかりに項垂れているのだった。

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