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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
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しおりを挟む「レイモンドは先程出てきた人物に心当たりがある?」
イーリスクロムは背後に控えているレイモンドに尋ねてみた。するとレイモンドはビクッと肩を揺らし表情が固まってしまった。どうやら知っているようだ。
「イスラ様なら····」
イスラ。クロードは『イスラ・ヴィエント』といった。それもかなりジジイとい言っていたので、恐らく己とあまり変わらないと言いたかったのだろう。
イスラを知っているというレイモンドは若干震えているようにも見える。
「イスラ・ヴィエントとこの国では名乗っていますが、ヴィーリス国の王族の血を引く方だと先々代のスラーヴァル公爵から聞いています」
「何だって!!あのヴィーリス国の王族?!そんなことあり得るのか?」
イーリスクロムが有り得ないと驚いている。だが、シェリーとルークはラースの公族の血を引いているし、オリバーはグローリアの王族の血を引いている。有り得ない存在が目の前にいたにも関わらず、イーリスクロムは驚いているのだ。
「そのように聞き及んでいるだけで、実際にお会いしたことはありませんので、私には真偽の程はわかりません」
「いや、黒狼が第4師団に付けるようにといったのだから、そういうことなんだろうね。しかし、再び神という存在をこの目で見ることになるなんてね。今回ほど生きた心地がしなかったことはないよ」
イーリスクロムは生きた心地がしなかったと言っているが、星の女神ステルラの目の前で固まっていた本人が言うには表現がおかしくはないのだろうか。
「確かに以前降臨された女神様はやはり神だという存在感を感じましたが、今回降臨された魔神様は何というか畏怖する存在というべきか、同じ空間にいることすらできないという感じでした」
レイモンドは以前王城に降臨した星の女神ステルラと比べ、今回降臨した魔神リブロは比較にならないほどの存在だと言っている。この違いは何か。やはり神としての格の違いだということなのだろう。
それは信仰を得れば得るほど、神々の力は強くなると仮定すれば、頷けることだ。そうなると疑問が出てくるのも必然的。
女神ナディアがこの地に降臨しても、屈伏するように地に伏すものは居なかった。それは光の女神ルーチェも同じことが言える。敬意を示すために頭を下げることはあっても、強制的に身体が地に伏す行動を示すことはなかった。それはなぜか。
死の神モルテにしろ、魔神リブロにしろ、人前に滅多に降臨しない神々は人が矮小な者と知っているが、己の力が人にどれ程の影響を与えているかわかっていないからであった。
「ナヴァル公爵夫人」
イーリスクロムは冷めてしまったお茶を一口飲み、ユーフィアに語りかける。語りかけられたユーフィアは神が畏怖的な存在だったという言葉に首を傾げていたが、声を掛けられて慌てて姿勢を正した。
「国から依頼をしたい。一つは先程言っていた高魔力の発生装置のことだ。この王都は水源はアークの古代遺産である魔道具で保っている。これは外部に知られていはいけない重要事項だ。それはこの魔道具が破壊されたり盗まれれば、この王都の民はこの地を捨てざる得なく成る」
イーリスクロムは珍しく王としての威厳を···いや、これが本来の王としての威厳のあるイーリスクロムの姿だ。
「これは何処から情報が漏れるかわからないので、情報を漏らさないという誓約を書いてもらうことになるが、その水源を維持する魔道具の作成を依頼したい」
その言葉にユーフィアは首を縦に振り頷く。確かに水がなければ人は生きていけない。
「そして、あの灰色の制御石の解除方法を確立してもらいたい。あの4人とも内側から爆ぜたと報告を受けている。モルディールの者たちはその後何事もなく暮らしているのだから、解決法はあるはずだ」
内側の爆ぜた?それはどういうことだろう。先程のイーリスクロムの言葉では第4師団が始末したという風に捉えられる言葉を言っていたはず。
「はい、その件ですが、聖属性の物を取り込んだ排除方法を模索しています。ですが、今回シェリーさんからの依頼で作成した結界が解除一歩手前までいけることがわかりました。そこで、制御石を強制的に取り外すと凶暴化したように見受けられましたので、そこにヒントがあると思うのです。ですから、その件はもう少し時間が欲しいです」
次元の悪魔で制御石を強制的に取り外すという横暴な行動に出たユーフィアだが、制御石と神経を乗っ取っている物体の関係があるとふんでいるのだろう。そして、灰色の制御石と精神を乗っ取る物体がいない制御石を比べることで何かを得ようとしていると思われる。
「帝国の動きが予想できない今は早めにお願いしたい。あとは第5師団の働きしだいか」
イーリスクロムはここには居ない第5師団のヒューレクレトがどれ程この王都に潜んでいる帝国の者達を引きずり出されるかによると。
そのイーリスクロムの言葉に背後に控えていたレイモンドが反応する。
「私も加わった方がよろしいでしょうか?」
レイモンドは近衛騎士団長である己も帝国の者達を引きずり出す仕事に参加したほうがいいのかと言ってきた。確かにレイモンドはスラーヴァルの者であるが故に、邪眼持ちであるのだろう。しかし、王の護衛としてこの場にいる彼が言うべき言葉ではない。
「え?別にいいよ。第5師団からもスラーヴァルの者と魔眼持ちを借りたいとクストに言っていたことだし、レイモンドはいつも通り王城内に目を光らせてくれたらいいよ」
王という威厳が直ぐに剥がれ落ちたイーリスクロムは王都の中よりもレイモンドには、王城の中をイーリスクロムを探すふりをして、異分子が入り込んでいないかという、いつもの業務をしてほしいと言ったのだった。
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